2006年12月08日

暗いところで待ち合わせ 50点(100点満点中)

この月光、生来目が見えん!
公式サイト

若い層に人気のあるらしいライトノベル作家、乙一の同名作品を映画化。

主演は田中麗奈、共演にチェン・ポーリンと、台湾映画『幻遊伝』と同じ顔合わせだが、映画としての出来は、こちらの方が比較的上だろう。

交通事故で視力を失い、家族も失って一人で家に引きこもる女性・ミチルの家に、殺人事件の容疑者として追われている、中国で生まれ育った日本人、アキヒロがコッソリ侵入し、二人の奇妙な同居が始まる…というストーリー。

乙一の作品は、文章力はあまり褒められたものではないものの、アイディアやストーリー構成は結構面白く、深く考えずに読む分には、充分に楽しめるものだが、本作やその他、脳内人物と会話したり幽霊と交流する話など、どちらかと言えば映像化には不向きな作品が多い。

身体障害者を扱った作品をいくつも撮っている、天願大介監督によって、それをあえて映像化する事に挑まされた本作だが、どうも大成功とは行かなかった模様だ。

まずミチルとアキヒロ、それぞれの主観によって見せられる、周囲の情景描写や本人の感情描写と、それに伴うストーリーの進行があり、二人が完全に互いの存在を認識した段において、"二人の物語"へと移行していく、という構成で作られているのだが、ミチルが盲人という設定を活かし、盲人が感じる周囲の状況描写を積み重ねて、読者にストーリーを伝えるという、原作の手法は使われておらず、普通に客観的な視点でそれぞれ二人を追っているため、"見えないからわからないもの"、"見えなくてもわかるもの"、"見えないからこそわかるもの"の対比の妙などが全く表現されていない。これでは映画を3部構成にした意味があまり無いだろう。

が、その様な、原作の最も特徴的で魅力的である部分が無くなってしまっている分、他のところで面白さを出そうとしている事もわかる。

例えばファーストシーンでは、ミチルの目が見えない事を観客に明かさず、その後の場面で「実は見えていない」事をハッキリと観客に伝えるなど、観客の興味を引きつける演出や構成は上手い。

また、原作では普通の日本人だったアキヒロを、中国帰りという設定にする事で、"周囲になじめない人間"の内面的な問題点をより複雑にするとともにわかりやすくもするという、上手い設定変更も見られる。(これは配役が先行した事による付随的なものなのだろうが)

奇妙な同居を通じ、ミチルが少しずつアキヒロの存在を感知して受け入れていく、二人の距離感の変化が、見どころの一つなのだが、これに関しては、原作での、ミチルが積極的に存在を確認しようとする場面が省略され、なんとなく気づいていたのが、突発的な事故で完全に明らかになる、という流れになっており、原作ファンは不満に感じるかもしれないが、これは上手い省略だろう。

本作の最重要テーマは、自分の殻に閉じこもっていた二人の男女が、奇妙な出来事を通じて前を向く様になる、その心境変化のドラマティックさであり、アキヒロの存在に気づいた時点では、まだ引きこもっていたミチルに、あまり能動的な行動をとらせない方が、後の展開が効果的に生きてくるのだ。

だが、視力を失った原因が交通事故だからこそ、外に出る事を恐れていた、そのミチルが閉じこもる様になった肝心な理由の描写が、かなり説明不足だったのでは、とも感じる。ここをしっかり描いておかないと、何故そこまで出たがらないのかもわかりにくいし、思い切って出た後の混乱にも感情移入し難いだろう。

また、終盤に畳み掛ける様に明らかになる、殺人事件の真相も、その謎解き自体はそれなりに面白いのだが、このサスペンス的な要素と、二人の交流と成長とが、実は大して有機的に絡んでおらず、単に二つの事象が並行して進んでいるだけに終わっているのは問題だ。ここはもう少し脚本を練り込み、全ての流れが大きくまとまって結実する構成にしてほしかったところだ。

本当は見えているのに見えない様に見せかけ、その上で、見えないけど感知出来るものもある、と観客に感じさせる、難しい盲人の役どころを演じた田中麗奈の演技力、表現力は秀逸。さすがに若い頃から多くの作品で様々なキャラクターを演じてきただけの事はある。

相手役のチェン・ポーリンも、伏し目がちな暗い表情と、カタコトの日本語が上手くマッチしており、周囲に馴染めない孤独な男を好演している。

主人公二人の演技はなかなか楽しめるものだが、ストーリー展開が少し乱暴で、おまけに内容に比して少し長過ぎる。原作ファンや出演者のファンなら見て損はないだろうが、そうでない人にとっては、あまり期待せずに臨めばそこそこは楽しめるという程度だろう。もうひと踏ん張り欲しかった。



tsubuanco at 17:21│Comments(4)TrackBack(19)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 名無しさん   2007年06月07日 17:22
田中麗奈すげー
けど月光はもっとすげー
2. Posted by つぶあんこ   2007年06月07日 22:53
つまり田中麗奈が月光をやれば最強と
3. Posted by kimion20002000   2007年07月08日 00:07
ちょっと田中麗奈は、日本の女優陣にあって、独特の位置を保っていますね。
質の高いCM以外に、テレビにやたらでないところが、好感持てます。
4. Posted by つぶあんこ   2007年07月09日 17:26
質の低い映画には出るんですけどね(笑

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