2006年07月18日

日本沈没 85点(100点満点中)

軍艦ハワイ
公式サイト

日本が誇るSF作家・小松左京の同名ベストセラー小説を、1973年から33年ぶりに再映画化。今回は、監督デビュー作『ローレライ』に次いで、何故か2作目にして超大作を任されてしまった天才オタク監督・樋口真嗣が監督を務める事となった。

優れた映像構成センスと豊富な引き出しを持ち、特撮を得意とする氏に加え、本作は更に特技監督に神山誠、監督補に尾上克郎の3者の才能と技術がガッチリ連携し、映像的観点では旧作を圧倒的に凌駕する本格的特撮映画に仕上がっている。

本格SF小説である原作のヒットを受けて製作された旧作は、原作と同様、まず日本周辺に起こっている兆候の描写からじっくりと話を開始し、「日本が沈没する」の台詞が登場するまでに尺の半分弱を使っているのだが、本作ではその部分を大幅に省略し、早い段階で日本が沈没する事実を提示し、その後の展開に重点を置いた構成となっている。

『日本沈没』という作品が、過去に大ブームとなった作品であり、読んだ事も見た事もない人でもタイトルくらいは知っているという、もはや一般教養の一つとなっている現代において、この改変は正解と言えるだろう。リアルなSF考証の積み重ねに尺を取られてしまっては、娯楽映画としての方向性を目指す上で中途半端な完成度になってしまうのは目に見えており、"みんなわかってる事"は省略すればいいのだ。

避難その結果として、旧作では予算や技術の関係で充分に描写出来なかった、天変地異や災害の大特撮映像や、逃げ惑う群衆のパニック映像などは、満足出来るレベルにしっかり描かれており、また、後半はずっと火山灰が降り続けるなど、背景エフェクトを状況説明として用いる事で、登場人物の絶望感を観客に実感させる手法も見事。大作映画としての映像クオリティは充分に満たしている

ストーリー面でも、原作・旧作の一つの軸となる"政治家の動向"の部分では、33年の時を経た現代の状況を考慮した上で、むしろ旧作映画よりもリアルな観点で各人物のキャラクターを立たせ、それをドラマに活かして効果を上げている点は評価出来る。更に政治的リーダーとなる人物と田所博士の間に、過去を絡めた人間関係を設定しておく事で、メインキャラクターが有機的に関連性を持って連動し、ドラマとしても一体感を出している。

もうひとつのドラマの主軸となる小野寺(草ナギ)と玲子(柴咲)の恋愛ドラマも、会ったその日に女が発情して、男は男で好きかどうかわからないのに美人だからとヤッちゃって、一緒に逃げようとしたら女がバカで死ぬ(死んでないけど)。という、正直な所あまり面白くない旧作の展開に比べ、自分から何もしようとせず、単に流されるだけだった旧作の玲子を、本作ではレスキュー隊員として本編の災害と必然的に絡ませて、ある程度感情移入が可能なキャラクターへと改変。

一方の小野寺は旧作とほぼ同様ではあるのだが、"単なる仕事 → さっさと逃げたい → 愛国に殉じようとする"という心境の変化を、両者の出会いと心の動きをある程度じっくり描く事で、説得力とドラマ的盛り上がりを両立させる方向性に作られている。

既に最後の決意を固めた上で玲子を抱きしめ無言で涙を流す、テント内の場面は、男性的視点で見た恋愛描写としては最大の泣きどころ。少なくとも、とりあえずヤッちゃった旧作の藤岡弘よりはカッコいい(笑)。

この恋愛部分は、(福田麻由子も含め)営業的理由で押しつけられた余分な要素を、可能な範囲で作品内に活かす方向に努力している事もよくわかり、尚かつミクロ視点における人物ドラマとマクロ視点における大局的動向とが乖離しない様に工夫された構成には感心させられる。

阪神大震災そして、SF的考証ドラマとしての前半と、日本人的感傷に満ちたカタストロフに徹底した後半とによって構成された原作や旧作に対し、本作は終盤で全く違った展開を見せ、観客を感動させる事間違いなしの結末が用意されている。

日本列島が、そして日本国民が、どんな運命を辿る事となるのか、ぜひ劇場で、自分の目で確認してほしい。間違いなくオススメ出来る秀作だ。


追記:"現代の日本の風景"を散文的に描写するオープニング映像や、「まだこの地域に被害はない」のテロップ等、意図的に旧作映画の手法が用いられている部分や、監督が個人的に好きな映画やアニメ等からの映像や用語の引用が散りばめられている等、リスペクトとオマージュに満ちた小ネタを見つける楽しみもアリ。これも、オタク監督の樋口ならではである。

追記2:パンフレットに"小学生の時の樋口真嗣が描いた日本沈没の絵"が載っているのだが、これが物凄く上手くてビビる。やっぱり天才は、我々凡人とはスタートラインからして違う様だ。




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こんにちは、カイです。 5月末に試写会が行われてから約1ヶ月半、「日本沈没」公開
2. 日本沈没  [ Akira's VOICE ]   2006年07月29日 16:28
好きなシーンはある。映像も圧巻。 心に残るドラマもあるし,正直,嫌いではない。 ただ,全体のあちこちが中途半端で物足りなさが沢山・・
3. 日本沈没  [ Aのムビりまっ!!!(映画って最高☆) ]   2006年07月31日 21:06
          評価:★7点(満点10点) 監督:樋口真嗣 主演:草磲剛 柴咲コウ 豊川悦司 大地真央 及川光博 2006年 135min 潜水艇(わだつみ6500)のパイロット、小野寺俊夫(草磲剛)は 地球科学博士田所雄...
4. 「日本沈没」 (2006年版)  [ 取手物語??取手より愛をこめて ]   2007年10月07日 16:08
「てめえは馬鹿か、・・・・・・  いいか、よく聞け!・・・・・・   富士山の大噴火と共に、日本は一気呵成に沈んでいくんだ!」
5. 日本沈没  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年04月13日 20:01
 『いのちよりも大切なひとがいる。1億2000万人、すべての日本人に捧ぐ――』  コチラの「日本沈没」は、今週末7/15公開になる小松左京の同名小説の映画化なんですが、試写会で観てきましたぁ〜♪実を言うとあんまり期待してなかったのですが、予想に反してかなり楽しめ...

この記事へのコメント

1. Posted by 華村   2006年07月19日 22:21
TBありがとうございます。
「まだこの地域に被害はない」は旧作の手法だったんですね!
旧作の頃はガキんちょでしたが、TV版と違って「だめだこりゃ」と思ったくちなので、2006年版の方が好きです。映像のクオリティは鳥肌ですね。
そうそう、テント場面は女視点でも泣かせ所ですよ(笑)。
2. Posted by つぶあんこ   2006年07月20日 10:27
でもやっぱ女性は女キャラ視点で見るんじゃないですかね。

件の場面の小野寺の行動は、「バカな男の痩せ我慢」という梶原一騎的カッコ良さを表現してたと思うので、男の世界かなあと。

「柔肌の熱き血潮に触れもせで 寂しからずや道を説く君」という歌を思い出しました。ってこれは女性が詠んだんですけどね(笑
3. Posted by 壱   2007年02月15日 16:20
>やっぱり天才は、我々凡人とはスタートラインからして違う様だ。


樋口真嗣が天才ですか。

うーん何も言えない。
4. Posted by つぶあんこ   2007年02月15日 16:58
人のセンスに気づくにも、センスは必要ですからねえ(笑

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