2006年09月03日

神の左手 悪魔の右手 40点(100点満点中)

入江紗綾(11)の小学生役は無理がある
公式サイト

天才漫画家・楳図かずおの後期傑作ホラー漫画の実写映画化。原作の中でも特に人気の高いエピソード『黒い絵本』をベースに、他章の要素を盛り込んで構成されている。

本作はそもそも、あの悪名高い実写映画版『デビルマン』で、あまり映画に詳しくない人にも(悪い意味で)その名を知られる事となってしまった那須博之監督によって、同作でミーコを演じた渋谷飛鳥の主演作品(要するにアイドル映画)として企画が進められ、脚本もほぼ上がった状態まで進んでいたのだが、那須監督が急逝したために企画自体が一時凍結。

その後を引き継ぎ、完成にこぎ着けたのが、かつてロマンポルノ時代に那須博之の助監督を務めていた金子修介である。以前にも書いたが、金子修介は漫画の実写化とアイドル映画の双方を得意分野としているため、この後任人選は適任と言えるだろう。

だが、実際に完成した作品は、残念ながら"劇場映画"として観た場合、少し厳しい

まず第一に、映像のクオリティが昨今の劇場映画ではなく、Vシネレベルとなってしまっている。

具体的に言えば、まず画質でビデオ撮影な事が丸わかりで、また劇中に登場する生首等の造形物の出来も一目で造り物とバレバレなもので、合成等のエフェクトもテレビレベルと、劇場のスクリーンで観るには辛いものがある。

これらは多分に、予算的な問題が大きいと思われ、それを考慮した上で金子修介は、劇場ではなくDVDなどTVモニターでの鑑賞を主目的として製作する方向性に決断したのだと推測される。

それは、氏が普段撮っている劇場映画の画面作りとは全く異なる、テレビ的なアップを多用したカット割りを見れば一目瞭然だ。金子修介は、『スカイハイ』『ホーリーランド』『ウルトラマンマックス』等、映画だけでなくテレビ作品も多く手がけており、本作もまた、テレビドラマとして見た場合は、充分に楽しめるレベルに作られている事は確かだ。

実際に、本作は劇場公開としての規模は極めて小さく、DVDでの鑑賞がメインとなる事は間違いない。点数は劇場映画として観た場合のもので、テレビ作品、またはVシネとしてなら、65点あたりが妥当な線だろう。

見事にサイコキャラを演じきった田口トモロヲの熱演に支えられている部分は大きいのだが、それも含め、観客の呼吸をコントロールするかの様なカット割りの緩急などによって、見せ場となる各殺人シーンのハラハラ感、ゾクゾク感はよく出されており、ここは金子修介の持つ演出力のなせる技であろう。

楳図作品の中でも随一とされ、原作の売りの一つである凄惨なスプラッタシーンも、先述の生首の作り物感を除けば比較的良く出来ており、特にクライマックスに想が登場するシーンなどは、原作『錆びたハサミ』の一場面から引用したと見られる映像を、気持ちよくグロテスクに再現しており、それなりに見応えはある。 

その様な、映像的な面よりも、本作の一番の問題点となるのは、やはり那須博之の意向が大きく入っていると思われる脚本である。原作をベースにはしているのだが、渋谷飛鳥を主演とするために、主人公を弟の想ではなく姉の泉にしてしまっている事が、全ての破綻の元凶となっているのだ。

原作では基本的に泉は傍観者あるいは被害者であり、事件解決に奔走し、実際に事を治めるのは全て想の役割となっている。ひるがえって映画では、想は序盤に倒れて寝たきりとなり、泉が事件の解決のために奔走する事となる。

これは、原作の最終章、『影亡者』のエピソードから持ち込まれた展開である事は、脚本家自身が明かしているが、『影亡者』の場合は、想が霊に肉体を支配され、存在そのものが消えようとしている危機的状況にあるからこそ、何の特殊能力も持たない泉が、想を救うために奔走する展開に、必然性が出てくるのだ。

