2006年11月01日

父親たちの星条旗 65点(100点満点中)

見たんか? お前見たんか? 何年何月何時何分何秒?
公式サイト

第二次世界大戦において、米軍の勝利を決定づけるきっかけの一つになったとされる、6人の米兵が硫黄島の山頂に星条旗を立てようとしている有名な写真。その写真に隠された歴史の裏側を、6人の内の一人の息子がレポートしたドキュメント本をもとに、クリント・イーストウッド監督の手で映画化。

原作『硫黄島の星条旗』は、著者の偏った視点による自己正当化が多分に感じられるもので、思想的矛盾やダブルスタンダードが多く、あくまでも"一個人の見解"として捉える事しか出来ない、正直あまり出来の良くない本であったが、クリント・イーストウッドは、これを映画化するにあたり、その"自己正当化"や"差別的思想"を極力排除し、日米双方からの視点で2部作として全貌を描く構成に大きく作り変えた。

これによって、"アメリカの偽善"と"日本軍の人間性と悲劇"という方向性が前面に出る事となり、本作は、"アメリカ人が作った反米映画"としての独自性が強調されたものに、上手く改変されている。

また、反米あるいは反戦と言っても、米軍兵士個人を悪者扱いして批判する様な、ヒステリックで類型的なものではなく、"個人と集団の意識の差異"を、可能な限り偏らない様留意した視点で描かれている事もまた、本作の特徴だろう。

硫黄島と米本土の両方の場面が、時間軸を前後させながら頻繁に切り替わり、並行して進められる構成は、手持ちカメラを激しく揺らして撮られている戦闘シーンの迫力も相まって、戦地での兵士の死に様や飛び散る肉片を生々しく見せつけ、ひるがえって本土での虚飾に満ちた喧噪を見せる事で、そのギャップを際立たせ、戦場の内も外も、兵士は政治の道具に過ぎず、生きても死んでも地獄という、本作の主張を観客にこれでもかと提示する事に成功している。

特に、主人公となる衛生兵・ドクが、式典会場に作られた摺鉢山のハリボテで戦地の記憶をフラッシュバックさせられるくだりなどは、この構成の意図するものを、上手く観客に伝える為の導入として、効果的に機能している。

が、兵士の一人のインディアンが、アル中になって苦悩する場面には必要以上な冗長さを感じる一方で、その末路はナレーションで簡単に説明されるだけといった様な、バランスの悪さを感じる部分も多々あり、手放しで絶賛するわけにもいかない事も確かだ。

登場人物の誰一人にも感情移入できない、突き放した俯瞰視点で全編が進行し、下手なスプラッタ映画以上のグロテスク描写など、一般向けの娯楽作では決して無い、観る人を選ぶ映画ではあるが、クリント・イーストウッドの映画に対して、普通の感動やカタルシスを求めてはいけないのはもはや基本だ。

本作、および2つ合わせて一つのかたちとなる、日本軍側を描いた次作『硫黄島からの手紙』ともに、当事者である日本人なら、一見の価値はあるだろう。



tsubuanco at 11:16│Comments(2)TrackBack(14)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 健太郎   2006年12月30日 22:38
こんばんは。
硫黄島の激戦はある程度は知っていたし、あの星条旗は最初に揚がったものではないとは聞いていましたが、こんなドラマがあったとは知りませんでした。
日本から見ればアメリカは「楽して戦争に勝った」ように見えるのですが、実際に戦場で銃火をかいくぐっていた兵士達は常に死と隣りあわせだったんですね。
映画の中で、「英雄」扱いされる事の受け止め方が三者三様でしたが、ネイティブの兵士のやさぐれぶりが印象的でした。
国民が団結している戦時中でさえ差別は無くならなかったんですね。
戦後は最後まで黙して語らなかったドクの心境が答えのように感じました。
2. Posted by つぶあんこ   2007年01月04日 18:20
まあ負けた日本の立場からすれば、
「勝って生きて帰れたんだからいいじゃん」
とも思っちゃいますけどね。

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