カミユの「ペスト」とオラン

コロナ禍のおかげで売れているカミユの「ペスト」を読みました。学生時代に読んだはずですが、ほとんど覚えていないことに気が付きました。当時は、サルトルやカミユが大流行り。誰もが手に取ったものです。流行りものに弱い私は、早速読んだはずですが、カミユについては、「異邦人」の印象があまりにも強烈だったので、「ペスト」はおそらく途中で放り投げてしまったのでしょう。今、読んでみると、閉鎖された都市における人々の暮らしや行動が生き生きと描かれていて、まさに現在の世界の状況を予言しているようです。

「ペスト」の舞台となったオランという町を訪れたことのある日本人はあまりいないのではないでしょうか。たまたま私は、半世紀以上も前、アメリカ留学の帰りに夫と立ち寄りました。オランに行ったのは、まったくの偶然でした。ロスアンゼルスの総領事をしていた瓜生復男氏が、アルジェリアの大使をしていたので、遊びに来ないかと誘われたのがきっかけでした。当時、アルジェリアでは世界青年平和友好祭が開かれることになっていました。しかし、東西冷戦のあおりを受けて、突然、開催が中止になってしまいました。奥様は日本に帰国中で、暇をもてあましていた大使からは大歓迎され、公邸に泊めていただき、ナイトクラブにも連れていっていただきました。その時、飲んだアルジェリアの白ワインがとても美味しかったのを覚えています。飲みなれたカリフォルニアワインに比べると、とても濃厚で、日照時間の長い土地のブドウは糖度が高いことが実感させられました。

北アフリカからヨーロッパ大陸に戻るのに、チュニスからシシリーに向かう船を予約しました。その船は、週に1,2回しか出ていません。お金はないけれど、時間はたっぷりあったので、何となくオランに立ち寄ることにしました。「ペスト」の中でカミユは、オランを「なんとしても、みすぼらしい、見たところただ平穏な町」と書いていますが、人があふれかえり、喧騒につつまれた首都アルジェに比べると、とても落ち着いた穏やかで清潔な町という印象でした。カミユが舞台をアルジェではなく、オランに選んだのはロックダウンするのに適切な規模の町だったからではないかと思います。アルジェでは大きすぎて、人々のまとまりがなく、とうてい都市封鎖をすることなどは不可能でしょう。

あてもなくオランの町を歩いていると、地元の青年が近づいてきて話しかけてきました。あちらはフランス語、こちらは英語でらちがあきません。しばらくすると、ついてくるようにと身振りで示しました。悪い人でもなさそうなので、ついていくとアメリカンセンターにつきました。おそらく青年は、私たちをもてあまして英語の話せる場所に連れて行ってくれたのでしょう。アメリカンセンターは、第二次大戦後、アメリカ民主主義を広めるために世界各地につくられました。これがCIAの一環で、諜報活動もしていたことを知るのは、大分後になってからのことです。

オランのアメリカンセンターの所長はピエール・ピンジトアという30代後半くらいの美青年。名前から推察されるようにフランス系のアメリカ人。あまり仕事もないらしく暇そうで、突然現れた私たちを歓迎してくれ、アパートに泊めてくれました。奥さんはフランス系のカナダ人。ゆっくりとした甘ったるい英語を話すのが特徴でした。二人の間には、天使のようにかわいらしい3歳くらいの男の子がいて、彼ら一家とビーチに行きました。緑がかったブルーの海がとてもきれいでした。彼らの家で、生まれて初めてオマール海老をご馳走になりました。東京のフレンチレストランでは、高い値段で供されるオマール海老が、大皿に山のように盛ってあったのが忘れられません。

オランは、アルジェに次ぐ、アルジェリア第二の都市ですが、とくに見るべきものは何もありません。観光客が訪れたとしても、すぐに飽きてしいそうです。オランのような平凡で平穏な町であるからこそ、人々は都市封鎖を生き抜くことができたのでしょう。アルジェが舞台であれば、大混乱や暴動が起こってもおかしくありません。東京が都市封鎖しなかった(できなかった)のは、都市の規模や人々のライフスタイルにもあるような気がします。














9月入学について

新型コロナウィルスの感染拡大のため、休校が続いています。急遽オンライン授業が始まりましたが、準備不足でなかなかうまくいかないようです。パソコンやルーターのない学生への対応に大童。そこで起こったのが新学期を9月から始めるという提案です。

9月入学については文部科学省が文部省であったころから、それこそ何十年も議論されてきましたが、実現への道は遠そうです。あの東大が試みようとして失敗したのですから、よほどハードルが高いのでしょう。私は、個人的には9月入学には賛成です。国際基準に合わせるためと言うよりも、9月入学ならば、大雪やインフルエンザにたたられる1月よりも、もっと気候の良い時期に共通試験(旧センター試験)を実施できるからです。

