2007年01月30日

あなたを忘れない 10点(100点満点中)07-030

テリーマン、失格
公式サイト

2001年、ワイドショーなどで大きく取り上げられた、JR新大久保駅での転落事故を題材に、犠牲者の一人、韓国人留学生イ・スヒョン氏を主人公のモデルとし、ほぼ創作ストーリーで描かれる、日韓合作映画。

現実に起こった事故は、まず泥酔した男性がホームから線路へ転落し、それを助け上げようとスヒョン氏と関根史郎氏が線路へ飛び降りるも、救出が間に合わず三人ともが電車に轢かれて亡くなってしまった、不幸な事故であった。

亡くなられた三名の方は可哀相に思うが、一方、この事故を大々的に取り上げるメディアの姿勢には、大いに疑問を感じる。

この事故は、あくまでも"不幸な事故"であり、この事故を通じて我々に学ぶべき事があるとすれば、それは、「出来る事と出来ない事を分別する」という、至極当然な常識的判断であろう。

にもかかわらず、メディアでは、最初に落ちた男性を助けようと、"無謀にも"飛び降りた二名の行動を、「勇敢」「英雄」と褒め讃えた。これは明らかに間違っている。

この種の事故でも、あるいは川や海などで溺れている人を発見した時でも、人命救助のプロでもない限り、人を助けるどころか、自分も巻き込まれて犠牲者を増やしてしまう可能性が非常に強い事は明白である。

"無謀"と"勇気"は別物と認識し、この様な事態に出くわした場合、一般人の立場としてすべき事は、警報スイッチを押したり、周囲に事態を大声で知らせるなどが正解だと、強く周知させる事こそ、公器たるメディアの役割であろう。

それでも100歩譲って、最初に落ちた人は何とか助かったが、助けようとした人は不幸にも間に合わなかった、という様な事例であれば、あくまでも"結果論"として、その行為は"無謀"ではあるが"無駄"ではなかったとも思わされるのだが、本件においてはそれは当てはまらず、言い方は悪いが完全な"無駄死に"でしかない。

もっと言えば、最初に落ちた男性の遺族の立場からすれば、その男性本人だけではなく、それを助けようとして亡くなった二人の犠牲をも、自身に覆いかぶさる問題として受け入れなければならなくなり、その心情は察して余りあるものだ。これはスヒョン氏や関根氏の遺族に関しても、逆の方向で同様の事だ。

この事故はあくまでも"不幸な事故"であり、決して"美談"には成り得ないと、誰もが認識すべきであり、ましてやこの件を利用して金を儲けようとしたり、私利私欲に利用するなどは言語道断。呆れてしまうばかりだ。

本題に入って今回の映画、冒頭にも述べた様に、"事実"が基になっているのは、主人公が韓国人で、日本語学校に通う留学生である事と、新大久保駅で線路に落ちた人を助けようとして犠牲になってしまう、この二点のみで、それ以外の全てのストーリーは、完全な創作であり、その違いをいちいち述べはしないが、事実とは異なる物語になっている。

それ自体は何ら問題ではないが、問題は、本作が、一体何が言いたいのか、何を見せたいのかが、全く伝わって来ない作品に終わってしまっている事だ。

韓国から日本へやってきた主人公と、インディーズミュージシャンである日本人女性との恋愛物語、韓国人の日本観と、日本人の韓国観のギャップを示す、それぞれの人間描写、主人公の心情描写、ヒロインの状況描写と、いくつも見せられる様々な要素が、まとまりなくバラバラに撒かれたまま、ラストで唐突に起こる列車事故で、全て強引に終わらされてしまうのだ。

これは明らかに脚本構成の甘さであり、"事実の描写"と"創作ドラマの展開"の乖離を、上手く埋められていない。これでは、最終回で唐突に主人公が交通事故死する『タイガーマスク(漫画版)』以上にポカーンとしてしまう結末だ。

特に本作は、最後に主人公が事故死する事は、観客全員が知っているのだから、しっかり本筋のドラマと事故を絡め、一つの完結した物語として感動出来る様、ストーリーを構成すべきではなかったか。

製作構想から完成までに、かなりの時間的余裕があったにもかかわらず、この脚本はあまりにもお粗末だ。これでは感動出来ない。

冒頭からずっと、基本的に主人公視点で物語を進めておきながら、作中に占めるヒロインのウエイトがやたらと大きい事も、ドラマのちぐはぐさを強調する一因となっている。彼女が目指す道や、家族や周囲との確執などのドラマが、主人公の死に何ら絡んでおらず、独立したドラマとして乖離してしまっているのだ。

これは明らかに、ヒロインを演じるマーキーと、彼女がボーカルを務めるHIGH and MIGHTY COLORを売り出そうとする"大人の思惑"が強く感じられるものであり、この事が余計に"感動出来ない"空気を作ってしまっている。

