2006年08月20日

時をかける少女 95点(100点満点中)

元ネタは5期メンバー?
公式サイト

NHKの『タイム・トラベラー』(1972年)、大林宣彦監督・原田知世主演の角川映画(1983年)など、これまでに何度も実写にて映像化されてきた筒井康隆の同名ジュブナイル小説を原作とした、初のアニメ映画化作品が、宮崎駿の後継者と目された事もある期待の実力派・細田守監督をはじめ、そうそうたる実力派スタッフ達によって創り上げられた。

細田守と言えば、『劇場版 デジモンアドベンチャー』、『おジャ魔女どれみ どっか〜ん!』#40「どれみと魔女をやめた魔女」、『劇場版 ONE PIECE オマツリ男爵と秘密の島』などの代表作からもわかる通り、原作の設定を自分流に換骨奪胎し、その魅力を大きく活かした上で、独自の面白さを作り出すという、非凡な能力を持ったクリエイターとして、アニメファンの間では評価の高い存在である。

また、その能力が認められ、ジブリに招聘され『ハウルの動く城』の監督を任されるも、その能力の非凡さ故に宮崎駿とケンカして監督を降板する事になってしまったという逸話もあり、その実力は、ファンのみならず業界内でも高く評価されている。

そんな彼が、自ら「これを原作に作品をつくりたい」と申し出たのが本作。一流の創作者が、雇われ仕事ではなく、自分で選んだ作品。これを見ずして何を見るというのか。

ストーリーは、これまでの『時かけ』映像化作品とは異なり、原作をベースに、新世代のキャラクターを主人公とした物語を新たに作り出している。

具体的には、原作(あるいは実写作品)を過去の話とした続編的作品として作られており、主人公はこれまでの芳山和子ではなく、彼女の姪の紺野真琴という少女となっている。つまり、原作や映画に登場する、"芳山和子の妹"の娘と考えて問題ないだろう。

そのキャラクターも、思慮深く、突然備わった時間跳躍能力に戸惑い、「普通に戻りたい」と願い続けた芳山和子とは正反対に、能力をクダラナイ私利私欲に使いまくる"おバカな少女"へと、大きく変えられている。

が、先述の通り「換骨奪胎」を得意とする細田監督の面目躍如。続編的時系列に作られていながらも、物語の大まかな流れ(理科準備室で事は起こり、別れで終わる)や人間関係(男子生徒2人との微妙な友人関係)は原作を踏襲したものとするなど、原作・旧作へのオマージュに満ちた作品となる(ちょっと前にも同じ様な事を書いた気がw)とともに、原作・旧作を知らない人にも、1本の独立した作品として充分楽しめる様に仕上げられているのだ。このバランス感覚はあまりに絶妙。まさに非凡。

時計また、原作では、あくまでも主人公および読者を非現実的世界へ導入するためのギミックとして用いられている側面が強かった"時間跳躍能力"というファクターを、本作では作品の根本のテーマから細かなストーリー展開、各キャラクター達の心情変化、あるいは映像表現としての"見せる演出"などなど、あらゆる要素に"時間"という概念を徹底して絡める事で、作品そのものを動かしている。ここが、本作の大きな特徴の一つであろう。

その"時間"を強調した作劇によって、主人公・真琴の生きている"青春"が、まさに活き活きと描かれているのも、本作の大きな魅力の一つだ。彼女はその能力によって、人生をリセットし、セーブポイントまで戻る事は可能だが、"全く同じ時間"は二度と戻ってこない。当初はなにも考えていなかった真琴が、この事に段々と気づいていく様になり、物語の結末へとつながるそのストーリー構成は見事に練られており、過去作品とはまた違った面白さを生み出しているのだ。

そして、ストーリー描写を徹頭徹尾、主人公・真琴の視点に立脚したものとして描き、真琴以外のキャラクターの思考・心情の動きも、あくまでも真琴の主観を通じて観客に見せるかたちを取る事で、感情移入対象を意図的に真琴に限定し、真琴の心情を観客のそれと同化させるという手法がとられており、これも見事に効果を上げている。

