2011年04月30日

北朝鮮—熱意がなにも見えない

asahi.com(朝日新聞社):社説
 北朝鮮が、韓国との首脳会談や米国などとの協議を提案するのは、もちろん悪いことではない。だが既視感が強くて、新鮮な驚きもなければ、そもそも、熱意が全く伝わってこない。

 大方の受け止め方ではなかろうか。訪朝したカーター元米大統領が持ち帰った金正日総書記のメッセージのことである。

 カーター氏といえば、1994年の北朝鮮の最初の核危機で平壌に乗り込んだ。当時の金日成主席と会談し、危機回避につながる米朝枠組み合意への道筋をつけたほか、初の南北首脳会談開催の提案を引き出した。

 しかし今回、金総書記は会わなかった。このメッセージも、空港に向かったカーター氏一行の車を宿舎に呼び戻し、外務省高官が読み上げたものだ。

 異例の接遇は、北朝鮮が狙うように軟化して動いてくれない米国や韓国への怒りからかもしれない。自身の健康不安と経済危機による焦りもあろう。

 そういう手詰まりは自ら招いたものでもある。

 過去2回の韓国との首脳会談でも、広範な協力に合意しながら、中断したり、手付かずの事業が多かったりしている。ほとんどは北朝鮮が約束を果たしていないからだ。

 そして昨年、北朝鮮製の魚雷攻撃による韓国軍艦の沈没と、島への砲撃事件が続いた。北朝鮮側はカーター氏に、二つの事件の責任はなお認めなかったという。

 これでは、動くものも動かない。北朝鮮が真摯(しんし)で真剣な姿勢をとることが出発点になる。

 私たちが忘れてはいけないのは、北朝鮮の核危機が現在進行形であるということだ。

 国際原子力機関はおろか、外からの何の監視も受けぬまま、ウラン濃縮施設を造ったり、実験用軽水炉を建設すると公言してそれらしき作業を見せたりしている。

 これは、放ってはおけない問題だ。当座の危機回避策としての施設凍結と外からの検証受け入れ。6者協議の合意に基づくこの段階へ、北朝鮮をまず戻す必要がある。

 それには、6者協議を構成する国々の知恵と粘り強い外交が欠かせない。

 韓国政府は、軍艦沈没と砲撃によって多くの犠牲者を出しながらも、北朝鮮の非核化の進展と、二つの事件の責任追及とを直接は絡ませないという苦しい決断をした。

 日本や米国はもちろん、中国とロシアも、そういう韓国に思いを寄せながら、北朝鮮を動かす戦略を考えねばならない。



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