2006年12月17日

犬神家の一族 40点(100点満点中)

白い顔
公式サイト

角川映画第一弾として30年前に製作され大ヒットし、現在でも内容は知らなくともタイトルくらいは誰も知っている存在となった、横溝正史原作『犬神家の一族』を、旧作と同じ監督・市川崑&主演・石坂浩二で再映画化。

監督と主演が同じで内容もほぼ同じ、おまけに観客のある程度は既にその内容をオチまで知っている題材で、「あえて"同じ映画"を作る必要があるのか?」と疑問に感じる人もいるかもしれない。だが、例えば古典芸能の世界において、同じ役者が同じ舞台を何十年も演じるといった現象は普通に行われており、それに対し「おなじ演目ばかりするな」という批判は当たらないだろう。

映画の世界においては、30年前の作品なら、もはや古典と呼んでも差し支えのない存在だ。それを改めて"作り直す"事に、意味がないとは思えない。

テーマソングをはじめ、BGMの多くも旧作のメロディーをそのままに、アレンジのみ変更したものを使用している本作。旧作との大きな違いとして一番に目につくのは、やはり出演者の面々であろう。

金田一役の石坂のみならず、署長役の加藤武と神主役の大滝秀治も旧作と同じ俳優が同じ役を演じ、役どころは違うながらも、三條美紀や草笛光子など旧作キャストも各所に出演と、旧作を知っている者に懐かしさを感じさせると同時に、松嶋菜々子や深田恭子など、若い層に人気のあるキャストを加える事で、あらゆる世代にアピールする配慮がなされている。

もちろん、旧作と同じキャストは少々老けすぎて見え、逆に新キャストの中には、時代に合っていない印象を受ける演者もおり、多少のアンバランスさを感じてしまう事も確かで、今回のキャスティングは残念ながら大成功とは言えない事も確か。

特に気になるのは、やはりメインヒロイン・珠世を演じる松嶋菜々子の存在だ。旧作では島田陽子(楊子)が文句なしの"絶世の美女"を演じており、正直、美女どころか女装したホンコンにしか見えない松嶋では、文字通り"役者が違う"状態だ。

顔もそうだが、何よりも体格が良すぎるため、小夜子役の奥菜恵とツーショットで映る一連の場面などは、画面が歪んでいるのか段差のある場所に並んでるのかと、視覚的アンバランスさによって眼がおかしくなりそうで、佐智に拉致されて運ばれるシーンも、大きすぎて重労働に見えてしまっており、昭和の美女に求められる、可憐さや儚さを感じる事は出来ない。

その奥菜恵は、予告編で見られる様に、豪快に吹っ飛んでフスマに激突したり、キチガイになった後の場面では本物の大カエルを抱きしめたりと、少ない出番ながらも、文字通りの体当たりによる存在感が強く出ており好印象だ。むしろ奥菜恵が珠世でも良かったくらいだ。

犬神家の醜悪な人間関係を象徴する三姉妹、長女役の富司純子は旧作の高峰三枝子と比べても遜色なかったが、次女、三女の松坂慶子、萬田久子はどちらかといえば萬田の方が老けて見えてしまい、これはキャスティングに問題ありだろう。

役者自体の問題よりも、本作の出来を微妙なものとしてしまっているのは、演出、演技指導の面が大きい。ベテラン、あるいは実力派と言われる役者陣を揃えておきながら、誰も彼もが素人の様な棒読みで、文字通りの"下手な芝居"を見せられている風にしか感じられず、作品に没入出来ないのだ。プロの役者ではない、三谷幸喜や林家木久蔵の演技が拙いのは仕方ないとしても(だったら出さなきゃいい、とも思うが)、他の役者がそれと同レベルにしか感じられないのは問題だろう。(逆に、深田恭子はいつもああなので気にならないが)

