2007年01月05日

人生は、奇跡の詩 70点(100点満点中)

公式サイト

感動コメディ映画、『ライフ・イズ・ビューティフル』で有名なイタリアの映像作家、ロベルト・ベニーニの最新作。またまた監督&主演はベニーニ本人、仕事とプライベートともにパートナーである、ニコレッタ・ブラスキがヒロインを務める。

『ライフ〜』では、ナチスの収容所を舞台としていたが、今回はイラク戦争真っ最中の、03年のバグダッドをメインの舞台とし、"現実の戦争"を舞台に、笑いと感動のドラマを繰り広げるストーリーや、"この世の地獄"の中にあっても、どこまでも諦めず前向きに行動する主人公と、基本的な作風は変わらず。

そうした、ベニーニの特色とも言える部分を受容出来るかどうかで、作品の楽しさにハマれるかどうかが決まるのだろう。留まる事を知らずベラベラとマシンガンの様に喋り続ける主人公を、「ウザいから黙れよ」と嫌ってしまう人もいるだろうし、現実に被害者が存在する戦争を、笑いのネタにしてしまう事に、抵抗を感じる人もいるかもしれない。

だが、架空ではなく現実の戦争を題材にしているのは、観客に対する説明を省略出来る利便性もあるだろうが、それだけではなく、劇中で起こっている"地獄"を、観客がリアルなものとして実感出来、作品世界に没入するとともに主人公に感情移入しやすくするため、という配慮と、ネガティブな問題を真っ正面から徹底的に笑いものにする事で、それに対する批判、否定と言った、製作者の主張をも、よりわかりやすく伝える事が出来、また、生き死にの瀬戸際という"最底辺の状況"において、それを突き崩す事で、よりテンションの高い笑いを生み出す、そう言った意図があるのだろう事は、容易に推察される。

実際、例えば体中に医療品をぶら下げて検問を通ろうとする主人公が、彼をテロリストと思い込んだ米兵に包囲される場面などは、現実で実際に起こった事象を連想させつつ、あり得ないドタバタを展開させ、そのギャップを楽しませる、上質のコメディシーンとして成立し、尚且つ社会派のテーマも盛り込んだ上で、後の展開の伏線になる、奥深い場面に仕上がっている。

表層的な一面ではなく、この様に、表から裏まで、作品に込められたあらゆる要素を汲み取りながら鑑賞するならば、先述の様な拒否反応は起こらないはずだ。

また今回はそれだけではなく、主人公とヒロインの関係性を、当初はほとんど説明をせず曖昧なままで見せて、観客の想像を促しながら意図的にミスリードさせ、それが伏線となって、ラストで見せる"オチ"に、「おお、そういう事だったか」と感心させられる、小憎いギミックも用意されている。

基本的に主人公視点で終始展開するストーリーにおいて、主人公が理解出来ない事は観客にも伝わらず、逆に主人公が得た理解は観客にスンナリ伝わる、主人公と観客を一体化させるべく考えられた作りも秀逸。

丁寧に進行するそれまでの流れから打って変わって、まるで打ち切り最終回のごとく、時間も場所も省略されまくって慌ただしく展開する終盤には、そこを観ている段階では面食らって「なんだこりゃ」と首を傾げる事となるのだが、それが実は"オチ"をより際立たせる為の"仕掛け"であった事に気づかされるなど、構成がいちいち凝っているのが素晴らしい。

ただ、バグダッドパートの終盤において、ヒロインが結局どうなったかを意図的に見せずにおいたのに対し、"オチ"よりも先に一度ヒロインを見せてしまったのは失敗に思える。これはやはり、"オチ"で観客を驚かせてから、回想などで解題を見せる様にした方が、より面白くなったのではないだろうか。

また、原題『La Tigre E La Neve』および、序盤の会話が伏線となる、終盤の唐突なギミックも、あまりに唐突すぎて観客が置いてけぼりになってしまうのも、気になるところだ。

詩人で饒舌な主人公の設定を活かす為の、アドリブを盛り込んだ長回しカットによる"演説"や"掛け合い"の多用は、"言葉"という存在が持つ、豊かさ、面白さをあらためて知らしめてくれる演出であり、省略されがちな字幕よりも、忠実に翻訳された吹替えで観てみたいと思わせるもの。(本当はイタリア語がわかれば一番いいんだが)

イラクの夜空の星明かりと、空爆や対空砲火の戦火の明かりを対比させる映像や、既に40半ばであるにも関わらず、『ライフ〜』の頃より美しく見えるニコレッタ・ブラスキの、変わらぬどころかより増大していそうな夫婦愛を強く感じる撮り方など、ストーリーだけでなく視覚的にも楽しませる様作られており、全編通してダレる事は無い。

ジャン・レノ演じる主人公の友人の存在もまた、彼だけはコメディに関わらず終始シリアスな演技で通し、シリアスな退場を見せる事で、主人公とのテンションの落差を生んで面白さを際立たせつつ、戦争の持つネガティブ面をも強く見せつける事に成功している。

笑って泣いて感動できる娯楽作品であると同時に、社会派ドラマとしても、人間を描くドラマとしても"リアル"を忘れない、良質の一品。『ライフ・イズ・ビューティフル』が好きな人なら、文句なしにオススメ。そうでなくとも、機会があれば是非。

少し引っかかるのは、あまりにキレイにまとまりすぎで、逆に平凡になってしまっている邦題。原題の『虎と雪』でも何が何やらなので、少し気の利いたタイトルが欲しかったところ。


tsubuanco at 13:53│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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