2006年11月25日

弓 80点(100点満点中)

完全なる飼育
公式サイト

異色作を作り続け、世界的には高い評価を得ながらも、本国では不遇な扱いを受けているキム・ギドク監督作品。

海上に浮かぶ一隻の老朽船で生活する老人と、幼い頃に連れて来られ、そのまま一度も陸に上がらず生きてきた少女。彼女が17歳になったら結婚すると誓いを立てている老人は、釣り船として開放されている船上で、少女に手を出そうとする客を弓矢で威嚇し、その弓を胡弓として少女に曲を奏でていた。老人は少女を愛で、少女も老人を信頼していた、そんな2人の奇妙な世界に、客としてやって来た一人の青年が入り込んでくる…というストーリー。

最初から最後まで、海の上から動かずに進められるこの物語は、寓話的形態を採りつつ、人間の心理をリアルに描いている。

ほとんど言葉を発しない老人と少女の、表情で感情を表現し観客に伝える演技力と演出力は秀逸で、特に少女を演じるハン・ヨルムの眼力には魅了される。

同じくキム・ギドク監督作品『サマリア』にも出演している彼女、決して美人ではないものの、独特の雰囲気と存在感が印象的で、本作でもその魅力は存分に感じられる。(福井裕佳梨にどことなく似ている気もするが)

それまで客に見せていた表情が、無機質な微笑であったのに対し、青年を一目見てからというもの、青年にだけは、好意的な笑顔を通り越して、媚態とも言うべき表情まで見せる。

青年と出会うまでは、老人に全幅の信頼を寄せ、天使の様な笑顔で接していながら、青年を見初めると同時に老人の干渉は"拘束"となり、たちまち嫌悪の表情へと変化する。

本作の展開は、この"表情"をひたすら追う事が最重点であり、全編通してその表情変化からは目が離せず、言葉による説明に極力頼らず、出来る限りを映像で観客に伝える、キム・ギドクの力量には感服せざるを得ない。

展開の節目節目に何度も挿入される、湯浴場面やブランコで揺れる少女目掛けて矢を放つ"弓矢占い"など、あらゆるシーンで老人と少女の心理的距離感が象徴的に表現される、計算された演出・構成も見事だ。

そして、舞台そのものが寓話的心理劇であった本作は、終盤において、その内容までもがファンタジックな方向へと推移していく事となる。

少女を拉致監禁し自分だけのものにしようと目論む、老人の性的欲望が展開とともに昂りつつ終局し、誰もが予想し得なかったかたちで結実する、あらゆる意味で意表を突かれるクライマックスは素晴らしい。

先述の湯浴場面において、序盤から既にフルヌード(乳首は見えないが)を晒しているはずの少女が、終盤にて、究極とも言うべき美とエロティシズムの融合を見せ、劇中の青年と同様、観客の眼を釘付けにする。(乳首も一瞬見える)この映像美は驚嘆の一言。

日本において韓国映画と言えば、お涙頂戴の陳腐な感動押しつけ映画が多い中、凡百のその様な作品とは全く次元の異なる良作だ。

本作のみならず、キム・ギドク作品は映画好きなら必見。余計な偏見を捨ててお試しあれ。



tsubuanco at 17:30│Comments(1)TrackBack(3)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2009年03月17日 12:15
結局、この青年も、少女の媚態にいちころになったわけですよね。
正義漢の格好をしていますけど。
拉致監禁の老人の方に、どうしても僕の感情は、寄り添ってしまいます。

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