この様に、本作は一本の映画作品として、全く評価出来るものではない。

だが、本作が製作される事を聞き及び、その後も聞かされる情報や噂などにおいて、本作が「日本人=悪、韓国人=善」の図式を意図的に強調した、偏向思想が強く見られる、政治的プロパガンダ映画である、と危惧された点は、実際の作品を観れば、何ら杞憂に過ぎないとわかる。

日本で起こった事故が題材なだけに、韓国人が主人公でありながら、舞台の多くが日本である事は、これは当然だろう。それによって、登場人物もまた、多くが日本人である事も当然だ。

それでありながら、序盤の韓国での場面において、韓国人視点によって、「日本の音楽を毛嫌いする」「反日デモ」などを観客に見せ、同時に主人公とその家族は、基本的に"親日派"である事を強調して、バランスを取りつつ、主人公が"希有な存在"である事を示している。

あるいは日本での、同期留学生や在日韓国人との会話によって、「韓国人はベトナム人に嫌われている」事や、韓国人による在日差別を語らせる事で、一面的ではない、韓国人の有りようをも見せている。

ヒロインの父親が差別主義者である描写は、韓国で日本人を嫌う人間がいる、冒頭の描写との対比として見せられており、実際にその様な人種が互いに存在しているのは事実なのだから、双方が持つ因縁の見せ方として問題ないだろう。

これらの描写によって、日本人にも韓国人にも、善意、悪意がいろいろ混在し、日本人だから〜、韓国人だから〜、と言うのではなく、ナニ人だろうと差別する者に問題があるのだと伝えようとしている事は、観る前からバイアスのかかった視点で臨まず、フラットな視点で鑑賞した者であれば、容易に見て取る事が出来るはずだ。

物語中盤で起こる交通事故の場面は、その部分だけ見れば、唐突に感じてしまうかもしれないが、まず序盤の韓国での展開で、ケガをした老婆を主人公が助ける場面において、主人公以外の周囲の韓国人は何もせず見ていた、という描写を伏線として敷き、ついで中盤の交通事故場面において、同じく周囲の日本人が何もせず見ていた、と、同じ事を国を変えて繰り返し、ラストの列車事故場面に繋げ、本作のテーマの一つであろう、「国籍ではなく人間個人」という方向性を見せる為のギミックとして機能しているのだ。

もちろん、フロントガラスが割れてマトモに使える状態ではない車が、いきなりその場から消えてしまったなど、強引すぎる展開は稚拙だが、それはまた別の問題だ。

しかし、である。それぞれの描写が、表面的には一応バランスよく見せられているとはいえ、それはあくまでも表層的な部分に過ぎない、というのも事実だ。

何より、日本と韓国双方において、"嫌い、嫌われる"事象は見せながらも、では何故そういった感情がそれぞれに生まれてしまうのか、といった、問題の根本的な部分には全く触れていないのだ。

人を嫌う人に問題があるのは確かだが、嫌われる側に問題がある場合もあるのだ。それを認識せず、「人を嫌ってはいけません」と言うだけでは説得力に欠け、人間描写そのものを上滑りなものに終わらせてしまっている。

だからこそ、ストーリーの迷走ぶりと相まって、キャラクターの誰にも感情移入が出来ず、何ら感動する事が出来ない結果となるのだ。

いろんな意味で騒がれがちな"話題作"ではあるが、一本の映画としてはあまりに不備の多い凡作。特段に鑑賞の価値はない。


追記:
もう一人亡くなった関根氏が、作中にほとんど登場しないのは、遺族が「取り上げないで、そっとしておいてほしい」と願ったからであり、これはその意思を尊重すべきであろう。だったら最初から作品自体を作らなければいいのに、とも思うが。

蛇足:
ヒロインのマーキーが、痩せて女装したバナナマン日村にしか見えず困った。声量も弱く上手いわけでもなし、アレっていいのか?

ヒロインがマーキー、主題歌がマッキー、駄洒落?

主人公が富士山に登頂する展開は、「韓国が日本の上に立つ」暗喩ではないか、との見方も可能だが、これは流石に穿ちすぎか。どちらかと言えば、序盤に父親と韓国で登山する場面との対比であろう。



tsubuanco at 15:37│Comments(17)TrackBack(10)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by とはいえ   2007年01月29日 19:53
劇中の交通事故はフィクションじゃなくて
本当にあったことだとテレビでやってましたが…。
2. Posted by T・M   2007年01月29日 19:56
>韓国で日本人を嫌う人間がいる、冒頭の描写との対比として見せられており、実際にその様な人種が互いに存在しているのは事実なのだから、

