2007年01月20日
ディパーテッド 75点(100点満点中)07-020
スパイ vs スパイ
公式サイト
警察と犯罪組織、その双方にそれぞれ潜入している互いのスパイ二人を主人公とし、騙し騙され殺し合う、先読み不可能なサスペンス・ストーリーが高く評価された香港映画、『インファナル・アフェア(無間道)』を、ハリウッド映画界の巨匠、マーティン・スコセッシ監督がリメイク。
香港からアメリカへと舞台を変更した本作、おおまかなストーリーは元作を踏襲しながらも、スコセッシ一流の語り口と解釈の追加により、全く違った印象を受ける、クール&ドライなクライム・サスペンス映画に仕上がった。
元作でアンディ・ラウが演じた、警察内への"ネズミ"(役名:コリン・サリバン)を、マット・ディモンが、トニー・レオンが元作で演じた、犯罪組織への潜入捜査官(役名:ビリー・コスティガン)を、レオナルド・ディカプリオが、それぞれ演じた本作。まず冒頭で、それぞれがスパイとなる成り行きをしっかりと描く事で、元作ではなかなか受け入れ難かった、作品の基本設定と人物設定を理解させる導入部は、良く作られている。
特にサリバン側は、少年期の描写をファーストシーンとして見せ、犯罪組織のボス(ジャック・ニコルソン)との繋がりを強調する事で、キャラクター設定に説得力を持たせ、同時に二人の"上下関係"をもしっかり認識させる、元作にはない解釈の追加がなされており興味深い。
その事が観客に対し、長いドラマを終盤までしっかりと追わせる縦糸としての役割も果たしている事も見逃せない。
ボスの愛人となる女性も同時に、この少年期の時点で登場させておく事で、終盤の展開をよりドラマティックに盛り上げる働きも成している、いちいち気の利いた人物構造は秀逸。
元作と大きく変えられている人物設定として、まず挙げられるのが、ヒロインであるマドリン(ベラ・ファーミガ)の存在だろう。
元作では、二人の主人公それぞれに、別々の女性があてがわれていたのに対し、本作ではその両者を一人の人間にまとめてしまう事で、無駄なキャラクターを減らすとともに、二人の奇妙な運命をも醸し出させるギミックとなっているのだ。
これは、元作における、オーディオ機器を基点とした両者の繋がりに変わるものであり、物語に有機的に絡まってストーリーを進行させている、上手い改変と言えるだろう。
この様に、元作では不足していたと感じられる部分、あるいは逆に、余計であったと感じられる部分を整理した上で、主人公二人だけでなく、今回は犯罪組織のボスのキャラクターも魅力的に彫り込み、各人物の心情とその変化を、より丹念に描写する事で、物語に更に深みを与え、観客の感情移入を促しているのだ。
もちろん映像的な面でも、巨匠によりハリウッドの大予算で作られた映像は、元作を遥かに凌駕するスケールで、随所の殺人シーンや、クライマックスの大捕物シーンなど、非情かつ迫力に満ち、娯楽性も忘れない見どころとなっている。
クライマックスにて見せられる、主人公二人それぞれの心情の対比なども、そこに至るまでの道程がしっかりと描かれている分、本作の方が説得力あるものになっていたのではないだろうか。
ただ、両作に存在する、"映画館内でのやりとり"に関しては、元作の方がいい雰囲気を出せており、ボスが悪ノリしすぎな本作よりも出来は良かった様に思える。(流石にチンポ出しちゃイカンだろう)
元作とは異なる終盤から結末もまた、元作を知っていてもショックを受け唖然とするものだし、知らなければ尚更。元作の大ファンにとっては、この改変に違和感を感じるかもしれないが、これは元作の原題が『無間道』、すなわち"生き地獄"を指していたのに対し、本作は『Departed』、つまり"死者"へと変えられており、東西の思想性の差異による、方向性の違いが結末に大きく現われたと解釈するべきだろう。
後味の悪さは両作同じだが、その先を妄想させる元作と、スッパリ断ち切って終わる本作、どちらが良いかは好みの問題でしかない。(個人的には今回の潔さに好感を持つが)
元作を知っていても知らなくても、様々な視点から楽しむ事が可能な、リメイクとしても良質な秀作。元作の狂的信者以外には、文句なしにオススメ。機会があれば是非。
元作を知らない人は、知らないまま観た方が楽しめるかも。その後で見比べると、更に楽しめるだろう。
公式サイト
警察と犯罪組織、その双方にそれぞれ潜入している互いのスパイ二人を主人公とし、騙し騙され殺し合う、先読み不可能なサスペンス・ストーリーが高く評価された香港映画、『インファナル・アフェア(無間道)』を、ハリウッド映画界の巨匠、マーティン・スコセッシ監督がリメイク。
香港からアメリカへと舞台を変更した本作、おおまかなストーリーは元作を踏襲しながらも、スコセッシ一流の語り口と解釈の追加により、全く違った印象を受ける、クール&ドライなクライム・サスペンス映画に仕上がった。
元作でアンディ・ラウが演じた、警察内への"ネズミ"(役名:コリン・サリバン)を、マット・ディモンが、トニー・レオンが元作で演じた、犯罪組織への潜入捜査官(役名:ビリー・コスティガン)を、レオナルド・ディカプリオが、それぞれ演じた本作。まず冒頭で、それぞれがスパイとなる成り行きをしっかりと描く事で、元作ではなかなか受け入れ難かった、作品の基本設定と人物設定を理解させる導入部は、良く作られている。
特にサリバン側は、少年期の描写をファーストシーンとして見せ、犯罪組織のボス(ジャック・ニコルソン)との繋がりを強調する事で、キャラクター設定に説得力を持たせ、同時に二人の"上下関係"をもしっかり認識させる、元作にはない解釈の追加がなされており興味深い。
その事が観客に対し、長いドラマを終盤までしっかりと追わせる縦糸としての役割も果たしている事も見逃せない。
ボスの愛人となる女性も同時に、この少年期の時点で登場させておく事で、終盤の展開をよりドラマティックに盛り上げる働きも成している、いちいち気の利いた人物構造は秀逸。
