2006年11月30日

幸福のスイッチ 65点(100点満点中)

樹里とジュリー 仲良くケンカしな
公式サイト

田舎町で小さな電気屋を営む父親(沢田研二)と、その娘の三姉妹(長女:本上まなみ、次女:上野樹里、三女:中村静香)との父娘関係を中心に、周囲の人々との関わりで成長していく次女・怜を主人公としたヒューマンドラマ。

まず、三姉妹それぞれの、ある程度わかりやすく大別されていながら、ステレオタイプにならない"人間"としての内面を、ひとつの事象に対する個々の見解や対応として的確に描写されている、リアルにディフォルメされたキャラクターの書き分けが上手い。

それは、物語のメインとなる"娘から見た父親像"を、一面的なものに終わらせず、多面的な深みを生じさせる役割を果たしており、娘を一人ではなく三人に設定した意図が、単に絵面的な華やかさだけではない事が充分によくわかる。

主人公が父親に抱いていた印象、感情が、帰省して改めて家族や町の人々と触れ合う中で、徐々に変質していき、主人公の精神的な成長を見せる、この流れも良くしたもので、監督、脚本ともに手がけた安田真奈の、自身の内面を投影したとも見て取れる、女性キャラクターの人間描写は秀逸だ。

和歌山を舞台にした物語において、登場人物達の話す極めて自然な方言もまた、人間をリアルに感じさせる役割を果たしている。

これは、関西人である監督のこだわりによって、主人公一家をはじめとする、"地元住人役"の役者を全て関西出身、あるいは在住経験のある人間で揃えた事で成し得たもので、より自然な演技が見られる結果となり、作品世界をリアルなものとして捉える事が出来るようになっている。

特に主人公は、東京の場面では標準語を話すが感情的になると訛りが出てきてしまったり、逆に帰省後の場面では、地元の言葉を話しながら、所々で"東京語"になってしまうなど、"関西から東京へ仕事に出ている人間"をリアルに表現しており、非常に芸が細かい。兵庫県出身の上野樹里ならではの仕事ぶりだ。

その様な、台詞回しや感情表現での、"人間の見せ方"は非常に上手く、これは演者のセンスはもちろんとして、監督の演出、演技指導の確かさが如実に現われているものだ。

特別な悪人の登場しない、自然に感情移入出来る人々の住む作品世界は魅力的なもので、見ているだけで心地いい気分にさせてくれる。

が、そうした"人間"の出来の良さに比して、全体的なストーリー構成に、食い足りなさを感じるのが残念なところ。

頑固オヤジ、男友達、偏屈な婆さん、変わり者の常連達、など、それぞれと主人公の関わりはいいのだが、それら相互に今ひとつまとまりがなく、全体的に散漫な印象を受けてしまうのだ。

父親の浮気エピソードも、各姉妹の思惑や反応などの表現はリアルで面白いものだったが、中途半端に長く引っ張りすぎな感もある。

と、いくつか引っかかる部分もあるにはあるが、先述の通り"人間ドラマ"としては上質であり、充分に楽しめるものである事は間違いない。

個人的には、キャラクターや世界に魅力が強いこの手の作品は、映画ではなく連続ドラマとして、長く見ていたいと思わされるタイプだ。

興味のある人なら、見て損はないだろう。機会があればどうぞ。


蛇足:
最近の『虹の女神』『7月24日通りのクリスマス』『のだめカンタービレ』それに本作と、それぞれが全然別人に見えてしまう、上野樹里の引き出しの多さには感心する一方、では『出口のない海』での棒読みは何だったんだとも思う。現代人限定の演技センスなのか?



tsubuanco at 16:28│Comments(2)TrackBack(7)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by TATSUYA   2006年12月03日 11:15
4 初めまして、達也です。
『幸福のスイッチ』いい映画でした。
父が田辺出身なので、
方言やロケーションがとっても懐かしかったです。
上野樹里ちゃんの映画は3本ほど連続で
観たのですが、この映画の彼女はとっても
自然体でいい感じです。
小説では高校時代を描いている様なので、
ぜひとも『高校時代』の続編を観たいものです。

P.S トラバさせてくださいね。
2. Posted by つぶあんこ   2006年12月04日 17:45
コメントがマルチとは珍しいですね。
いいですけど。

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