2009年03月

2009年03月31日

ウォッチメン ★★★★★

公式サイト

ミニッツメンの誕生から崩壊までを、コミックと実写映画を融合させるべく仕組まれた、トリッキー且つシュールにコミカルな擬似静止画にてノスタルジックな紙芝居の様に見せていくオープニングから一気に引き込まれ、ニヤニヤとワクワクが止まらない状態に。アメコミヒーローを客観視すると変質者の公開オナニーにしか見えないという一側面を、戯画化した現実世界において、「正義」なる言葉が持つ不確実性や危険性を現実的に描く、原作の方向性を、実写化によって一層に顕著となるべく作り込んだ、ザック・シュナイダーのメディア変換センスには脱帽。

同監督のこれまでの仕事、『ドーン・オブ・ザ・デッド』は世界中に信者がいる『ゾンビ』のリメイクで、『300』もマニア間で傑作と評価の高いコミックの実写化。そして今回はアメコミ史を語る上で絶対に外せない、最高傑作とすら呼ばれる作品の実写化。と、元が偉大な作品である難しい仕事ばかりを任され、そのどれも傑作映画に仕上げているのだから鬼才すぎる。

次の仕事として噂されている『ダークナイト・リターンズ』の映画化も期待したいが、個人的には本原作と同じく『Mr.インクレディブル』の元ネタにもなった『キングダム・カム』を『ジャスティス・リーグ』より先に映画化してほしいものだ。ちなみに、フランク・ミラーによってバットマンの「仮想最終回」として本原作と同時期に発表されたコミック『ダークナイト・リターンズ』が、昨年の映画『ダークナイト』とはストーリー的に全く別物である事は、アメコミ読みなら日本人でも常識なので、知ったかぶりをすると恥をかく。閑話休題。

登場するヒーロー達が皆、クセがあるのを通りこして精神や性癖が歪んだキチガイばかりな世界観も、キャラ造型と描写の的確さによってしっかり表現。一番マトモっぽく見える二代目ナイトオウルですら、ヒーローとして活躍する自分こそが本当の自分だとばかりにインポが治ったりする。完璧超人に見えるマンハッタンは、その完璧さ故に脆さが露呈してしまう、などいちいちの皮肉を悲喜劇として展開。ヒーロー達がそれぞれ信念に従って行動し、導かれ集結した先にあった真相がまた、全人類を巻込んだ最大の皮肉だった、とのアイディア自体は、実は日本の漫画などでもそう珍しくはないが、そこに至るまでの作劇と構成が見事すぎるのが本作の評価点。

バットマンと同じく鍛えた生身の人間にすぎない、マンハッタン以外のヒーロー達が、グラップラーバキに登場しそうなレベルに戦闘力が高く描かれている映画版オリジナルの改変は、これは「腐ってもヒーロー」であると明示されるギャップから、その場における少なからぬカタルシスを感じさせる娯楽性、との側面でまず成功。スロー&クイックを駆使した緩急とキメを心得た、アクション設計のセンス高さには『300』同様シビレる。そう言えばコメディアンを突き落とすくだりの演出は、「This is SPARTA!!」を想い起こさせもする。

だがチンピラ相手のケンカには無双圧勝できようが、火事から人々を救出できようが、人類レベルの危機には結局、見て見ぬ振りをするしかない、との皮肉が強まる効果にも表れている。ナイトオウル達が行うミニマムな正義と、オジマンディアスが行った計画の双方が、実際に救われる人はいるものの根本的な解決ではなく現実的な対症療法にすぎないという相似形によってもまた、現実のジレンマが痛感出来てしまうのだ。

必要以上にグロく痛々しい描写が多いのは、スピルバーグやPJ、ライミらと同様天才キチガイ監督一流の趣味嗜好の現われとして楽しんでおいた方が得だ。無駄に長い(笑)セックスシーンも同様。あるいは「現実」から目を逸らすなとのメッセージでもあるのだろう。

最終計画に用いる「脅威」自体を原作とは変えたのは、ストーリー的な唐突さを回避する上でも正しい。だが、そのせいでオジマンディアスが飼っていた謎生物の存在意義が薄れるなど、ところどころに(原作からの)消化不良的な要素が散見されるのが、残念と言えば残念。

しかし、原作の基本テイストを極力損なわず、原作未読でも理解出来るわかりやすさに苦心し娯楽性も高めた、ザック・シュナイダーだからこそ成し得た見事な仕事に、心の底から敬意を表す。マンハッタンの演じ手は撮影中に実物をブラブラさせてたんだろうか、などと想像しても楽しい。日本では同日公開された『フロスト×ニクソン』とのリンクも興味深い。



tsubuanco at 15:57|PermalinkComments(6)TrackBack(7)clip!映画 

2009年03月28日

2009年3月第4週 劇場鑑賞映画

ウォッチメン ★★★★★
ナットのスペースアドベンチャー3D ★
いのちの戦場 -アルジェリア1959- ★★★
我が至上の愛 〜アストレとセラドン〜 ★
フロスト×ニクソン ★★★
PLASTIC CITY ★
相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿 ★★

計7本 累計127本

tsubuanco at 23:43|PermalinkComments(6)TrackBack(0)clip!映画 

2009年03月27日

イエスマン “YES”は人生のパスワード ★★★★★

公式サイト プラデラレビュー

今どきジム・キャリーでしかも自己啓発っぽいネタというのはどうか。と舐めてかかってたが負けた。面白い。ちょっとした小ネタからストーリーに関わる部分まで、あの手この手で笑わせのネタが張り巡らされた脚本がまず秀逸すぎる。『ライアー・ライアー』と似ているが全く衰えず。トンデモ論に振り回される男、との観点では『ナンバー23』とも共通するが、振り回されるだけで終わらない本作の方が、圧倒的に出来がいい。

手当り次第に受けた習い事を、まず「そんなの覚えてどーすんだ」と失笑させ、それが意外なところで役に立つ段階で感心させると共に、その「役立ち」がストーリー進行だけでなくギャグにもしっかり使われて笑わせ、今度は一転して主人公をピンチに追いつめる要因になり、そしてその時にもやっぱり笑える。との徹底ぶり。ウッカリ韓国語でヒロインに話してしまうくだりでは耐えきれず爆笑してしまった。

メインの一つとなるラブストーリーもまた、「イエス」の結果としての好転の連続で気持ちよく見させておいて、真相を彼女が知った時に、その「イエス」こそがピンチの要因となる。と、一つの事物を多面的に活用しまくる、いちいちの伏線と収束が見事。

ハリポ→300と反復進化する上司のコスプレや、バイクでカッコ良く激走→後ろから見るとケツ丸出し、など、展開のいちいちに、いちいち的確にチョイスされたギャグを織り込んで、退屈するヒマを全く与えないサービスぶりには喝采。エンドロールでオマケ的に見せられる全身ローラーブレードも楽しい。

カルト的自己啓発セミナーの教義を、盲目的に肯定させるかの様な御都合主義と思わせておいて、実はそうではないと持っていき最終的には教義を利用してチャッカリオチをつけるのも、予想を気持ちよく裏切ってくれて後味がいい。ジャック・ブラックの下品さには笑えない日本人でも、スンナリと受けつけられるタイプのネタに終始しているのが、何よりありがたい。

上質なコメディドラマとして完成された脚本を、見事に演じきったジム・キャリーを始めとするキャスト達の演技、演出も見もの。ヒロイン役ズーイー・デシャネルの、引かないレベルの絶妙な変わり者ぶりなど、あらゆる部分で適切にバランスが取れているからこそ、普遍性の高い娯楽性がより強まっているのだろう。傑作。

『ナンバー23』レビュー


tsubuanco at 14:04|PermalinkComments(7)TrackBack(7)clip!映画 

2009年03月25日

リリィ、はちみつ色の秘密 ★★★★★

公式サイト プラデラレビュー

『シャーロットのおくりもの』以来、久々にスクリーンで出会った主演のダコタ・ファニングが、息を呑むほどの完璧美少女に成長してて驚く。本当に少女の成長は予想がつかない。

微妙なお年頃の少女が、母を失った過去のトラウマや父の暴君ぶりに悩み苦しんだ挙句、黒人召使いと共に逃亡し自分探しの旅に出る。という流れから、明らかに『ハックルベリー・フィンの冒険』の少女版として作られてると考えて問題ないだろう。ただし時代は公民権法が制定された60年代、最近の『ヘアスプレー』や『ドリームガールズ』など黒人差別をお題の一つとした作品と同時代に設定。

その『ドリーム〜』のジェニファー・ハドソンが黒人召使い役で出演。『スモーキン・エース』にて、作品の出来はともかく強烈なブラックビューティーぶりで印象を残したアリシア・キーズも、そのビジュアルままのクールな美女役にハマっている。黒人だけでなく女性もまた弱者であった時代。末妹のメイが見せる「弱さ」のキャラクター描写にそれが象徴的に投影されて、作品内のネガティブ面を一手に引き受ける事となる。

主人公を囲む4人の黒人女性に全くタイプの異なるキャスティングを行ったのは、ステロタイプな「黒人像」を明確に裏切る意図か。主人公も含め女性陣のあらゆる挙動がいちいち魅力的だ。一方で男性側は極めて類型的に描かれているのも、黒人女性の多様性を際立たせる狙いだろう。

主舞台となる蜂蜜農場を、黒人差別が根強い時代において別次元の様な楽園として描写。もちろん蜂蜜そのものが、その環境へのメタファーとして用いられている。そして、楽園を平時として受け入れた段階になって、思い出した様にKKKばりの黒人差別描写が登場するからこそ、それに対するインパクトと嫌悪感が増す様に作られている。上手い。

主人公の主観に立脚した、メンタル面における普遍的なドラマがまずあり、その背景としての社会派な題材および寓話的な設定が相互に絡み合い、独自の作品へと昇華。厳しさと優しさがせめぎあう傑作。

『シャーロットのおくりもの』レビュー
『ドリームガールズ』レビュー
『ヘアスプレー』レビュー
『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』レビュー

tsubuanco at 14:46|PermalinkComments(7)TrackBack(4)clip!映画 

2009年03月24日

フィッシュストーリー ★★★★★

公式サイト プラデラレビュー

伊坂幸太郎原作、中村義洋監督、とくれば『アヒルと鴨のコインロッカー』が既にある。原作のギミックやトリックは活かしつつ、独自のアレンジを随所に追加して独自のテイストに変容させる、とのやり方は基本的に共通。

それは同監督の、たとえば海堂尊作品の映画化でもほぼ同様だが、現実世界を舞台としながらどことなくファンタジックな空気を原作の時点から醸している、本作など伊坂作品の方が、この手法は有用に思える。

また最近の同監督作の当たり外れを見るに、原作の質もだが脚本家の手腕による出来不出来の差が見てとれる。特に『チーム・バチスタの栄光』の寒々しい出来にそれは顕著だ。

今回の脚本家は、TVでは『サザエさん』など無難な仕事もこなしつつ、戦隊ヒーロー特撮『超星艦隊セイザーX』を見事なエンターテイメントに仕上げるなどスペックはお墨付きの林民夫。原作つきの映画として最近では『奈緒子』や『ダイブ!』などアスリートもの長編を、映画の枠に無難に収める仕事にも参加している。

今回は逆に、短編をボリュームアップするべく臨んでいるが、ノアの方舟などオリジナルで追加した事物や人物がほぼ浮く事なく、むしろ各時代に起こる出来事に繋がりや必然を持たせ、メインの「正義」の継承だけでなく、作品世界として時代が連続しているのだと認識させる事に成功している。

また、ハイジャック現場を飛行機から船に変更したのは、先述の「方舟」によるものだが、スティーブン・セガールのパロディを盛り込んでストーリー的な盛り上げと、リアルの斜め上の独特の世界観を更に斜め上に押し上げて、作品の特異性を高める事にも成功。この点などは特に、原作の必然とオリジナルな遊びの融合が有意に見られる箇所と言える。もちろん小ネタとしても面白い。ベスト・キッドのパロディなども同様。

時代性の表現と「正義」の象徴化を両立させた『ゴレンジャー』の使い方は、これは少し浮き気味にも感じられる。だが75年当時のリアルタイムで認知度が高いヒーローとして、ゴレンジャー人気が丁度上り坂で、逆に仮面ライダーやウルトラシリーズは一旦終了する直前の下り坂だった時期だ(BGMやナレーターなどで、劇中で使用されている映像はシリーズ初期のものとわかる。これも意図的だろう)。よってこれも必然である。しかしWなど「正義のガンダムは5人いる」のだが。

同監督作『アヒルと鴨』からのヘタレ濱田岳、同監督&同脚本家による『ルート225』からの多部未華子に始まり、ウザすぎる山中崇や電波質の高橋真唯、インチキな石丸謙二郎、掴みどころのない大森南朋などあらゆる面々が適材適所かつ通好みの豪華キャストなのもいちいち楽しい。カセットテープとそれを収納するケースなど、小道具で時代性と共感を生む仕事も充分。

キーとなる楽曲『フィッシュストーリー』の出来もよく、劇中で何度流されても飽きないどころか好きになっていく始末。その上でラストに曲にあわせ、それまでは観客の想像によるのみだった全ての意味が完結していくのだから、カタルシス満点である。この総ざらいの編集タイミングも絶妙。

たとえ原作既読でも、ネタの使われ方や構成、オリジナル要素の盛り込み方、そしてキャスティングや楽曲など、丁寧な仕事を楽しみ尽くせる逸品。未読なら尚更では。

『アヒルと鴨のコインロッカー』レビュー
『チーム・バチスタの栄光』レビュー
『ジェネラル・ルージュの凱旋』レビュー
『奈緒子』レビュー
『DIVE!! ダイブ』レビュー
『超星艦隊セイザーX』レビュー


tsubuanco at 17:45|PermalinkComments(1)TrackBack(4)clip!映画 

悲夢 Himu ★★★★★

公式サイト プラデラレビュー

キム・ギドクがまた凄いものを作った。やりたい放題に見えるのに完成度は高いというのが天才的。

劇中にて明確に明示される白と黒の対称をはじめ、男と女、夢と現実、睡眠と覚醒などなどあらゆる要素が表裏一対となって、時に一周して同一にもなるなど、整理されたカオスなる矛盾した状態となる。人物の役割がいきなり変わったりなどは「夢」の中での唐突な曖昧の表現でもあり、オダギリだけ日本語なのに韓国人と普通に話が通じているとう、本作最大の違和感は、これまた「夢」のメタファーでもありつつ、過去のキム・ギドク作品に共通する大命題「コミュニケーション」の、今回の方向性の象徴でもある。

ここ最近の作品では、『弓』、『絶対の愛』、『ブレス』と、寡黙と饒舌を交互に用いており、今回もまた嫌というほど喋りまくるも、だが饒舌な作品の方では真意の疎通は阻害され続け、寡黙な作品はその逆。という仕様も共通。その辺りの「らしさ」の組合せを見てとっていくだけでも楽しい。

「饒舌」側の作品においては特に、通常の韓国映画を更に上回るオーバーアクションを演じ手に要求する事で、逆に空虚さを際立たせる仕掛けも入念。こうした意味のある演出に対し、笑うという幼稚なリアクションしか生じない人間は、己の底の浅さも自分が笑われている恥ずかしさも自覚出来ない未熟児でしかないので映画館に来なくていい。

夏目雅子を似顔絵化した様な、極端な顔の美女をヒロインに据え、その強烈な目力のインパクトに魅力と狂気の双方を感じさせる一方、もう一人のこれまた対称となるブサイクを配するも、だがそのビジュアルもまた役割的な必然となる。など、ギリギリの線で装飾過多にならず、非現実な現実世界を作り出す背景美術も含め、何から何まで狙いすましたキム・ギドク節が全ていい方向に出た、奇跡的状態。

オダギリジョーの存在や日本語が、韓国人にどう捉えられるのかは知らないし、それ以外の外国人にとってはそもそも伝わり辛い仕掛けではある。その意味では日本人が一番、本作の妙味を味わえる幸運に与れるとも考えられる。もちろんマトモな日本人なら、だが。

『弓』レビュー
『絶対の愛』レビュー
『ブレス』レビュー
『映画は映画だ』レビュー



tsubuanco at 17:32|PermalinkComments(4)TrackBack(4)clip!映画 

2009年03月23日

ドロップ ★★★★

公式サイト プラデラレビュー

自伝的、優等生が中学で不良化、など方向性は以前映画化された『ワルボロ』と大体同じ。こちらの方が「昔は悪かった自慢」の痛々しさが大きく、最後には人死にで泣かせて盛り上げようとするなど、いかにも品川ならではのあざとさ(そんなことないよ品川さんは面白いよ)も目立つが、すぐに読めるのでストレスにならず、それなりには楽しめる。

同世代人への共感を助長するためのアイテムが用いられているが、原作では更にジャッキー・チェンやキン肉マンなどネタも豊富。そして映画は現代の若者向けなので、そちら方面は控えめとなり、広範囲の世代に通用するガンダムやドラゴンボールなどで留められている。

芸人監督ならではのボケとツッコミ、天丼な笑いのネタを随所にバラ撒いているため、クスクスと楽しんで観ていられ飽きない。ケンカシーンは良い意味で痛々しさを強調しており、やはり飽きずに楽しめる。ギャグがギャグだけで浮く事なく、ストーリーやキャラクター描写と有意に絡んで作品を構成しており、総じてギャグ、ケンカ、ちょっといい話、などの配置とバランスが良い事が成功点か。ただ終盤の人死に展開が予想通りクドくも感じるが、対象層を考えると仕方ないとも。

一応ヒロイン的に出番を増やされた本仮屋ユイカおよび姉役の中越典子だが、ユイカが演じていた役は原作なら達也(水嶋ヒロ)とセックスしまくりな描写があるが残念ながらカット。達也の父から「俺にもやらせてよ」と言われるのも修正済み。無念。

品川役が成宮なのはご愛嬌だが、他のキャストはおおむねイメージを損なわず。宮川大輔やFUJIWARA藤本などの芸人組も、悪目立ちせず役割を演じられている。

その様な、観る側を意識したバランス感覚が、良くも悪くも優れているのが、品川監督作ならではの特徴と言えるのでは。変にトンガって痛々しいオナニーを見せつけられる結果にならなくてよかった。


tsubuanco at 16:13|PermalinkComments(5)TrackBack(3)clip!映画 
Comments