最近、物件の売却相談が急に増えていると感じます。

「金利が上がってきたので、そろそろ売ろうか」「CFが圧迫されてきたので、急いで売りたい」。理由はさまざまですが、市況が「買いたい」から「売りたい」へシフトしている空気を感じます。

ただ、気になるデータがあります。もしかすると、高値で売却できるチャンスは、私たちが思っているほど長くは残っていないかもしれません。

売出価格と成約価格、広がる「ワニの口」

ここ数ヶ月、「売出価格」(売主が希望する価格)と「成約価格」(実際に買主が支払った価格)の乖離が拡大しているというデータが出ています。

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の月例データによると、首都圏の中古マンションの売出価格と成約価格の乖離は、2026年に入り3割近くまで拡大しました(ダイヤモンド不動産研究所の分析より)。2025年2月時点では10.8%程度だった乖離が、2026年には27%台まで急拡大しており、この現象は「ワニの口」とも呼ばれています。

時期売出価格と成約価格の乖離
2025年2月約10.8%
2026年1月約27.6%
2026年2月約27.1%

つまり「不動産が高騰している」と言われる一方で、実際には「売れたらラッキー」という強気の価格で売りに出されているだけで、実際の成約価格はそこまで伸びていない可能性がある、ということです。中古戸建てのデータでも同様の傾向が見られます。

「売れない」が業者の資金繰りを直撃している

その裏付けとなるのが、不動産の代理・仲介業者の倒産件数です。

帝国データバンクの調査によると、2026年1〜8月の不動産代理・仲介業の倒産は86件。前年同期の87件と同様、高水準で推移しています。このペースで推移すると、2026年通年では約130件程度が見込まれ、過去最多だった2025年(133件)に迫る水準です。

高値をあてこんで物件を仕入れた転売業者は、売れなければ仕入れ代金を回収できず、借入金の利息だけが積み上がっていきます。

これは中古区分マンションや中古戸建てに限った話ではありません。「売主の希望価格と、買主が実際に出せる価格が合わない」という現象は、一棟アパートやマンションでも同様に起きていると考えられます。

金利上昇が、買い手の「出せる価格」を下げる

そして、ここに追い打ちをかけているのが急激な金利上昇です。

日本銀行は2026年9月17〜18日の金融政策決定会合で、政策金利を現在の1.0%程度から1.25%程度へ引き上げる方針だと報じられています(2026年9月8日、共同通信)。実現すれば、約31年ぶりの高水準となります。

金利上昇は、物件オーナーだけでなく、これから物件を買おうとする人にも大きな影響を与えます。たとえば、5年前に利回り7%・8,500万円で購入した物件(年間家賃収入600万円)があったとします。

もし利回り6%で買いたいという人が現れれば、価格は1億円で売却できる計算になります。ところが、買い手が銀行に相談すると、以前より提示金利が高く、想定していたほどCFが残らないことが分かります。その結果、買い手は「利回り8%は欲しい」と考え、同じ家賃収入600万円でも提示額は7,500万円まで下がってしまいます。

売出価格と成約価格の乖離が拡大しているという現象は、すでにこうした値引き交渉が水面下で起き始めていることの表れかもしれません。

売却を検討している人が、今すぐ確認したいこと

  1. 自分の物件の現在の利回り・家賃収入を、最新の数字で棚卸しする
    「買った時の利回り」ではなく「今の家賃収入で見た利回り」を基準に考えましょう。
  2. 想定売却価格を、複数の利回り水準でシミュレーションする
    買い手の融資条件が厳しくなれば、要求される利回りは上がります。強気の利回りだけでなく、1〜2%高い利回りでの価格も試算しておきましょう。
  3. 「様子見」のコストを意識する
    金利がさらに上昇すれば、買い手の予算はさらに下がります。様子を見ている間に、出口そのものが狭くなるリスクを織り込みましょう。

よくある質問

Q. 今後、不動産価格はさらに下がりますか?
A. エリアや物件種別によって差はありますが、金利上昇が続く限り、買い手の予算は下がりやすくなります。売出価格と成約価格の乖離データは、今後も定点観測しておきたい指標です。

Q. 売却すべきか保有を続けるべきか、判断基準は?
A. 一概には言えませんが、現在のDSCR(返済余裕率)が低い物件、金利上昇でCFが赤字転落しうる物件は、優先的に売却を検討する価値があります。

まとめ

「今回が本当に最後のチャンスなのか」は、正直なところ誰にも分かりません。物件やエリアによっても事情は異なります。

ただ、金利上昇によってCFが圧迫されてから「売ろう」と思っても、その頃には買い手の融資条件も変わり、出口が狭くなっている可能性があります。「様子を見る」ことにもコストがあるという視点を、頭の片隅に置いておきたいところです。

以前の「マンションの短期転売への重課税」の記事でも触れましたが、税制・金利の両面から、売却をめぐる環境は年々変化しています。次回は、実際に高く売るためにどんな準備をすればよいかを整理します。

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