2006年09月24日

LOFT ロフト 50点(100点満点中)

最近の中谷美紀はミイラ化しつつある
公式サイト

『CURE』『回路』『降霊』など、和製ホラーの異才として支持されている黒沢清監督の最新作。(と言っても2年前に製作された作品らしいが)

構図で世界を表現するのではなく、世界の一部を構図で切り取る事に特化し、また、実験的な手法も貪欲に用いる、黒沢清独特のその映像表現手法と、意図的に情感表現を省略し、観客の感情移入を拒むこれまた独自の演出・演技によって、これまでより大幅に黒沢清のセンスが暴走した作品となっている。

若くして芥川賞を受賞するも、次回作が書けずに悩む女流作家(中谷美紀)と、千年前の女性のミイラを研究する学者(豊川悦司)の2人を主人公に、編集者(西島秀俊)、謎の幽霊(安達祐実)などが絡み、謎が謎を呼ぶ、という内容。

なのだが、ストーリーは二転三転どころか七転八倒し、メインの登場人物達はみんな頭がおかしいとしか思えない言動を続け、観客は混乱の渦に巻き込まれてしまう。

初対面の隣人に対し、開口一番ミイラを預かってくれと頼む男。たくさん部屋があるのに、自分がメインで使っている部屋にミイラを置いて一緒に寝る女。動き出した死体を怖がるどころか逆切れして説教を始める男。恋愛がらみの会話になると演技が急に舞台調になる主人公達。etc…

突き詰めればその根本は狂気に到達する、という点において、"不条理な恐怖"と"不条理な笑い"は紙一重の存在である。本作は、ホラー的表現手法を用いたサイコミステリーとして進行するのだが、まさに怖がっていいのか笑っていいのかわからない場面が続出し、そのうちにホラーもミステリーも放置して、サイコのみが前面に押し出される様になる。

内容には全く付いていけないのに、少しも目が離せないのだ。

そして物語は今までに見た事も無い衝撃のラストシーンでその狂気を爆発させ、そのまま観客を置き去りにして終わってしまう。開いた口が塞がらないとはこの事だ。

本作で表現したいのは、"内と外、両側から襲い来る狂気の恐怖"だという事がわかるくらいで、それ以上に関しては本当に困ってしまう。

こうした狂気の世界を、メインキャスト達は自分でも意図がわからないながらも演じきっているのは見事と言う他は無い。特に西島秀俊のさりげない狂気は、同種の役を演じ慣れているとはいえ大したものだ。

前半部が少し退屈というマイナス点があり、また絶対に一般向けではないのだが、黒沢清の内に潜む狂気を垣間見るには最適な作品である。意味がわからなくても怒らない人だけ。



tsubuanco at 14:32│Comments(4)TrackBack(1)clip!映画 

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1. LOFT ロフト  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年03月21日 20:27
 『その女は永遠の美を求めてミイラとなった。 千年の後、彼女は目覚め、そして私に呪いをかけた。 恐るべき永遠の愛という呪いを。』  コチラの「LOFT ロフト」は、9/9公開になったホラーからサスペンスへ、そしてラブストーリーへと変貌を遂げる黒沢清監督の3年ぶり...

この記事へのコメント

1. Posted by たばねら   2006年09月26日 18:07
つぶあんこさんのレビューを見る限り、相変わらずの黒沢清節炸裂みたいで、黒沢清大好きな自分としては期待できそうです(笑)   まぁ、「大いなる幻影」よりは意味分かるんじゃないかなと(笑)LOFT見てないので単なる予想ですが(^-^;)
2. Posted by つぶあんこ   2006年09月27日 16:33
黒沢清ファンとは濃い趣味をお持ちですね。
『LOFT』も、あまり期待せずに楽しんで観てください。
3. Posted by udon   2007年10月23日 01:45
あああ、「大いなる幻影」。ありましたね、そんな地雷も。
まあ、あれに比べればまだマシですね。
ただ、中谷美紀の絶叫だけは、ほんと、うるさかった。心臓が弱い人には危ないくらいのボリュームでした。あれは、もうちょっと考えて欲しかった。

>ストーリーは二転三転どころか七転八倒し、メインの登場人物達はみんな頭がおかしいとしか思えない

そうですね。特に、一番の常識人だろうと思っていた西島が、実は一番狂っていたあたりとか。
監督も、「西島って、ほんと、なに考えてんのか、分かんないよなー」とか思いながら、アテ書きしたんじゃないでしょうか。
4. Posted by つぶあんこ   2007年10月23日 18:32
西島秀俊にサイコな裏があるのは、木村多江に不幸な過去があるのと同じくらいにお約束です。

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