韓国人は単に「日本人を嫌っている」描写なのに対し、日本人の見せ方は「韓国人を差別している」描写です。
しかもタクシーを例に挙げていますが、親父と違って”犯罪行為”です。
”ありえない描写”でもって日本人を侮辱しています。
さて、これを同列に扱っていますがどこがどう対比に類すると言うのでしょうか?
3. Posted by T・M   2007年01月29日 20:00
>>1
それらの根拠や証拠は挙げられましたか?
もし本当にそのような事故があったのなら、現在の媚韓マスコミが飛びつかないはずありません。
なぜ6年もたって始めてそういう事を言い出すのでしょうか。
やり口が従軍慰安婦や強制連行とまったく同じですね。
4. Posted by ぬるぽ   2007年01月29日 20:55
皇室を宣伝に利用した最悪商業
5. Posted by ラムネ   2007年01月30日 01:19
1 映画の話の内容はあまり良いものじゃなかった。
ただマーキーは別に良かったと思う。お前の趣味が悪すぎるだけだ。
6. Posted by つぶあんこ   2007年01月30日 10:37
>とはいえさま

テレビでやってたんですか。
そういえば、この間テレビで、
「納豆を食べると痩せる」って放送してましたよ。


>T・Mさま

とりあえず落ち着きましょう


>ぬるぽさま

乗せられちゃう役所に問題があるかと。


>ラムネさま

バナナマン日村が好みのタイプなんですね。
7. Posted by ぬるぽっぽ   2007年01月30日 19:09
いつも思っていたんですが、批評の一部が面白いくらいに前田有一の超映画批評と正反対ですよね。
大抵はこっちの方が合理的で参考になりますが。
8. Posted by つぶあんこ   2007年01月30日 20:11
何が何でも反対の事をワザと書いているわけではない、というのは、例えばトゥモローワールドの記事なんかを読んでいただけるとわかるかと思いますが、「こりゃないだろ」と感じた時は、意図的にその点を強調して書く事はありますね。

わかる人だけが気づいて面白がれる、お遊びみたいなものと受け取っていただければいいかと。
9. Posted by tony   2007年01月30日 23:22
>バナナマン日村
あ〜、だれかににてるな〜と思ってたらwww
象アザラシのミナゾウ君にも似てるよな、あとボビーオロゴン
10. Posted by MAMI   2007年01月31日 12:42
1 在日含む日本マスゴミは、もはや「騙せるバカだけ騙していくぜ!」という根性で突っ走ってるんですよ。
一部政府や野党も同じ。
これだけの批判の嵐を黙殺する気満々です。
嫌韓促進映画に血税3千万円も投入って、バカですか??
11. Posted by つぶあんこ   2007年01月31日 13:08
>tonyさま

日村は日村で好きなんですけどね。


>MAMIさま

コメントを読むに、MAMIさまは嫌韓派らしく思われますので、それが推進されるのはいい事では?
13. Posted by なお   2007年02月05日 21:04
この映画つくった在日監督とかそのトリマキの大人たちの本当の狙いって、日本人と韓国人は常に対立させておきたいっと事なんじゃないだろうか。いくらプロパガンガとしても、あまりにも幼稚でお粗末すぎないでしょうか。

この映画観れば日本人は韓国人を嫌うし、韓国人も日本人を嫌うでしょう。結局、それが狙い?本当に両国が仲良くなったら反日利権がなくなっちゃうから?

うーん、理解できない・・・リカル馬鹿なのか、馬鹿を装ってるのか。
14. Posted by つぶあんこ   2007年02月05日 22:55
監督は仕事として受けただけとも思いますが、いろんな思惑が渦巻いてるのはそうでしょうね。
15. Posted by みーと   2007年02月06日 11:21
事故直後に出た恋人や友人の証言をまとめた本(光文社刊)によれば、実在した青年はおしんこや日本の食べ物が大好き、ジブリ大好きで、長男でなければ日本に永住したかった。特に日本のカラシが好物で何にでもかけていた、日本のビールは世界一だといって喜んで飲んでいた、自分の好きな国を汚したくなくてタバコの吸殻を外に捨てずポケットに入れて歩いていた、富士山に登った時には偶然日本の友人に会い、毛布や色々なものをもらったので「日本の友達はありがたい」と感激していた、「僕は鉄人28号だから死なないよ」といっていたことなどなど・・こうした実話をそのまま映画化したほうがよほど日本人の韓国人像を良くしただろうに、非常に残念ですね。
16. Posted by つぶあんこ   2007年02月06日 17:14
韓国人像が、とか日本人が、というより、個人の人柄の問題と思いますけどね。
17. Posted by みーと   2007年02月06日 19:27
花堂監督は「李秀賢氏の神々しい犠牲は今日の日本で起きた韓流ブームの根底といっても過言ではありません。多くの日本人たちが無関心だった態度を変えて韓国人と韓国文化に目を向けさせたきっかけとなった」と述べているので、この映画制作もその延長上のものと思ったもので。
18. Posted by つぶあんこ   2007年02月06日 22:40
いつ言ったのかにもよると思いますが、作る以上は大義名分がなきゃですからね。

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