2006年12月20日

エラゴン 遺志を継ぐ者 60点(100点満点中)

我がまま 意のまま ガルバトリックス
公式サイト

アメリカのオタク少年、クリストファー・パオリーニが10代後半で自費出版し、今ではヨーロッパや日本などでも出版されている児童小説『ドラゴンライダー三部作』の第一部を映画化。

かつてはドラゴンライダーと呼ばれる最強の騎士集団が存在した世界、ライダーの一人・ガルバトリックスが仲間を裏切り、他のライダーを全て殺し自らが世界を支配する王となった。数少ないドラゴンの卵を偶然手に入れた主人公・エラゴンは、ドラゴンライダーとして王に狙われる身となるも、旧世代のライダーの生き残りであるブロムに出会い、彼の指導で戦い方を学んでいくが…というストーリー。

洋の東西を問わず、オタクが中高生時代に書く作品というものは、自分が好きな作品から様々な要素を拾い集めてつぎはぎした、"どこかで見た様な"作品になってしまう事が多い。

本作もそれに違わず、既に世界中で指摘されている通り、登場人物や世界の構図はどう見てもスターウォーズのそれでしかない。エラゴンはルーク、ドラゴンライダーはジェダイ、ガルバトリックス王はダースベイダー&シス、ブロムはオビワン・ケノービ、アーリアはレイア姫といった具合に、本当にそのまんまだ。

そもそもスターウォーズ自体、王道的なヒロイックファンタジーをスペースオペラの世界観で描いたもので、それをまたファンタジーの世界に回帰させただけだ。

その他の設定なども、そのほとんどが『指輪物語』を始めとする、古典ファンタジー作品から拝借してきたものばかりで、設定的な部分でのオリジナリティと呼ぶべきものは、本作からほぼ見受けられない。

それでも尚、原作が若い層を中心に支持されている理由は、主人公のライダーとしての、人としての成長、レベルアップが、パートナーであるドラゴンの肉体的成長、レベルアップと絡み合って進行していく様が、細かい描写を積み重ねて綿密に描かれている事が大きいのだろう。

何より、"ドラゴンライダー=竜騎士"という要素は、いかにも男の子が好きそうなファクターであり、しかも主人公が乗るドラゴンをメスに設定した事で、両者のパートナーシップを単純化させない役割を果たすとともに、独自性を出しているのだ。

さて今回の映画版だが、大筋は原作の流れに沿っていながらも、長い原作を二時間足らずの尺に収めるために、かなりの大幅な省略と、それに伴う改変がなされている。

本作は原作からして児童向けであるため、『ロード・オブ・ザ・リング』の様な三時間もの長尺にせず、比較的短くまとめる事は正解。原作ファンからすれば、「ここがない、あそこもない」と、物足りなさを感じるかもしれないが、原作を知らず映画だけを観た人にとっては、特に違和感なくまとめられていると感じるはずだ。少なくとも、これほど大胆に省略を行いながら、破綻も説明不足もあまり無いつくりは評価していいだろう。

と言っても、物語の展開に説得力を持たせるために必要な、パートナー関係や師弟関係の蓄積まで省略されている事から、最も大事なはずの"主人公の成長物語"としての側面が薄味なのも事実で、ここは原作ファンならずとも、物足りなさを感じる部分だろう。

原作ではもっと長く行動をともにしていたマーダグの出番も、取って付けた様なものに感じ、原作ファンなら物足りないだろうし、そうでない人には何のために出てきたのかわからないキャラクターになってしまっているかもしれない。

また、原作ではヒロイン・アーリアはエルフ族で、反乱軍の中にはドワーフなどの種族もいるのだが、映画での彼女らは普通の人間にしか見えない外見で、他の人間キャラとの差異が全く示されていないのも残念なところだ。

特に原作におけるエルフ族の存在は、ドラゴンライダーの基本設定や主人公の出生の秘密、名前の意味など、物語の根幹に関わる重要なファクターなので、この部分はもっとこだわってほしかったところだ。そもそも原作を知らずに彼女がエルフと気づいた人は皆無だろう。アーリア役のシエンナ・ギロリーが、『バイオハザード2』のジル役とは外観イメージは全く異なるものの、相変わらずの肉体派戦闘ヒロインを見事に演じてくれているだけに勿体ない。

ファンタジーやSFは、何よりも徹底した世界の構築こそが大命題であり、それがいい加減だと物語に深みが出ず、作品の価値自体が下がってしまう事に繋がる。子供向けとは言えそれは同じ事で、長年にわたり評価を得て支持され続けている作品は、その基本的な部分がしっかりしているのだ。それが蔑ろにされてしまっては、魅力も半減するというものだ。

だが、設定やストーリーもだが、何より今回の映画化で期待されていたものは、やはり最新の技術を駆使してリアルに見せられる、ファンタジー世界の再現や、戦闘の迫力、そして竜の生物感、飛翔感の表現だろう。

まず世界を表現する風景だが、実景において空撮を駆使して撮られた、広大な自然の映像は、邦画ではまずありえない、美しい景色を楽しむ事が出来、地上を馬で駆け、上空を竜が飛ぶ、本作における"旅"の表現を上手く見せているのだが、マット画を合成した背景や、村や砦などセットとして組まれた部分は、ハリウッド大作にしては多少のチープさを感じてしまうもので、特にセットの狭さは実景の広がりとのギャップで余計に強く感じられる事となり、視覚的な楽しみとしてはマイナスだ。

また、地上で両軍が入り乱れて戦う、クライマックスの戦闘シーンも、上述の狭さが理由なのか、全体的な戦闘の推移の表現が弱く、個別の格闘においても、やたらと短くカットを割ったアップの画が続いて、殺陣の流れがわかり辛いものとなっているのは残念。

その一方で、本作のメインファクターとなるドラゴン・サフィラに関する一連の映像は、かなり楽しめるものとなっている事も確かだ。LotRやキングコングを手がけたWETAに比べ、ILMのCGでは物足りないかもしれないとの予想を覆し、ドラゴンがそこに生きて存在していると自然に見える、質感や動きのリアル感や、サフィラやエラゴンの視点による、上空を飛行する"空の広さ、高さ"あるいは"風を切る速さ"を感じる映像表現は臨場感たっぷりで、劇場の大画面で見れば、自分が空を飛んでいるかの様に感じられる、よく出来たものだ。

この"飛行"の映像の出来の良さが、クライマックスにおける、サフィラに乗るエラゴンと、魔物に乗る中ボスキャラとの、大迫力の空中戦に結実している。未熟な竜騎士が不死身の敵幹部に決死の覚悟で挑む勇壮さ、攻防が上空で行われている事による、いつ墜落してもおかしくない緊張感などが、まるで板野サーカスの様に目まぐるしく視点が動く映像で表現され、この部分は、文字通りクライマックスの言葉に相応しい、充分に楽しめるものとなっている。

子供向けヒロイックファンタジー映画としては及第点の出来ではあるが、一般の大人の観賞に堪えうるかと言われれば、少し厳しい。興味のある人は、その辺りを踏まえた上で、あまり期待せずにどうぞ。



tsubuanco at 10:25│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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