さらに続編的位置づけという事で、芳山和子が"先代時かけ少女"として、真琴に助言を行う場面もまた、本作ならではの見どころである。特に、彼女の作業部屋の片隅に、ラベンダーが活けられた花瓶と、深町一夫・浅倉吾朗とともに写された写真が飾ってあるという仕掛けは、『時かけ』ファンとしてはあまりに嬉しい映像だ。(もっと言えば、彼女の声が原田知世なら万々歳だったのだが)

アニメーションとしての映像的な面について、まず、キャラクターデザインはガイナックス作品でおなじみの貞本義行ではあるが、作画監督によるリファインによって、そのタッチは少なからず変えられており、「エヴァやナディアのキャラと似ている」という印象には全くならず、本作独自のキャラクターとなっている。普段アニメにあまり縁がない層にも観てほしい作品として、これは正解だろう。

その他、コンテ、レイアウト、動画(中割り)、美術と、細田監督をはじめとする、一流のスタッフ達によるセンス溢れる仕事がなされており、画面構成・動きの巧みさ、背景の美しさ・奥行き感はあまりに秀逸。一時たりとも目を離せない、美しくクオリティの高い映像にほれぼれしてしまう。キャラクターの作画そのものを、あえてシンプルなものとした事も効果を上げている。

特に、本作の様な、普通の現実世界を舞台にした作品の場合、背景美術という仕事は、作品世界に観客を入り込ませるための要素として、非常に重要なウエイトを占める事となる。実際にロケハンをし、綿密に設定を作り上げ、構築された本作の舞台は、尾道の街並を舞台とした大林版に匹敵する、完成された世界観と、リアルな現実感、果てはノスタルジックな空気感までも醸し出しており、本作の完成度を高める事に、大きな役割を果たしているのだ。

最後に声優に関して。本作は、いわゆる"アニメ声優"を起用しておらず、監督自身によるオーディションを経て、監督の想起するキャラクターイメージに最も合ったキャスティングがなされている。これは、近年の劇場用アニメが、話題作りのためだけにタレントなどの"非アニメ声優"を起用し、作品のクオリティ自体を下げてしまっているのとは完全に逆方向の姿勢であり、純粋に演出意図としてアニメ声優を起用しなかったのだ。

作画と同様に、いわゆる"萌え"を廃し、"等身大の青春"を生きている少年少女達の、その"等身大の青春"を、観客がリアルに実感出来る様、絶妙なキャスティングがなされており、その方向性は、結果として大きくプラス方向に作用している。この演技は、既存のアニメ声優には出来ない事は明らかだ。(アニメ声優そのものを否定しているわけではないので悪しからず)

本作、アニメ映画のみならず、今年の映画作品の中でも、間違いなくトップクラスの大傑作である。絶対に観て損はない。

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9. 『時をかける少女』を観たぞ〜!  [ おきらく楽天 映画生活 ]   2008年07月21日 18:44
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この記事へのコメント

1. Posted by 滝飯   2006年08月21日 21:10
5 やっと見れたようで、おめでとうございます(^^
思い入れが伝わってくる熱い長文に感服です。

絵も声も演出も、本当に良く出来てますよね。
早くDVDが出てくれて、何度も何度も楽しみたい作品です。
2. Posted by つぶあんこ   2006年08月22日 02:46
地道にロングランしそうなので、
DVDはなかなか出ない様な感じですね。
痛し痒しです。
3. Posted by Ageha   2006年10月15日 02:08
なんだか、アンチゲ○戦記なのか
ネットのクチコミ評判があまりにいいのか
いまだにロングランで、
もともとはミニシアター系で細々やってたのが
うちまだ見てへんで〜って感じで
やっと地方へフィルムが移っていったとこ。

これはDVD出るのはかなり先になりそうですね。

少しずつ過去ログもリンクさせていただきます。
よろしかったら遊びに来てくださいね。
4. Posted by つぶあんこ   2006年10月16日 11:52
ゲドはファンになる方が難しいでしょう

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