これは、物語の進行も過去の出来事も、理解に必要な情報全てを長々とした台詞で説明しきってしまう、脚本の出来の悪さが大きな一因となっている。金田一シリーズは"説明"が見どころであるのも確かだが、映画として見せるなら、ただ喋らせるだけというのは、あまりに芸がなさすぎる。旧作に比べて少し尺が減った分、常に誰かが何かを説明し続けるだけで時間が進んでいく様にしか感じられないのだ。

映像的な面では、犬神家屋敷内部の映像で見られる、意図的に"変"に見える様に狙われている照明効果であったり、所々で挿入される、終戦直後の那須の風景など、市川崑の"良さ"を感じる部分もあるのだが、死体の造形が作り物丸出しだったり、旧作より派手に飛び散る血糊が、どう見ても絵の具丸出しだったりと、"見た目"が最も重要となる部分で、とても21世紀の大作映画とは信じられないレベルのチープさを堂々と見せつけられ、残念な部分も多い。

面白い原作の大筋に沿っているため、決してつまらなくはないのだが、これまでに映画やドラマで何度も作られた同作と比べて、突出して出来が良いとは言い難い、中途半端な結果となってしまった。

横溝正史もの、金田一ものならとにかく観る、という人ならともかく、そうでない普通の観客が満足するのは難しいだろう。リメイクする事に対し、最初にフォローを入れておきながら、こんな結論を出すのも何だが、別に作らなくても良かったのではないだろうか



