紅子さんが私にききました。

「神田さんはもともと文章を書くことがお好きだったのですか?」

私は正直に答えました。本日、フェチフェス24のブースでの会話です。

「ううん、あまり得意ではなかったですねー。紅子さんは写真がお好きでしたか?」
「普通の人が写真を好きという意味で、は好きでしたけれど…」

ああ、この人も正直だ、そして丁寧にことばを探す人だなと思いました。
すごく、伝わる。

そして私たちは、撮影や執筆の力量よりも、自分だけのテーマが見つかることが大切なんじゃないかな、と話し合いました。

紅子さんは日本中の色街を訪ね歩いて写真を撮っている人です。
吉原のソープ嬢だった紅子さんが、北海道から沖縄まで、ある限りの色街の建物を撮って、「紅子の色街探訪記」という美しい写真集を出しました。
昨秋のことです。

81oZQ-pvItL._SL1500_


私は迷わずこの本を買い求めました。
なんとなく、この本は孫のために買っておこうと思いました。

昨年生まれたばかりの孫が大きくなる頃には、この写真集におさめられた色街の建物のいくつかはなくなっているかもしれない。
遊郭ということばを知らずに大きくなるかもしれない。

そのときに、パソコンで検索すれば遊郭ということばの意味はわかるだろうけど、それはわかったように見えるだけで、実は全然わからないだろうと思った。

でも、紅子さんの写真集を婆あ(私)の書棚に見つけたとしたら、遊郭にモダンで美しいステンドグラスが飾られていたことや、大きな看板が軒を連ねるソープ街が全国のあちこちにあったことや、大店の日本建築の美しかったことを知るかもしれない。
それは検索して知識を得ることとは別の、感じることである。

知識はしょせん文字列だけれど、感じたことはもっと身の奥に沈殿してくれる。
そういうものが人間の、生きる力になっていく。
そういうものが平凡な人間の人生を、少しは面白く彩ってくれる。

男の人が女の人と遊ぶ店には、どうしてこんな美しい絵ガラスがふんだんに使われていたんだろうと、孫にはちょっと驚いたりしてもらいたい。
男の人は何を求めて夕暮れの街を歩いていたんだろうと、想像してもらいたい。

紅子さんが写真をはじめたのは48歳、私が緊縛モデルから文章を書き始めたのが38歳のとき。
自分だけのテーマが見つかったら、何歳からでも表現をはじめることができるんだと、そのことも知ってもらいたい。

紅子さんの出版記念展示が1/23〜2/4、吉原のモアレホテル吉原で開催されます。
1/28にはカストリ書房の店主・渡辺豪さんとのトークもあるそう。
ホテルでの写真展示を今から楽しみにしています。