2007年01月11日

明日へのチケット 50点(100点満点中)

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パルムドール受賞者である、エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチの三監督によって共同製作された、ローマ行きの列車内を舞台とし、様々な人間模様を描いたオムニバス映画。

大きく三つのエピソードに分かれる本作だが、同じ車内で行われるドラマと言う事で、微妙に人物が被って登場し、特に全エピソードにて印象的な存在となるアルバニア人家族が、本作全体の縦糸となるギミックとされている。

老教授の淡い恋心を描いた一本目(エルマンノ・オルミ監督)は、物語自体は平凡ながらも、同じ時間を何度も繰り返して別の視点で見せる構成、演出は秀逸。

意図的にアップを多用する事で、会話と沈黙が交互に繰り返される流れにおいて、表情の変化を顕著に観客に見せる事で、各人物の心情を理解させる、演出と見せ方は上手い。

更にこの段において、本作の舞台となる列車内の、基本的な空気を観客に印象づけ、後に続くエピソードへの導入部となる役割も果たしている。

単にお話を追っているだけの見方なら、退屈に感じてしまうかもしれないが、なかなかに奥深い作り込みがなされているのだ。

続く二本目(アッバス・キアロスタミ監督)は、ワガママ意のまま傍若無人な老婦人と、それに振り回される若者・フィリッポを主人公としたエピソード。

この老婦人が持つ極めて強烈な個性を、時にコミカルに、時に嫌悪感たっぷりに表現し、観客の感情をコントロールしてオチの"やっちゃった感"へと結実させる、脚本構成のみならず、"イヤなババア"をパワフルに演じるシルヴァーナ・ドゥ・サンティスの演技力、表現力は見事。

美人でナイスバディなオトナの女性や、フィリッポと会話する14歳の少女の初々しい可愛らしさを印象的に映し出す事で、この老婦人の"醜さ"を殊更に強調している、その見せ方も良くしたもの。

特に14歳の少女の存在感はかなりのもので、決して美しい顔立ちとは言えない上に、前歯には矯正のワイヤーまで見えているにもかかわらず、瑞々しい"可愛さ"を表現しており感心させられる。歯の矯正は"子供"を、薄着の服装は"オトナ"を暗喩し、その両者が融合した、大人と子供の中間点に位置する少女の魅力を、存分に語っているのだ。

三本目(ケン・ローチ監督)となる、スコットランドのサッカーチーム、セルティックのサポーター三人組を主人公としたエピソードは、本作を締めるに相応しいものに仕上がっている。

普段はスーパーマーケットで働くブルーカラーであり、試合の際にはユニフォームを着て応援に熱中する、欧州のサッカーファンの典型とも言うべき若者達を、良い面だけでなく駄目な面までをも、コミカルで人間味溢れる演出で見せて感情移入させ、そんな彼らを襲う"事件"において、ここまでに続けて登場したアルバニア人家族が伏線を回収し、物語を完結へと導く、一人一人の"人間"をとことんリアルに描き、よく練られた構成には唸らされる。

日本人には馴染みの薄い、"難民"を扱っているだけに、少し感情移入が難しく、展開に納得が行き辛い部分もあるのだが、当事者の立場を想像してみれば、その辺りも受け入れられるだろう。

作中にて終始、BGMの様に流れる"電車の音"もまた、"人間ドラマ"を心地よく彩っている。

地味な作品ではあるが、観て損したとは感じないであろう一品。中村俊輔が所属するセルティックと、その対戦相手は中田英寿が所属していたローマと、何故か日本人受けを狙った様なネタまで存在する本作、機会があればどうぞ。


tsubuanco at 17:46│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

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