9月入学を行っている大学はいくつかあります。私の出身校であるICUは、帰国子女や外国人が多いので、以前から9月入学をしていました。あまり規模の大きくない大学ならば、1年に2回、4月と9月に入学させても支障はないでしょう。年に2回受験のチャンスがあれば、浪人生にとっても経済的負担が少なくて済みます。しかし、学生数の多い大学では、他の事業との調整もあり、その実現は容易ではないかもしれません。一つの提案として、4月と9月で入試の方法を変えるてはどうでしょうか。一か所に多人数を集める受験は年に1回にして、もう1回は書類選考や面接のみということも考えられます。

このどさくさに紛れて、小中高のレベルまで9月入学に切り替えることには賛成できません。もう少し時間をかけて、そのメリットとデメリットを見極める必要があります。できれば、文科省で過去にどんな議論があったのかを提示してほしいものです。とりあえず大学の9月入学から始めることを勧めたいと思います。国際的に見て、日本の大学のレベルは年々低下しています。事実、日本に来る留学生の多くは、欧米の大学に入れなかった人が少なくないと言われています。優秀な留学生を惹きつけるためにも、9月入学は是非進めてほしいものです。

本屋に行こう

私がお気に入りの散歩コースは二つ。一つは一口坂を上って左折し、靖国神社を抜け、大鳥居から坂を下って飯田橋駅に出て外堀通りを戻るコース。もう一つは、一口坂を上って右折し市ヶ谷駅に出て坂を下り、外堀通りを戻るコースです。

前者は6000歩あまり、後者は3000歩あまりです。靖国神社では、裏手にある日本庭園のほとりにあるベンチに座って日向ぼっこをしたり、池の鯉をながめるのがお決まりでしたが、今は柵が設けられていて、裏手には出られないようになっています。靖国神社では、第二次大戦で戦死した若者たちの遺書を手にします。これは毎月更新されていて、英文もついています。特攻や南の島で命を失った20~30代の若者たちの無念の思いに胸をうたれます。先日は、昭和20年8月17日に自決した30代の遺書に遭遇し、こんな人にまで戦に負けたことの責任を取らせてしまう洗脳の恐ろしさを痛感いたしました。彼の職種は薬剤師とありましたから、自決しないで、戦後の経済復興を目にし、専門を生かすこともできたはずです。


二つのコースには、いずれも本屋とスーパーがありますので、途中で寄って文庫本を2,3冊、そして食料品を購入して帰ります。飯田橋駅近くのビルに入っている本屋は、緊急事態宣言の後、ビル全体が閉鎖されてしまったので、今は行かれません。駅近くの雑居ビルにはブックオフがあり、以前はここにも立ち寄っていましたが、古本屋には自粛要請が出されたため、ずっと閉まっています。新刊書店よりも古本屋のほうが、感染の確率が高いというわけでもないのに、なぜ古本屋がだめなのか疑問です。

現役の頃は忙しくて、本屋に行く暇がなく、ほとんどアマゾンで購入していました。午前中に注文すると夕方には届けてくれるという便利さ。締め切りに追われているときには、大変に助かりました。今では、そういうこともなくなったので、それほど急いで手に入れる必要もありません。即日配達してくれるプライム会員もやめることにしました。本屋に出かけることのメリットは、日頃あまり目にしなかった書物に出会えることです。もし本屋で手に取ることがなければ、中国のSFを読んでみようという気にはならなかったでしょう。先日は、松山巌の「須賀敦子の方へ」(新潮社)を購入しました。須賀敦子は「ミラノ 霧の風景」や「コルシア書店の仲間たち」を読んで、その流麗で味わいのある文章に惹かれていましたが、彼女自身について知りたいというほどのファンではありませんでした。彼女自身の生い立ちや背景、そして文学への取り組みなどを知ることによって、もう一度読みなおしてみたいと思うようになりました。

新型コロナのせいで、多くの業者は苦境に立たされていますが、書籍は売上が伸びているようです。一月あまり前、市ヶ谷駅近くの書店に向かっていたら、後ろを歩いていた若い女性二人組が、「行くとこないから、本屋に行こう」と話していたのに嬉しくなりました。いつもはがらがらの書店ですが、コロナ騒動以来、かなり人が入っています。以前はレジも空いていましたが、最近では、床に貼ったシール上に並ぶ人が5.6人。なかには、家族づれもいて、買ってもらった本を大事そうにかかえている子どももいました。

近年、書籍の販売が大幅に下落していると言われていますが、コロナを契機に本が売れるようになることを願っています。



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