日刊ゲンダイさんに『マゾ女のキス』という連載を書かせていただいている。
毎週水曜日掲載ですが、一回の原稿のためにたっぷりネタ出しをして、それを副編集長さんが抜粋して編集してくださる。
つまり、私は自由に書かせてもらっているんです。

こんなの初めて。
駆け出しの40歳そこそこの頃とはちがって、私の体験じゃなくていい、知っていることをどんどん書いていいと言われて……
二十歳のころ、エロ本を買う勇気がなくて澁澤龍彦さんや塩野七生さんの本から必死で妄想を掻き立てていた。
その頃買った本を紐解き、奔放な性を謳歌したルネッサンスの女たちの性生活を紹介したり……
津山三十人殺しを描いた映画『丑三つの村』から、赤松啓介さんの『差別の民俗学』を調べて夜這いについて書いたり……
なんだかワクワクする。

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テレーズ・カバリュス

求められるままにあらためて調べて、発見の連続。
今日知ったのは、フランス革命の終焉となったテルミドールのクーデターの発端は、テレーズ・カバリュスという女性の投獄から始まったということ。
彼女はなんとこの時、後のナポレオン夫人となるジョセフィーヌ・ド・ボアルネと「監獄での同級生」だった。

テレーズはセフレに手紙を(一度ならず何度も書いて!)「クーデターを起こして私を救出しろ」と言い続けた。
セフレのタリアンは真面目以外に取り柄のない書生さんだったんだけど、根負けするように彼女の言う通りにしてロベスピエールを失脚させ、革命を終結させたということらしい。
一方、ナポレオンはテレーズに惚れていたんだけど振られてジョセフィーヌと結婚した。

彼女たちの性的な話は来週のゲンダイのネタばらしになってしまうので省略します。
すごいなあと思うのは、タリアンはその後失脚したし、ナポレオンも失脚した。
この獄中同級生な二人、現実にはジョセイフィーヌが十歳上だが、どうもテレーズがお姉さん格でジョセフィーヌが妹分という感じがする。
男たちは失脚したけれど、彼女たち二人の人生はそれでも色褪せなかったのだ。

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ジョセフィーヌ・ボナパルト

ジョセフィーヌは死ぬまで「フランス皇后」の称号をはく奪されず、年金も充分にもらい、テレーズから払い下げで回ってきたナポレオンと結婚したとはいえ、「ボナパルト、ローマ王、エルバ島…」と呟いて亡くなったとされ、ナポレオンの最期の言葉は「フランス、陸軍、陸軍総帥、ジョゼフィーヌ…」だったそうだから、生涯を通じて愛に充たされた幸せな女性だったと思う。

姉御肌のテレーズはその後も男を乗り換えて(私が読んだ範囲でも夫らしき男性が5人出てきた)、いつまでも政治とファッションの中心に居続けた。
最後の結婚後の30年間は穏やかな生活を送り、
「若いころのことは小説みたいだわ」
と振り返っていたそうな。
彼女も生涯を通じて「テルミドールの聖母」と呼ばれ続けた。

遠い国の三世紀も前の女性の一生の、ほんのわずかな足跡をたどったに過ぎないのだけれど、
「よかったわね。二人ともカッコいいわ」
と囁きたくなるような、本日の原稿書きであった。