2006年05月15日

韓国拉致被害者家族会代表 崔成竜氏に聞く

a9d4598f.jpg
拉致被害者救出の課題と見通し
韓国拉致被害者家族会代表 崔成竜氏に聞く

 北朝鮮により拉致された横田めぐみさんの父・滋さんが十五日から訪韓し、めぐみさんの「夫」である可能性が高い韓国人拉致被害者、金英男さんの家族らと初めて面会する。拉致解決へ“日韓共闘”の雰囲気がいや応なしに高まる中、本紙は、早くから金英男さんの問題に取り組み、韓国拉致被害者家族たちの実質的な責任者でもある崔成竜・拉北者家族会代表(54)にインタビューし、支援に至った経緯や救出活動の課題、今後の見通しなどを聞いた。
(聞き手=ソウル・上田勇実、写真も)

横田めぐみさん・金英男氏の救出問題
数奇な因縁、日韓で共助を 北支援には相互主義が必要

 ――めぐみさんの父、横田滋さんの訪韓では何が話し合われるのか。

 滋さんと金英男さんの母、崔桂月さん(78)ら双方の家族が、めぐみさん、英男さんの拉致の事実が表に出てから初めて会う場は、拉致解決を国際社会にアピールする場でもある。お互いに少年少女時代に拉致されたという共通の痛みがある。しかも結婚して子供までもうけたのだから、これほど数奇な因縁もないといえる。もし私が日本語ができたら、滋さんに直接、「足掛かりはできたので努力し、少しでもお手伝いしたい」と言いたい。

 ――金英男さんの問題に早くから取り組んできたと聞く。

 金英男さんは私の後輩だ。同じ町内で育ち、英男さんと彼のお姉さんとは一緒の学校に通い、親しかった。私の父も漁業をやっていた一九六七年に北朝鮮に拉致された。

 父は昔、反共活動が盛んだった平安北道定州で治安隊長をしていた当時、たくさんの共産主義者を取り締まったことがあり、拉致された後、それを問題視され、人民裁判に引かれて行き、公開処刑された。私自身にも英男さんの家族と同じ痛みがある。

 ――被害者家族会の代表としてどのような活動をしてきたのか。

 二〇〇〇年から約百人の拉致被害者と北朝鮮に捕虜となった元韓国軍兵士二十人に関する生死確認を行い、拉致被害者四人の韓国帰還を助けた。また韓国に残され高齢になった数多くの被害者家族に会っては話を聞き慰労した。一緒に断食し、一緒に泣いたこともある。

 一番心が痛むのは、自分の夫、子供が生きているのか死んでいるのか分からないまま他界していく家族たちだ。私も被害者家族の代表をしているが、問題が解決できなければ代表ではない。

 ――この問題で韓国政府は積極的ではないという指摘もあるが。

 韓国政府の誤りは、韓国にいた非転向長期囚を「人道的見地」という理由で北朝鮮に送還しておきながら、拉致被害者の返還にめどを付けるという約束を守らなかったことだ。政府に対し、日本政府のように支援してくれたら五百人近くいる拉致被害者を全員韓国に連れ戻すことができる、と迫ったこともある。

 ただ国家人権委員会が〇四年三月、私の陳情を受け入れて拉致に関する特別法を制定するよう国務総理と国会議長に勧告し、統一省の中に特別調査チームが発足するなど、前進もみられる。

 ――拉致解決に向けた日韓の連携は本格化するか。

 特にめぐみさん、英男さんのケースは当然、両国が共助すべきだ。しかし、日本が進めている対北経済封鎖まですることには賛成できない。日本にとって北朝鮮は他国だが、韓国人にとっては同じ民族であるため、強硬策に対する共感がなかなか得にくい。日本は政府と国民が一丸となっているが、韓国はさまざまな方法論があって一つにまとまっていないという問題もある。

 ――それでは韓国として北朝鮮にどう対応すべきなのか。

 金正日総書記は、小泉首相が二度目に訪朝した際、「どうして家族が離れ離れでいられるでしょうか」と語ったが、韓国に対しては「拉致はない」と繰り返す。しかし金英男さんの件が北朝鮮に与えた影響は大きい。私の母は生前、「北は譲歩したら付け上がるだけ。譲歩せず、向こうが要求してきたら、こちらも要求すべきだ」とよく言っていた。コメなどを支援する際に拉致問題にリンクさせる相互主義が必要だと思う。

 ――今後の見通しを。

 今月末には韓国政府が日本とは別途に行っているDNA鑑定の結果を発表するが、「めぐみさんの夫は韓国人拉致被害者の金英男氏」という日本政府の結果と同じであったとしても、その意味合いは違う。自国民が北に拉致されたという客観的事実を政府が自分の口で認めるということは、政府として問題解決に向け実行しなければならないからだ。

 最近、韓国政府は拉致問題をめぐり北と非公式協議を重ねているようだ。生死確認を前提に対話を進めれば解決の糸口が見えてくる可能性もある。来月の金大中前大統領訪朝で、支援と絡めた被害者送還が実現するかもしれない。

(5月14日付け本紙掲載)

韓国・北朝鮮/ワールド・スコープ


この記事へのトラックバックURL