tsubuanco at 15:29│Comments(7)TrackBack(22)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 【劇場鑑賞139】犬神家の一族  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2006年12月18日 20:06
3 莫大な遺産を巡って血塗られた惨劇がついに幕を開ける 絢爛な一族に起こる骨肉の争い 名探偵金田一耕助登場!
2. 犬神家の一族  [ Akira's VOICE ]   2006年12月19日 11:48
驚きと新鮮味は弱まったものの, 演技派の俳優たちによるドラマが, さらりとしながらも味わいのある印象を残す。
3. 「犬神家の一族」試写会&舞台挨拶  [ Thanksgiving Day ]   2006年12月20日 13:34
イイノホールで行われた、映画「犬神家の一族」の試写会に行ってきました!! 「犬神家の一族」といえば、横溝正史原作で何度も映像化されてる有名作品ですよね・・・とは言ってもぼくは内容をよく知らなかったんですけどね(-_-;) 『昭和23年、信州諏訪の犬神財閥の当主....
4. 「犬神家の一族」驚きが感じられないマジメなリメイク  [ soramove ]   2006年12月20日 22:02
「犬神家の一族」★★★☆ 石坂浩二 、 松嶋菜々子 、 尾上菊之助 、 富司純子出演 市川崑 監督、2006年 真面目にリメイクしたら こんなふうになりました。 今、何故この映画なのか、そんなことを 思いながら映画をみた。 石坂浩二の金田一さんは、...
5. 「犬神家の一族」見てきました。  [ よしなしごと ]   2006年12月24日 14:57
 1976年の同名映画のリメイク、犬神家の一族見てきました。金田一耕助の映画やドラマって断片的には見たことあっても、きちんと見たことないので、楽しみにしていました。
6. 犬神家の一族(2006/日本/市川崑)  [ CINEMANIAX! ]   2006年12月26日 21:23
【新宿スカラ】 信州の犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛(仲代達矢)が永眠した。佐兵衛には腹違いの3人の娘、松子(富司純子)、竹子(松坂慶子)、梅子(萬田久子)がおり、それぞれに佐清(尾上菊之助)、佐武(葛山信吾)、佐智(池内万作)という息子がいた。さらに、犬...
7. 「犬神家の一族」試写会レビュー レビューじゃなしに  [ 長江将史〜てれすどん2号 まだ見ぬ未来へ ]   2006年12月27日 22:50
完璧でしょ。原作や旧作を観ていない勉強不足のエセ芸大生にとってもそう感じられました。さて公開後の反響や興業はどうなるでしょうか。日本映画の信念を貫いた上での成功を期待しています。
8. 真・映画日記『犬神家の一族』〈2006年〉  [ CHEAP THRILL ]   2006年12月29日 06:41
12月26日(火) 一日雨だった。 つらいったらありゃしない。 おかげで仕事は午後6時40分に終業。 この時間から見れそうなのは有楽座でやっている『犬神家の一族』くらい。 神谷町から日比谷線で銀座に移動。 C1の出口からすぐに有楽座へ。 客入りは2割いるかいな...
9. 「犬神家の一族」(2006年版) 贅沢なリメイク版・・・ (追記)   [ 取手物語??取手より愛をこめて ]   2006年12月29日 09:10
「犬神家の一族」のリメイク、しかも市川+石坂コンビで。これは金田一耕助ファンの私には非常に嬉しいと同時に、やってほしくなかったという気持ちと半々で非常に複雑なところでした。
10. 市川崑の金田一耕助 ??「犬神家の一族」(2006) 天使のような風来坊  [ 取手物語??取手より愛をこめて ]   2006年12月29日 09:10
「犬神家の一族」を鑑賞して1週間経つ。ここへきてやっと映画プログラムの表紙をめくった。
            意味はないが、過去最長(たぶん)のタイトルにしてみた(爆)市川崑監督が自らメガホンを取り、30年ぶりにセルフリメイクした、横溝正史・原作『犬神家の一族』が12/16の公開に先駆けて、第19回東京国際映画祭のクロ...
12. 市川崑の金田一耕助 ??「金田一です。」(石坂浩二著) 天使のような風来坊2 (追記)  [ 取手物語??取手より愛をこめて ]   2007年01月06日 01:51
「犬神家の一族」(2006)を鑑賞してから約半月。ここへきてようやく「金田一です。」(石坂浩二著)に目を通した。
13. 犬神家の一族  [ いろいろと ]   2007年01月07日 00:46
12月16日より公開してます。 監督 市川 こん 主演 石坂浩二、松嶋菜々子、尾
14. 「犬神家の一族」驚きが感じられないマジメなリメイク  [ soramove ]   2007年01月08日 21:37
「犬神家の一族」★★★☆ 石坂浩二 、 松嶋菜々子 、 尾上菊之助 、 富司純子出演 市川崑 監督、2006年 真面目にリメイクしたら こんなふうになりました。 今、何故この映画なのか、そんなことを 思いながら映画をみた。 石坂浩二の金田一さんは、...
15. 犬神家の一族  [ 勝弘ブログ ]   2007年01月15日 02:34
http://www.fujitv.co.jp/inugami/映画館にて犬神家の一族微妙だ・・・そもそもこの話って佐清が戦争が終わった後とっとと帰ってくれば事件が起きなかったのでは?かなり後味悪いかも・・・殺人シーンのとき血を流すシーンは必須で??)
いやいやまったく… 市川崑は『犬神家の一族』撮る前に死んぢゃったほーがよかったん
17. [映画]犬神家の一族  [ お父さん、すいませんしてるかねえ ]   2007年01月20日 22:04
リメイクって言うのは否応なく前作と比較されるものです。 「椿三十郎」をリメイクした森田芳光監督は 「ぼくは比較されるの好きですから、どんどんしてください。  クロサワ作品をリメイクできて光栄、という気持ちのほうが大きい」 と言っていました。 市川崑監督は自作
18. 映画:犬神家の一族  [ 駒吉の日記 ]   2007年01月23日 11:43
犬神家の一族@シネマイクスピアリ 「あなたが犯人ですね」 30年前の作品のリメイク、キャストは金田一耕助(石坂浩二)、大山神官(大滝秀治)変更なし。76年版では那須ホテルの主人=横溝正史が三谷幸喜、犬神梅子=草笛光子→お琴の師匠に。 正直サプライズはな...
19. 犬神佐兵衛翁、遺言状にこめた真実の愛 ??「犬神家の一族」  [ 取手物語??取手より愛をこめて ]   2007年10月07日 16:05
「犬神家の一族」の原作を今読み終えた。
20. 犬神家の一族  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年01月04日 21:51
 『金田一さん、事件ですよ──』  コチラの「犬神家の一族」は、言わずと知れた横溝正史の大ヒットミステリー"金田一耕助"シリーズの映画化です。12/16公開になる市川崑監督のセルフ・リメイクなのですが、試写会で観てきちゃいましたぁ〜♪  オリジナルは76年製作と...
21. 「犬神家の一族」(2006)  [ 日々のつぶやき ]   2008年01月07日 18:51
監督:市川崑 出演:石坂浩二、松嶋菜々子、深田恭子、富司純子、尾上菊之助、松坂慶子、萬田久子、奥菜恵 市川監督、脚本、音楽、主演が同じ状態でのセリフリメイク作品。 「日本映画専門チャンネル」にて観賞。 現代版にしたわけではないようです。冒頭から、かな
22. 犬神家の一族  [ 読書と時折の旅 (風と雲の郷本館) ]   2008年02月22日 20:45
 月曜日の夜は、「巨匠・市川崑監督追悼緊急特別企画映画」と銘打って、TBS系の月曜ゴールデンで「犬神家の一族」をやっていた。1976年に、やはり市川崑監督によって映画化された作品のリメイク版で、2006年に公開されたものだ。 舞台は信州。大財閥の犬神佐兵衛が死...

