2007年01月13日

HAZARD 70点(100点満点中)

面白アジア人が主人公の邪魔をする
公式サイト

『自殺サークル』『紀子の食卓』等、シュールで先鋭的な作品を送り出し続けている個性派、園子温監督作品。主演はオダギリジョー。

2002年に製作されながらも、長らく公開の目処が立たなかった本作、ここ最近の園監督の評価や、オダギリの俳優としての評価が高まりつつある為か、ようやく日の目を見る事に。

時代は1991年。日本でごく普通の大学生として何不自由無く暮らす主人公・シンイチ(オダギリジョー)だが、変化の無い日常には退屈しきっていた。そんな彼が全てを捨てて、"何か"を求めてニューヨークの危険地帯、"HAZARD"へと"自分探し"にやって来る…というストーリー。

1991年という設定は、ジュリアーニ氏がNY市長に就任し、治安が改善される前、最低最悪の治安状況だったNYを舞台とするためであろう。一般的にNYロケで用いられる場所ではなく、本当に危険そうな地域で撮影されている本作、街中でゲリラ的に撮影を行い、手持ちカメラによる長回しの不安定なショットが多用される、ライブ感重視の、まるでドキュメント映画の様な映像には、あらゆる意味で"劇映画"としての固定観念を揺さぶられ続ける事となる。

序盤の、タクシー運転手と揉める場面や、マッチョ黒人にカツアゲされる場面など、周囲の群衆が本当に通りすがりの一般人であり、不振げに、あるいはニヤニヤしながらカメラを覗き込んでいるのがハッキリわかる上、カメラはグラグラと揺れ続ける。照明も、その場の明かりで間に合わせだ。そして何より、登場人物のほとんどが英語しか話さない本作において、日本人向けに作られた映画でありながら、その英語台詞に字幕が全くつかない仕様となっているのだ。

これは当然だが意図的なもので、英語が全然わからない状態でNYへやって来た、主人公の戸惑いと観客のそれをシンクロさせ、上述の映像効果と相まって、観客を作品世界に没入させるためのギミックとして、効果的に成り立っている。

NYでの場面描写が、その混沌とした危うさをリアルな悪夢のごとく体感出来るのとは対称に、回想として示される、恋人との大学生活の一連は、かなりのディフォルメを施されたぬるま湯状態で表現されており、NYでの主人公の"現実"を引き立たせている。日本での彼女が地味にブサイクなのがまたリアル。

刺激を求めてNYへ来ながら、黒人に脅されてビビって何も言えない自分に苛立ち、そのくせ一向に自らアクションを起こす事も出来ずグズグズするばかり、粋がってドラッグストアを強盗したり、ドラッグでトリップしたかと思えばバッドトリップでセックスの機会を逃したりと、口ばかり思うばかりで実際には何も出来ない、"自分は大人だ、他人とは違う。と思っているだけの子供"を(最近は"中二病"等との呼称がある様だが)、同じく引き立たせて見せる為の舞台として、NYの雑多な背景が上手く機能している。

子供の声によるナレーションもまた、その狙いは同じく、主人公の内的な有りようを見せる為のギミックで、滑走路で上半身裸で立っている、おそらくは子供時代の主人公である少年の姿と、上半身裸でNYを"散歩"するリーもまた、対比として見せているのだろう。

そんなダメ人間な主人公と出会い、"仲間"の一人となる、ジェイ・ウエスト演じるアジア人、リーの、ストリート系黒人の言動を意図的に模倣し大幅にディフォルメさせた、そのウザッたいキャラクターもまた、主人公が求めていた"刺激"の本質を表現し、人間のクズ同士が傷を舐め合い群れ合う様を、ライブ感溢れる映像により、祭りの喧噪として見せ、観客のテンションを誘導している。

そんなダメ人間ながら、主人公はどんどん英語が上手くなっていき、悪行を行う場所もグレードアップしていき、"祭り"はどんどんヒートアップしていく、そのピークとなるのが、高級レストランでのマイクパフォーマンス場面だろう。この場面では、それまでの様な乱雑なカメラワークは影を潜め、丁寧に計算された、ドラマティックなカット割りで見せられる事で、その祭りが"頂点"にあり、終局に向かいつつある事を観客に伝えている。

その場面が転機となり、それまでハイテンションながらも緩やかに進んでいた世界は急速に壊れ始め、序盤での会話における、「人を撃った事があるか? 俺はある。嫌な奴を撃つとスカっとするんだ」の台詞が伏線となって、"祭りの後"の、荒涼とした無常な世界へと変転していく。ここでは、カメラがかなり引いた位置で撮影される事で、観客と主人公の距離感が、うって変わってかけ離れていく事を示している。

殺伐としながらコミカルな空気で見せるラストシーンは、前半の回想で見せた"日本の風景"とは真逆に、NYと変わらぬ混沌でありながら、どことなく間が抜けている、その差異をありありと見せ、主人公の"変化"を伺わせる様にされている。その前に展開される税関の場面でも、職員の観光旅行カップルへの対応と、主人公への対応とのギャップによって、日本を出る前は、自身に"異物感"を覚えていた主人公が、逆の意味で"異物"へと変化した事を、わかりやすく見せている。

尖った表現手法の連続で、"普通のドラマ"を期待して観ると面食らうかもしれないが、アドリブも含め、全てが絶妙のバランスで成立している、シュールな青春劇が楽しめる。映画好きなら見て損はしないだろう。出演者のファンなら尚更。若いって素晴らしい。


tsubuanco at 16:41│Comments(0)TrackBack(1)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. HAZARD  [ ショウビズ インフォメーション ]   2007年03月09日 19:24
「自殺サークル」「紀子の食卓」の園子温監督が2002年に撮り上げたビターな青春ストーリー。 主人公シンにオダギリジョー。 日本での退屈な日常に嫌気がさし、刺激を求め単身ニューヨークへ渡ったシンが様々な経験を通し

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments