2006年12月03日

パプリカ 80点(100点満点中)

あえて寝る!
公式サイト

夢と現実が交錯する、筒井康隆の同名SF小説を、夢と現実が交錯する作品を得意とする今敏監督がアニメ化。

これまでに『パーフェクト・ブルー』『千年女優』『妄想代理人』と、実写的に描かれる作品世界にて、現実と夢やフィクションの境界が曖昧になる特異な手法で観客を煙に撒く、独自の作風を披露してきた今敏には、本作の監督はまさに適任だろう。

実際、筒井康隆自身が『千年女優』を観て感激し、「この監督に『パプリカ』をアニメ化してほしい」と自ら希望しただけの甲斐はある、筒井と今敏の、見事なコラボレーションが見られる結果となった。

物語のあらましは原作を踏襲したものとなっているが、とても2時間の尺に収める事は不可能な長い原作を、程よく簡略化し、その上で、今敏のカラーを強めたオリジナルの要素が多く含まれた内容となっている。

まず、人が睡眠中に見る夢をモニターで観察して精神状態を分析し、そこに介入し影響を及ぼす事で治療を行う、作品内に登場する精神医療技術の設定と、それを用いて夢治療を行う主人公・千葉敦子=パプリカの能力を、原作ではかなりのページ数を費やして、具体的に夢治療の模様を事細かに描写する事で説明し、読者に設定を理解させていたのだが、今回のアニメ版では、冒頭からいきなり被験者の夢の中の描写から物語を開始し、映像のインパクトによって夢治療がどういうものかを一気に見せつけている。

目まぐるしく場面と展開が切り替わりまくる夢の描写は、これまでにも今敏が何度も行ってきた演出であり、今更の驚きこそはないが、それでもアナログの作画とデジタルのエフェクトを、違和感なく自然な一つの映像として見せる、そのセンスと技術は相変わらず一流。

今回はメインキャストにいわゆる"アニメ声優"のベテラン陣を配し、また、『東京ゴッドファーザーズ』で見られた様な、実写を意識した緻密な作画は影を潜め、より"アニメ的"な作風となっている。これは質的に低下したという事ではなく、作品の内容に応じて方向性を変えているだけだろう。

映像的な観点では、おそらくは本作中で一番の見どころとなるのが、先述の冒頭場面直後に流れるオープニング映像だ。夢治療を終えてマンションを出たパプリカが、幻想的に時空を操り移動する様をファンタジックに次々と見せつけ、最終的には千葉敦子の姿となって現実世界へ帰還する。

パプリカ=千葉敦子が同一の存在でありながら別の存在でもある、本作で最も重要な特異性を簡潔にかつ視覚的にも楽しませて観客に理解させる、これらのやり方はアニメならではのもので、作画、演出のセンスが何よりも求められる部分だ。

ここまでを観て、何も感じる事がない様な人なら、おそらくはこの後に展開する本編を観ても、あまり楽しめるものではないだろう。その意味でも、導入部としての完成度は高い

登場人物は原作よりもかなり省略され、特に研究所外の人間は粉川刑事一人に役割がまとめられている。これは長い物語を短くまとめるには正解だろう。

その上で、この粉川に多くのウエイトを置き、原作とは違う過去のトラウマの正体とその昇華を、物語における重要な縦線の一つとする事で、メイン人物の中では最も一般人に近い粉川に、観客の視点を誘導する狙いとされている。

それとともに、メインストーリーである最新精神医療器具・DCミニの盗難にまつわる陰謀を並行して描き、粉川の夢がどんどん整理されて行くのに対し、陰謀関連の夢はどんどん混迷を深めて行く、その対比もまた、狙いなのだろう。

ただ、DCミニを使って人間を発狂させる、その"狂人の夢"の描写は、残念ながら期待していた程のものではなかった。この程度の"狂気"なら、かつてのジブリアニメ『平成たぬき合戦ぽんぽこ』や『千と千尋の神隠し』などで見られた異形の行進レベルの物だし、それらを超えるだけのセンスは見受けられなかった。この点に関しては、原作で描写される"おぞましい狂気の世界"を、充分に再現出来たとは言えないだろう。(もちろん、水準以上の出来ではある)

一方で、先述のオープニングや、パプリカの皮を剥いて千葉敦子が出て来るなどの、原作にはない描写を重ねて千葉敦子とパプリカの二重構造を表現する、そのやり方は秀逸で、それが伏線となって、クライマックスの、これまた原作にはない驚きの展開へと繋がる、見せ方、構成は上手い。

それぞれの登場人物の精神的な内面が、それぞれに展開して物語を構成して行き、最終的にそれらが大きく2つの力に分かれて対決し、決着がつく、この構造もよくまとまったもので、原作における終盤の物足りなさを、充分に補完していると言える。

主演声優・林原めぐみの、十代後半の不思議美少女・パプリカと、二十代後半の知的美女・千葉敦子を巧みに演じ分ける技量は素晴らしいもので、あえてベテランのプロ声優を起用した意味は充分にある。特に、同僚の研究者・時田へ向けた心情の機微を、台詞に込めた微妙な声色の変化で観客に伝える、そのテクニックは見事。

その時田を演じるのは古谷徹で、これは原作通りのデブオタ風のキャラクターデザインとはミスマッチであるかにも感じたが、天才オタク科学者の役という事で、かつて古谷が演じた最強のオタクキャラ、アムロ・レイを意識したキャスティングである事は間違いなく、"ガンダムに乗らずにオタクになってしまったアムロ"とでも言うべきキャラクターとして、原作とはまた違った時田を演じ、ベテランの器用さを見せている。(夢でロボットになるのは意図的なお遊びだろう)

筒井康隆と今敏も、声優として玖珂と陣内の役で出演しており、この二者の役回りは原作とは全く違うものとなっている。これは、原作の最終章にて思わせぶりな行動をとる両者に対する、今敏ならではの解釈を、本作内での役どころとして提示したのだろう。

本作、いくつかひっかかる部分もあるが、夢と現実の混迷を描き続けた今敏の、一つの到達点と言ってもいい作品に仕上がっている。

原作を知らなくても、今敏のアニメを観た事がなくても、映画、映像好きなら必見だ。是非とも劇場の大画面で幻想的な世界を堪能してみるべし。



tsubuanco at 16:35│Comments(0)TrackBack(7)clip!映画 

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