野口整体を学ぶ者にとって「野口晴哉著作全集」は、数多ある著作物の中でも、金字塔と呼べる代物だろう。


私は、過去二回ほど全巻保有していたが、金に困った時に、背に腹は代えられぬと、両方とも売り払ってしまったのだ。


あまり過去に執着しない私でも、こればかりは、かなり後悔していた。


最近は、やたら市場に溢れていて、高値では百万を越す価格が古書店で付いているが、見つけやすくはなっても、高騰してしまい、決して安い買い物でなくなったのは確かだ。


私には、コレクション癖があるので、その都度スペシャルな出会いに運命を感じるが、一度手放したモノに関しては、二度同じ商品を買わない主義である。


「野口晴哉著作全集」を二回手にした時も、一度目は半端ない格安で、二度目は未使用品がたまたま定価で出ていたから、保存用として手を出したに過ぎない。


だから、昔から「バスと女は追うな」の格言どおり、自分から手離したからには、追わないと決めてこれまでやって来た。


追っても「必ず置いてけぼりを食う」からである。


しかし、整体を学ぶ者にとって「野口晴哉著作全集」以上の資料は、この世に存在しないのもまた事実である。


そこで、私は自分の信条を変えずに、手に入れるにはどうしたら良いかを考えた。


あまり知られていないが、整体協会が運営する全生社から出版された「野口晴哉著作全集」には、二種類のタイプが存在する。


そもそもが会員向けの限定生産本なのだが、さらに豪華な「総革特装本」「箱入上製本」の二種類が存在するのである。


最近は、バラで特装本を見かけることもあるが、昔は存在すら知らず、全巻揃いとなると、現在でもなかなかお目にかかれない。


野口晴哉著作全集(以下→全集)は、全十巻(十一冊)で構成され、その全てが同じ価格ではないのだが、例えば第十巻の後期論集では、上製本の定価は二万三千円だが、特装本は三万五千円とさらに高額となっている。


ちなみに上製本の表紙は麻布クロスだが、特装本はヌメ革で製本されており、貴族仕様の豪華な作りとなっている。


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「総革特装本の野口晴哉著作全集」


函(箱)にも、差別化がなされており、特装本は出し入れがしやすい、やや艶のある紙が使用されている気がする。


そして、全体的に白く、統一性があり、逆に上製本の函色は、何か意図があるのかと思うほど、バラバラで揃わない。


上製本の函に関しては、数回出し入れしただけでめくれてしまう粗末な作りなので、一度でも函から抜けば紙が破れ、めくれてしまうのだ。


特に、麻布クロスとの相性が悪く、こればかりはいただけない。


もし購入を考えている人がいたら、函の状態は無視して構わないだろうと思う。


全生社の製本技術は、他所と比べてもレベルが高いので、何故このようなことになったのか、甚だ疑問だ。


また、些末なことだが、扉のデザインにも違いが見られた。

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「扉構成の違い。上が特装本。下が並装版」


全集とひと口に言っても、特に価値が高いのは、第一巻~五巻の中期論集あたりなので、後期に関しては現在「全生社」で売られている著作で十分読めるから、内容重視派ならば、無理して全巻コンプリートする必要はなかろう。


特に技術を求めるなら、整体操法協会時代の中期論集、第三巻、四巻、五巻(上下)さえ手に入れれば、幻の「整体操法読本」の全てを現代語で読めて、さらに野口整体の心理療法に関しても、現在刊行されていない核心部分が学べる。


内容の殆どが会報誌「月刊全生」の前出である「全生新聞」より纏められた記事なので、大量の編集に携わった、野口昭子夫人の苦労が垣間見えるというモノだ。


過去記事『会報の前身「全生新聞」』



此度、いや、正確には三度目の「野口晴哉著作全集」を、私はやっと手に入れた。


しかも今度は、長らく探していた特装本である。


正直、上製本の全集を所有していた頃は、硬いし、重いし、読むには気合いがいった。


汚れそうなので、弟子に読ませるのも恐る恐るだった。


しかし、今回手に入れた特装本のヌメ革表紙は、柔らかいため扱いやすく、辞書を引く感覚で気軽に読めるのが素晴らしい。


本の状態としては、安価だった為、お世辞にも良いとはいえない代物だったが、却って遠慮なく熟読出来るというモノだ。


もしかしたら、やたらこの全集が出回るようになった背景には、コロナ禍や災害の影響も、少なからずあるのかも知れない。


焼け、ヌレ、シミなどから察するに、何らかの被害があったのかも知れぬ。


これから益々、異常気象に見舞われるのは必至だし、このような貴重図書も、毎年少なからず失われて行くのだろうと思うと、残念でならない。


最後に、昭和五十七年刊行の「月刊全生」より、「野口晴哉著作全集」刊行のお知らせを見つけたので、紹介して締め括るとしよう。

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<おわり>