元作と大きく変えられている人物設定として、まず挙げられるのが、ヒロインであるマドリン(ベラ・ファーミガ)の存在だろう。
元作では、二人の主人公それぞれに、別々の女性があてがわれていたのに対し、本作ではその両者を一人の人間にまとめてしまう事で、無駄なキャラクターを減らすとともに、二人の奇妙な運命をも醸し出させるギミックとなっているのだ。
これは、元作における、オーディオ機器を基点とした両者の繋がりに変わるものであり、物語に有機的に絡まってストーリーを進行させている、上手い改変と言えるだろう。
この様に、元作では不足していたと感じられる部分、あるいは逆に、余計であったと感じられる部分を整理した上で、主人公二人だけでなく、今回は犯罪組織のボスのキャラクターも魅力的に彫り込み、各人物の心情とその変化を、より丹念に描写する事で、物語に更に深みを与え、観客の感情移入を促しているのだ。
もちろん映像的な面でも、巨匠によりハリウッドの大予算で作られた映像は、元作を遥かに凌駕するスケールで、随所の殺人シーンや、クライマックスの大捕物シーンなど、非情かつ迫力に満ち、娯楽性も忘れない見どころとなっている。
クライマックスにて見せられる、主人公二人それぞれの心情の対比なども、そこに至るまでの道程がしっかりと描かれている分、本作の方が説得力あるものになっていたのではないだろうか。
ただ、両作に存在する、"映画館内でのやりとり"に関しては、元作の方がいい雰囲気を出せており、ボスが悪ノリしすぎな本作よりも出来は良かった様に思える。(流石にチンポ出しちゃイカンだろう)
元作とは異なる終盤から結末もまた、元作を知っていてもショックを受け唖然とするものだし、知らなければ尚更。元作の大ファンにとっては、この改変に違和感を感じるかもしれないが、これは元作の原題が『無間道』、すなわち"生き地獄"を指していたのに対し、本作は『Departed』、つまり"死者"へと変えられており、東西の思想性の差異による、方向性の違いが結末に大きく現われたと解釈するべきだろう。
後味の悪さは両作同じだが、その先を妄想させる元作と、スッパリ断ち切って終わる本作、どちらが良いかは好みの問題でしかない。(個人的には今回の潔さに好感を持つが)
元作を知っていても知らなくても、様々な視点から楽しむ事が可能な、リメイクとしても良質な秀作。元作の狂的信者以外には、文句なしにオススメ。機会があれば是非。
元作を知らない人は、知らないまま観た方が楽しめるかも。その後で見比べると、更に楽しめるだろう。
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1月20日(土)
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5. ディパーテッド [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ] 2007年12月14日 23:39
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映画の質とは無関係に、僕は...
この記事へのコメント
1. Posted by エスプレッソ 2007年01月23日 18:21
ビリー側の内面は深く描かれたのに対して
コリン側は結構あっさりしてましたね。
やっぱり2時間程度に収まるように作ると
キャラ描写が甘くなるのは仕方ないんでしょうかね。
ジャックニコルソンは嫌というほどキャラ立ってましたが…
コリン側は結構あっさりしてましたね。
やっぱり2時間程度に収まるように作ると
キャラ描写が甘くなるのは仕方ないんでしょうかね。
ジャックニコルソンは嫌というほどキャラ立ってましたが…
2. Posted by つぶあんこ 2007年01月24日 09:24
内面、というか、議事堂が見えるマンションに
引っ越すところなんかで、彼の上昇志向をわかりやすく視覚化した上で、ラストショットにも繋げるとか、いろいろ工夫は見られたんですけどね。
引っ越すところなんかで、彼の上昇志向をわかりやすく視覚化した上で、ラストショットにも繋げるとか、いろいろ工夫は見られたんですけどね。
3. Posted by シゲ 2007年01月31日 16:56
冒頭、タイトルまでのシーンは、元作のパート2を簡略化したものです。
でも、ヒロインの配置は秀逸でしたね。自分は元のも好きですが、コチラのほうが主役2人の繋がりが深くなってていいと思いました。
でも、ヒロインの配置は秀逸でしたね。自分は元のも好きですが、コチラのほうが主役2人の繋がりが深くなってていいと思いました。
4. Posted by つぶあんこ 2007年02月01日 14:28
ですよね。
ボスの愛人ってインファにも出てましたっけ。
記憶が曖昧。
ボスの愛人ってインファにも出てましたっけ。
記憶が曖昧。
5. Posted by ゆりンコ 2007年10月03日 05:02
結局は3人とも死ぬんですね。
6. Posted by つぶあんこ 2007年10月03日 17:40
終盤に連鎖的に死にまくるのが笑いどころです。
7. Posted by kimion20002000 2009年01月16日 22:56
たかがリメイクと侮っていましたが、本作の脚本と改訂はしっかりとしています。
ただ、個人的な情緒の問題であるのでしょうが、僕はマドリンに感情移入ができませんでした。
そして、好みの問題でしょうが、やはり東洋的虚無の前作のほうに、惹かれるものです。
ただ、個人的な情緒の問題であるのでしょうが、僕はマドリンに感情移入ができませんでした。
そして、好みの問題でしょうが、やはり東洋的虚無の前作のほうに、惹かれるものです。