2006年10月08日

ワールド・トレード・センター 50点(100点満点中)

若槻バカ千夏
公式サイト

911テロ当日、現場で瓦礫に生き埋めとなり奇跡的に生還した、実在する2人の警官を主人公に描かれた、ノンフィクション風映画。

内容は、2人が実際に経験した(とされる)当日の様子を中心に、その家族や、ボランティアで救助に駆けつけた、実在する元海兵隊員のドラマを絡めたもの。

序盤、事が起こるまでの"いつもと同じ日常"の、今後何が起こるのかわかっている観客の期待を喚起するため、あえて淡々と描かれている見せ方は上手く、また、ビルに旅客機が激突してからの混乱の様子も、実際の報道映像も交えながら、基本的には主人公の視点で描写を続け、全体的にどうなっているのかは見せない様にするなど、リアルに当時の現場の緊迫感を再現出来ているであろう演出は、画面から目が離せない見事なものだ。

特に、ビルが崩壊する様を外からではなく、中にいる主人公の視点で見せられる部分は、絶望的なまでの臨場感と迫力で、ここで観客の興奮はピークに達する事となる。

が、これはまだ映画が始まってホンの30分程度しか経っていない段階であり、ここが本当にピークになってしまうのがこの映画の大きな問題点だろう。

この後、2人は上映時間にして1時間以上も生き埋め状態のままで話が続くのだが、よく考えてみれば観客はこの2人の事を全然知らない(ここまでに感情移入させるだけの充分な描写がない)ので、暗闇でじっとしたままの変化のない構図で、延々と退屈な中身のない会話を続けられても、観ている方も退屈なだけなのだ。

もっとビルが崩壊するまでのドラマを丹念に時間をかけて描き、主要な登場人物に感情移入させておかないと、感動のドラマは成立し得ないだろう。この点も本作の大きなマイナス点だ。

時折回想として挟まれる、それぞれの家族との思い出も、外部のドラマとして見せられる、家族達が心配する描写も、この人達がどんな人達だったのか、という事がよくわからないまま見せられてしまうため、あまり感情移入出来ない。再現ドラマとしては完全に失敗である。

生き埋めになった2人の他にもう一人、テレビで事件を知り、"神の声"に導かれて現場へ救助に駆けつける元海兵隊員が主要人物として登場するのだが、いくら実在の人物の実際の行動だとしても、これを現場で命懸けで救助に当たった人達の、"アメリカの良識"の代表として扱ってしまう、その考えには頭を抱える。

神を拠り所に盲目的な行動をとる、それはテロの実行犯と何が違うというのか、標準的日本人からはどうにも理解し難い。(宗教についてはいろいろと書きたい事もあるが本題ではないので省略)

そういった矛盾をアイロニカルに描いているのならまだ面白いが、どう見てもそんな様子ではなく直球勝負だ。生き埋めになった警官の1人が見たとされる、キリストが救いにやって来る夢のビジョンまで出してしまう段に至っては、もう呆れてしまう。(最後に説明される"元海兵隊員のその後"には、もう失笑するしかない)

終盤の、救助が進められるあたりの展開は、また序盤の臨場感や緊張感が回復するが、そこまでの、あまりに冗長すぎる中盤の生き埋めドラマによって生じた、そのストレスを解消するには至らない。

実話だろうが創作だろうが、観客を感動させるドラマを作るには、登場人物の"人間"をしっかりと描写し、感情移入できるだけの用意を整えないといけないのは大前提だ。この映画には残念ながらそこが欠けており、結果としてバランスの悪い、中途半端な作品になってしまった。

序盤のビル崩壊までの一連の流れや、終盤に見られる崩壊した跡地の瓦礫の山など、よく出来た部分もあるだけに、非常に勿体ない感が強い。興味がある人は期待せずにどうぞ。



tsubuanco at 11:27│Comments(4)TrackBack(5)clip!映画 

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3 あの日、世界は恐ろしい悪を目撃した。 しかし2人だけは見た。尊い何かを―― 勇気そして生還 これは、真実の物語である。
2. 勇気と生還。~「ワールドトレードセンター」~  [ ペパーミントの魔術師 ]   2006年10月15日 02:09
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3. 「ワールド・トレード・センター」みてきました  [ よしなしごと ]   2006年10月28日 15:15
 ユナイテッド93に引き続き9・11事件を描いた作品ワールド・トレード・センターを見てきました。
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ワールド・トレード・センター公開中ストーリー ☆☆☆映画の作り方☆☆☆総合評価 
5. ワールド・トレード・センター  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年03月12日 20:18
 『勇気そして生還―これは、真実の物語。 いま語り継ぐべきなのは ”悲劇”の中に差し込んだ”希望”の光・・・ 支え合って生きること― 人間のあるべき姿を呼び覚ました感動超大作』  コチラの「ワールド・トレード・センター」は、9.11同時多発テロをオリヴァー....

この記事へのコメント

1. Posted by あおい   2006年10月11日 00:43
>>神を拠り所に盲目的な行動をとる、それはテロの実行犯と何が違うというのか、標準的日本人からはどうにも理解し難い


それならアメリカ映画見なきゃいいじゃないですか?
日本の映画の記事には評価が低くても色々いい点も書いてるのに、アメリカ映画の場合は批判が多い。
ならなんでわざわざ見てるんですか?
2. Posted by つぶあんこ   2006年10月11日 15:12
この映画も部分的には褒めてますよ。
3. Posted by ぶる〜   2006年10月15日 19:36
1 いま見終わったばかりだが、評者の意見に全く賛同します。
この映画で感動出来る人は、余程普段映画を見ない人では?
4. Posted by つぶあんこ   2006年10月16日 11:53
どうもです。
まあいっぱい見ててもどこ見てんだって人もいますから。

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