この記事へのコメント

1. Posted by ルークofルーク   2006年12月18日 16:46
僕は旧作を観ていないので気になってはいるんですが・・・
映画の番線番組で見た首が落ちる映像・・・古い遊園地のお化け屋敷並で逆にビックリ。

デビルマンの酒井彩奈HEADの方がよく出来ていたと^^;

金田一自体は今の石坂さんの方が合ってる気がしますけどね。
2. Posted by つぶあんこ   2006年12月18日 17:31
新旧両方を見比べると、より楽しめるかと思います。

生首はねえ…
以前『神の左手〜』の生首がチープと書いた事がありますが、
まさかそれと同レベルとは思いませんでした。

葛山信吾の生首なんて、あまり見る機会もないでしょうに、
勿体ない事です。
3. Posted by ルークofルーク   2006年12月18日 19:48
あれ・・・葛山さんだったの・・・まったく気付かなかったです・・・^^;
なんで特殊効果というか、今の技術に長けている人を使わなかったのだろう・・・

気にはなっているので両方見ます。
坂口良子さんが好きなので、旧作の方が楽しみ
4. Posted by 1イエローストーン   2006年12月30日 01:15
こんばんは。
このリメイクで一番の問題はその核の置き所である。市川監督が自信でリメイクにあたって当初、オリジナルと同じにつくれる自身がなく、同じ脚本では下手である可能性が高いとプロデューサーに言っている。監督自身が一番、オリジナルにちかづけることは不可能だと強く感じている。その状況下で作品化するうえで、あえて核の置き所を変えた。ここが言ってみれば最大の失敗で、それは必然であった点であるでしょう。
その横溝の奥深さ、本来強い核であるべき、佐兵衛翁の怨念に転ずる狂気と言うべき真の愛が描ききれていない。
非常にファンとしては複雑な心境のリメイクであります。
5. Posted by つぶあんこ   2007年01月04日 18:19
只でさえ時間が短くなってますからねえ。
6. Posted by SE30   2007年02月14日 00:51
その「女装したホンコン」を使うのが、プロデューサーが出した絶対条件だったはず。これなら数年前のTVの稲垣金田一のほうがましですか。どうせやるならリメイクではなく、「悪魔が来りて笛を吹く」が見たかったです。
7. Posted by つぶあんこ   2007年02月14日 11:22
リングも松嶋主演でしたねえ。そう言えば。
アレは好きですけど。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments