2006年11月07日

手紙 30点(100点満点中)

あたしつるぎさき。おてがみいっぱいかくの!
公式サイト

東野圭吾の同名小説を映画化。同氏の作品は、"加害者側の視点"で、人間としての苦悩を描いたものが多いが、本作もその一つ。人を殺して刑務所に服役中の兄を持つ主人公・直貴の、"人殺しの家族"として世間から受ける扱いに対する苦悩を描いたもの。

監督を務める生野慈朗は、『3年B組金八先生』などのテレビドラマを数多く担当していたベテランディレクターだが、やはりテレビの仕事が長かったせいか、やたらとアップの多い、テレビ的な画面作りが目立ち、映画として見るにはあまり楽しめない映像ばかりとなってしまっている。

映画化に当たっていろいろと変更された設定やストーリーも、作品を面白くする方向に機能しているとは考え辛いものが多く、むしろ突っ込みどころを増やしている感が強い。

例えば、主人公は原作ではミュージシャン志望なのが漫才師に変わっているが、ただでさえ、人から逃げる様に生きているはずの主人公が、目立ちまくる表舞台を目指している時点でそもそもおかしいのに、人間のマイナス面をクローズアップし笑いものにする事から避けて通れない、お笑い芸人を目指すなど有り得ないだろう。しかも素性を知られたくないくせに本名で。もうこの時点で作品として破綻しており、全く感情移入できないものとなっている。

その後の展開にしても、結婚しようとまで考えている相手に兄の事を隠し通そうとするなど、完全に有り得ない行動をとり続け、マイナス方向の御都合主義に流される、共感も同情も全く出来ない頭の悪い主人公は、考え無しのバカを見させられている気にしかならず、単に不快なだけだ。『白夜行』『電車男』など、ネガティブ思考な根暗男を演じ慣れている山田孝之の過剰な演技も、その不快さに拍車をかけてしまっている。

主人公を常に見守り、サポートする役割である由美子にしても、演じる沢尻エリカが美人すぎる事で、序盤の"ツインテールメガネ娘"の、思わず魅入ってしまう可愛さは、役のイメージである"女扱いされない野暮ったい小娘"とは全く別物となり、ストーリーの説得力そのものが完全に喪失され、これまた作品を破綻させている。その後専門学校に通い出してからのビジュアルも、どう見ても頭の弱いキャバ嬢にしか見えない。これは完全なミスキャストである。

そもそも、彼女が主人公を最初に好きになる流れに全く説得力がなく、主人公の人間的魅力が全く描写されていない事も手伝って、どれだけ拒否されてもしつこくつきまとう行為も、"手紙"を書いて主人公を擁護する展開も、何ら必然性がない、単なる御都合主義としか思えないものだ。

しかもこのキャラクターは、今どき有り得ないほど不自然な関西弁を話すため、いちいち現実に引き戻され冷めてしまう事しきりだ。原作でも関西弁だからと言って、別に標準語でもストーリーには何の支障もない役に、無理に出来ない方言を使わせる必要はないだろう。やるならやるで、方言指導くらいはすべきだ。

ラストの漫才シーンにしてもそうで、泣かせよう泣かせようと必死になるあまり、本題の漫才の方をグダグダにしてしまっているため、そっちの方ばかりが気になり、少しも感動できないのだ。舞台上で黙って立ちつくす漫才師など、その後何を言おうが笑えるものか。

一方、主人公の勤務先の会長が、「犯罪者の家族は差別されて当然。そこまで含めて刑罰だ。逃げる場所などない」という正論を主人公に突きつける場面や、吹越満演じる、被害者遺族が心情を吐露する場面など、本作のテーマとなる部分をあからさまに提示する部分は、ベテラン俳優の安定した演技力も手伝い、それなりの見どころとなっているが、それだけのために2時間を我慢する必要もないだろう。

扱っているテーマも、安易に救いを持たせない展開や結末も、興味深いものでありながら、映画化に当たって、脚本、演出、キャスティングなど、あらゆる部分で原作の良さがスポイルされた、非常に残念な出来となってしまっている。

原作は2時間もあれば余裕で読めるので、興味のある人はそっちで充分。あるいはテレビで放送されるまで待ってから見れば充分。



tsubuanco at 16:34│Comments(8)TrackBack(15)clip!映画 

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この記事へのコメント

2. Posted by 甘やかしおやじ   2006年11月07日 23:49
私は画面作りとか演技力とか、あまりよくわかりませんし、あなたのように上手く文章にする事もできません。
が、毎日のように流れてくる目を覆いたくなるような犯罪のニュースを聞くにつけ、世の末路を案じています。
一番心配な思春期の子供達を連れて行った。(本人達はデスノートとやらを見たかったが)
いつも反抗的な年頃の子供達もこの映画を見て何かを感じたようで言葉少なに「見て良かった」とポツリ。
原作とは異なる表現もあったかもしれないが、ものの判別も確かでない子供達にはこの本のメッセージは伝わったと思っている。
4. Posted by つぶあんこ   2006年11月08日 16:54
デスノートも面白いですよ。
5. Posted by 厳しいおやじ   2006年11月11日 08:10
主人公のような根性無しのクズにならないようにという意味ではいい映画かもしれない
6. Posted by つぶあんこ   2006年11月12日 00:24
そういう意味での教育効果はあるかもです。

あるいは少年院とかで見せて、
しでかした事は二度と取り返しがつかないんだと
思い知らせてやってもいいかもです。
8. Posted by 咲太郎   2006年11月14日 19:31
4 今晩は。
人それぞれ感性が違うので
あなたのように感じるのを否定はしません。
ただ、知ったかした間違った知識を
提示するのはやめて欲しいです。

生野監督はこれが劇場映画三作目になります。

前二作『いこかもどろか』『どっちもどっち』といずれも明石家さんまさん主演です。

それから前半のアップの多用は監督の計算です。

台詞がほとんどないため目線や人との距離感、表情を観客に伝えるためだそうです(プログラムより)。

私は「音楽」から「お笑い」への変更は見事だと思いました。
原作のままだったらラストはあそこまで感動できなかったと思います。

お邪魔しました。
m(_)m
9. Posted by つぶあんこ   2006年11月14日 19:38
ご指摘ありがとうございます。
知ったかした間違った知識を
提示していてはいけないので、修正しました。

>監督の計算です

作り手の意図と観客の受け止め方は無関係です。
また、映画はテレビと違い、大画面で見るので、
アップにしなくても微妙な表情は伝わります。
テレビメインの監督らしい考えだなと感じました。
12. Posted by いまさらですが、   2007年06月08日 19:34
1 私が観た映画館ではなぜか「めぐみ」と二本立てでやっていました。

「めぐみ」の後だったせいもありますが、「手紙」のリアリティのなさにせつなくなりました。

ネクタイを締めて電車に乗っているショットとかベタすぎ。

「筆跡がばれないように、パソコンで手紙を書いたのよ」とか、杉浦氏の台詞を実際に回想場面として見せたりとか、説明がくどすぎという感じでした。

この監督は泥棒を撮る時に、おそらく唐草模様の風呂敷を背負わせて、白い日本手ぬぐいで頬かむりさせ、口の周りにカールおじさんのようなヒゲをつけるのだろう。
13. Posted by つぶあんこ   2007年06月11日 17:13
言わなきゃいけない事は言わないくせに、言わなくていい事を言うんですよね。

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