2006年12月15日

麦の穂をゆらす風 75点(100点満点中)

流石だな兄者
公式サイト

1920年代のアイルランド独立戦争前後を、イギリス人監督であるケン・ローチがアイルランド人側の視点で描いた、カンヌ映画祭パルムドール受賞作品。

社会性が強く娯楽性のない、極めて重いストーリーでありながら、また、局地的な題材を扱いながらも、普遍的な主張をわかりやすく伝えるかたちに作られている。

アイルランド独立前夜、IRA幹部の兄を持つデミアンを主人公とし、医者志望であった彼が、アイルランド内でのイギリス軍人の暴虐を目の当たりにし、独立運動へ身を投じていくストーリーが前半のメインとなる。

この前半で見せられるイギリス軍の、あまりにディフォルメされた悪者としての表現は、偏向しすぎではとも感じてしまうのだが、イギリスは明確に悪として描く一方で、アイルランド側もまた必ずしも善ではない描き方をされている事が、本作の特色だろう。

「悪いイギリスを追い出して、めでたしめでたし」の様な、単純な図式に終わらせる事を拒否し、後半には講和条約の締結後の、今度は条約の内容を巡ってアイルランド国内で勢力が二分し、昨日まで共に戦っていた者達が銃を向け合い殺し合う、主人公兄弟に降り掛かる悲劇的な運命を見せ、そのまま物語の幕を閉じてしまう、爽快感の欠片も無い展開が観客の心を抉る。

親しい仲間を"裏切者"として自らの手で処刑した主人公が、最後には自分が"反逆者"として兄の指令で処刑されるなど、前半で見せた展開を後半では別の似たかたちで見せ、人間関係の変遷と皮肉な運命を提示する手法が随所に配置され、争いや諍いの不毛さを強く主張している。

同じくアイルランド独立を扱った、96年の『マイケル・コリンズ』とは違い、創作の人物である名も無い一般人を主人公とした本作、大局に翻弄されながらも、自分の意志で生き方を選び懸命に生きる、"人間"が見事に描かれている。

本作の題材はイギリスとアイルランド間の問題だが、同様の諍いはいつの時代も世界中で起こっている事であり、監督が本作で語りたい事は、表面的に感じられる"反英"ではなく、普遍的な"反戦"思想である事は明白だ。

予算や規模的なスケールは小さいながらも、硫黄島二部作に匹敵する戦争映画の傑作として、一見の価値は充分にある。

イギリスとアイルランドは仲が悪い、程度の知識さえあれば問題ないだろうが、アイルランド史をある程度予習しておいた方が、より楽しめるかもしれない。



tsubuanco at 11:21│Comments(4)TrackBack(8)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by か   2007年01月25日 22:12
しかし、このタイトルで何の映画か解るのも嫌だな。
2. Posted by つぶあんこ   2007年01月27日 11:14
いや、わからんでしょ。
3. Posted by 電線の鳥   2007年02月17日 15:23
 確かに英兵は悪逆非道に描かれていますね。
 ただ、英軍の事情の比重を高めると、筋として複雑になりすぎてしまうので、「ソンムの戦い」についてなど、セリフでフォローする方法を採ったのかな…と思います。
 また、私がこれまで観たローチ作品は、悲惨さの中のユーモアが持ち味でしたが、「麦の穂…」では封印されていて、終始緊迫感のある語り口でした。
4. Posted by つぶあんこ   2007年02月19日 16:16
あくまでもアイルランド人視点の物語ですので、イギリスは単純に"敵"にしておいた方がわかりやすいと思ったんでしょうね。

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