が、映画の場合の想は、悪夢の影響で重傷を負って昏睡状態にあるだけでしかなく、むしろ寝ている状態の想は無敵なわけで、実際にクライマックスはその無敵状態の想が締めるのだから、そこに至るまでのドラマを、泉主導で引張る必然性がない。しかも、想の能力について充分な説明がないため、原作を知らないとクライマックスの意味もよくわからないだろう。

だから、「全部想だけで解決出来るじゃないか」「そこから登場するのなら、電車に乗らなくてもいいじゃないか」などのツッコミを、誰だって感じてしまう事となるのだ。(電車に乗る場面は原作の名シーンなので、出てくれたこと自体は嬉しいのだが)

また、楳図漫画に書かれるキャラクターの台詞は、実際の会話として考えると不自然なものが多く、それが逆に漫画の魅力のひとつとなっているのだが、それをそのまま映画の台詞として引用してしまうのは、"映画の脚本"としては工夫がなさすぎるだろう。

この"不自然な台詞"が、子役の棒読み演技(これは監督の演出で補える問題ではない)を更に強調させる結果となってしまっており、この部分は大きなマイナス点である。

が、そういった、脚本の出来の悪さを補い、最後まで退屈させずに映画を見せきってしまう、その金子修介の持つ演出力は、やはり優れたものであると考えて問題ないだろう。

ヒロイン・渋谷飛鳥をはじめ、前田愛清水萌々子入江紗綾など、少女達の魅力を200%存分に引き出し、画面上に映えさせている、その力量もまた見事。この点に関しても、充分に評価に値する。

少なくとも一見の価値はある。グロ耐性がある人なら、機会があれば。

余談;
ももちゃんを演じた子役・清水萌々子は、あの『誰も知らない』で"死んじゃった妹"を演じてた子。順調に可愛く成長している様で何より。





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2. 神の左手 悪魔の右手 07005  [ 猫姫じゃ ]   2007年02月10日 20:35
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3. 神の左手 悪魔の右手  [ CINEMA LEGLOCK ]   2007年05月08日 17:27
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ホラー映画邦画 ホラー映画初心者のすけきよです。なにかと話題の多い楳図かずお原作の「神の左手 悪魔の右手」観ました。 あらすじ:小学生のソウには、人間の悪意を夢で予知する不思議な力がある。自分の死を予知する夢を見たというソウの話に、姉のイズミだけが耳...
5. 神の左手、悪魔の右手  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年03月27日 20:19
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この記事へのコメント

1. Posted by LKL   2006年09月05日 01:06
こんばんは。
生首に関しては「これはまんがだから」と作る方も見る方も対応するしかない(しかなかった)のでは…
アレがすんごいリアルにできたら(できないと思いますが)、それはそれで目的(ビデオ・アイドル映画)を達成できないのではなかったかもしれません。
前田愛嬢はちょっとイメージ変わりましたね…
かでなれおん嬢は手塚真監修の「ホラーシアター/ザ・バースデイ」にも出てるんですが、同オムニバス中のかでな嬢出演以外の作品には「レストランに閉じ込められ酷い目にあう」や「人里離れた洋館で」などのエピソードがありまして……
2. Posted by つぶあんこ   2006年09月06日 09:19
生首は、もうちょっと何とか出来たと思いますが…
その生首も、ラストのねじりん棒も、
「ああ、お金ないんだなあ」と、同情はしますけどね。
3. Posted by ホラーすき   2006年09月06日 14:30
作り物はあくまで作り物だから、ようは撮りかたの問題??  予算はいくらか知りませんがたまに映画の小道具展やsfx展でみるのもただの作り物。
 
  もっと破綻してても良かった。漫画はもとから整合性のないものだから。それがいいんだけれど。
4. Posted by つぶあんこ   2006年09月06日 16:17
もちろん撮り方もありますけど、
造形物は作り手の腕や予算で全然変わりますよ。
デジタル処理でリアル感を増す事も出来ますし。

漫画の場合は、矛盾より面白さを優先させたり、
不条理な恐怖感を出すために
あえて意味をわからなくしている部分はありますが、
それとこの映画の脚本の破綻を同列に扱うのは、
楳図かずおに失礼です。

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