2006年09月20日

出口のない海 30点(100点満点中)

終わりがないのが終わり
公式サイト

横山秀夫の同名小説を実写映画化。監督は同原作者の『半落ち』でも監督を務めた佐々部清。

横山秀夫の小説の特徴は、天才的なロジックによる物語構成と生々しい情感描写とが絡み合って一体化している、その独特な作風にある。

が、この監督は、そういった作風とは正反対の方向性の作風を持つ人物であり、横山秀夫作品の映画化には向いていないとしか思えない。

事実、『半落ち』は、原作の面白さを全く活かせていなかった脚本の出来の悪さもあるが、演出面でも退屈で冗長な、単にダラダラしているだけの駄作と化してしまい、ガッカリさせられたものだ。(ちなみに『半落ち』の脚本は、これまた駄作『劇場版セイザーX』も書いた田部俊行。この人は"面白い映画"というものをわかっていないのでは?)

本作は、そもそも山田洋次が脚本・監督ともに務める予定だったらしいが、会社から『武士の一分』を優先させる様に言われて仕方なく脚本のみの参加となり、その後任として、横山秀夫作品の映画化経験のある佐々部清が再び監督とされたそうなのだが、いくら『半落ち』が興行的に成功したとはいえ、作品としての完成度は高くない事は、映画の専門家ならわかるはずだ。この人事は到底納得出来るものではない。

実際、出来上がった作品は、方向性の定まらない、極めて中途半端な凡作に仕上がってしまっている。

冒頭から既に潜水艦で海へ出ており、敵の爆雷に襲われるシーンから始まる中、時折回想シーンを挟む事で、それ以前の成り行きを説明していくという構成自体は、間延びせずに緊張と説明がバランス良く配置されており良い。

あるいは、特攻を志願しなかったのに、別の戦闘で死んでしまう者や、特攻を志願しながら戦闘では死ねず、別のかたちで死んでしまう者などのアイロニカルな対比など、ストーリーそのものは非常に良く出来て言いるのだが、これは原作が良く出来ているからというだけで、脚本や監督が優れているという事ではない。

ただ、回天の搭乗員となる主人公をはじめとするメンバーの、出撃に際してのそれぞれの思いや行動の描写、あるいは出撃が適わず"生きのびてしまった"者たちのそれは、各人物の個性を生かすとともに、リアルかつ感情移入出来るかたちで見せられており、この部分の演出は、かなり良く出来ていると言って差し支えないし、涙腺を刺激されもするだろう。

が、それ以外の部分は極めてベタ、あるいは淡々と薄い情感で物語が進行し、原作の良さを活かしているとも、新しい別の魅力を作り出しているとも感じられない、退屈なものに終わっている。

そもそも、主人公の回想で進めていたはずの物語が、いつの間にか整備兵のモノローグで進行しはじめ、視点が切り替わってしまうなど、何を語りたいのか伝わり難い、散漫な構成となってしまっているのは論外だ。

映像的な部分でも、潜水艦の描写そのものは、『ローレライ』の様なCG丸だし感はなく、比較的リアルな映像を作れてはいるのだが、戦闘に際しての迫力や臨場感、あるいは恐怖や焦燥といったものが全然伝わって来ず、面白味の無い映像になってしまっている。これでは戦争というものの恐さも、特攻の悲惨さも、あまりに薄味にしか感じられない

主人公を演じる市川海老蔵の台詞回しの下手さもまた、悪い意味で印象に残ってしまう。歌舞伎役者ならではのいい声をしているので、舞台では映えるのだろうが、映画やドラマではもっと自然な演技をするべきだろう。

ヒロインを演じる上野樹里もまた、清楚なお嬢様役にはそぐわないのか、大根ぶりが際立ってしまった。例えば『男たちの大和』において、似た役どころを演じた蒼井優のリアルな演技と対比しても、到底及ばないものだ。(まあ『〜大和』も映画そのものはアレだが)

結局、本作はいわゆる"反戦映画"としては見せどころも説得力も乏しく成立しておらず、かと言って単純な"お涙頂戴映画"としても、泣きどころに乏しくこれまた成立していない、もちろん娯楽映画としては全然楽しみどころが無い、見どころに困る映画となってしまった。

もっと出来のいい戦争映画はいくらでもあるし、回天を扱った映画にしても、『人間魚雷回天』という傑作映画があるので、そちらを観れば事足りてしまうだろう。

ただ、回天の構造や操縦・運用法などはやたらと詳細に描写されているので、その部分は価値があるかもしれない。


蛇足:
主人公の妹を演じた尾高杏奈が可愛すぎてヤラレた。個人的な一番の見どころはそこ。



tsubuanco at 16:20│Comments(6)TrackBack(16)clip!映画 

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この記事へのコメント

2. Posted by たばねら   2006年09月20日 18:12
原作も読みましたが「半落ち」の意見、つぶあんこさんに激しく同意です!
評価見る限り「出口のない海」も見なくていいみたいですね(-_-;)
それはそうとやっとこ映画アンケートのせました・
結局全員イニシャルですがorz
お騒がせしました〜。あと、ありがとうございました〜(^-^)

3. Posted by つぶあんこ   2006年09月21日 09:34
横山秀夫は原作を読むに限るという事で。

ホームパーティもお楽しみだった様で何よりです。
また機会がありましたら、オススメさせていただいた映画も観てください。
4. Posted by てれすどん2号   2006年09月25日 16:49
僕も同意見です、もっと泣けるのかと、、、。それにしても、あんな長セリフ言えるのはすごいですね(笑)
5. Posted by つぶあんこ   2006年09月26日 17:24
はあ、台詞憶えるのも、滑舌良く喋るのも、
どっちも役者として出来て当然の仕事ですしね。
6. Posted by anafan   2006年09月29日 23:21
5 >ただ、回天の構造や操縦・運用法などはやたら
>と詳細に描写されているので、その部分は価値


こんにちはanafanと申します。
今日、出口のない海を見て来ました。確かに回天の構造や特性は詳しかったですね。

自分も人間魚雷回天も見ましたが、この面では特筆できますね。しかし、人間魚雷回天の方のあの駆逐艦の攻撃に対して、出撃するシーンのリアルさは、この映画にはちょっとなかったなぁという感じです。
7. Posted by つぶあんこ   2006年10月02日 17:35
なんだか「この映画で人間魚雷の存在を初めて知った」
とかいう人がかなり多い様で、
それだけでも、この映画の存在価値はあったのかも、
と思ってしまう今日この頃です。

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