2007年01月18日

ユメ十夜 85点(100点満点中)

Dreamと行く沖縄ツアー、最少人数に達せず中止。
公式サイト

「こんな夢を見た〜」で始まる、シュールな十夜の夢を描いた短編オムニバス小説、夏目漱石の『夢十夜』を、各夜ごとに別の監督が担当し、それぞれ同じ予算のもとで製作されたオムニバス映画。黒澤明の『夢』も、この小説が着想となっている事は有名。

ちなみに、原作は青空文庫で無料で読めるので、未読の方は是非。短いので繰り返し読む事を推奨

第一夜:実相寺昭雄、第二夜:市川崑、第三夜:清水崇、第四夜:清水厚、第五夜:豊島圭介、第六夜:松尾スズキ、第七夜:天野喜孝/河原真明、第八夜:山下敦弘、第九夜:西川美和、第十夜:山口雄大と、錚々たる個性的なクリエイター達によって自由に解釈・換骨奪胎された不条理な夢の世界が、走馬灯のごとく次々に繰り広げられる豪華絢爛なお祭り的作品である。

まずプロローグとして、戸田恵梨香演じる少女が、漱石に作品の解題を求める場面が見せられる。これは原作には無い導入部であり、"作者が書いている"様を見せる事で、これから始まる映画が"漱石の夢"である事を観客に印象づけ、原作を知らない者にも意図が理解出来る様にしているのだろう。

同時に、いきなりの実相寺演出に面食らわない様、緩衝剤としての役割も果たしているのかもしれない。

第一夜
実相寺昭雄が夢を扱った作品と言えば、『ウルトラマンティガ』第40話『夢』および『ウルトラマンマックス』第22話『胡蝶の夢』などが浮かぶが、本作もまたノリはほぼ同じで、原作の大筋をベースとしながらも、その表現はストレートに実相寺節が全開

中年女(小泉今日子)の不気味さを強調し、不安定なカットを細かく重ねて更に不安を煽り、舞台が作り物のセットである事を強調するために、画面の端に脚立を映り込ませるなどの、夢と現実どころか、現実とフィクションの境界をも曖昧にする、それらの手法は健在で、実相寺テイストを存分に楽しめる出来となっている。

その一方、原作の持つ耽美なテイストが影を潜める事にもなっており、好みは分かれるかもしれない。

第二夜
これまたストレートに市川崑節が全開である。が、その内容は原作をあまりにもストレートに再現している為、今ひとつ面白味に欠けるのも事実。

全編モノクロである事は、夢の表現なのであろうが、という事は市川崑は夢をモノクロで見ているのだろうか。

サイレント映画風に台詞をテロップで見せる手法は、一つの表現としてはいいのだが、"夢"を表す手法としてはどうか? とも思わされる。

第三夜
原作でも最も怪奇色の強いエピソードだが、近代邦画ホラーの旗手たる清水崇が手がける事で、そのホラーテイストがより特化された作りに。

夢だけではなく、起きている時の現実も織り交ぜて構成し、夢と現世が曖昧に切り替わって進行する、その手法は清水崇が得意とするところであり絶妙。オチを知っていても充分に恐ろしさを味わえるものに。

香椎由宇の相変わらずの無表情さによって、若すぎる子沢山の母親を、何とも形容し難い畏怖の対象たらしめている、好キャスティングだ。

第四夜
古くは『仮面天使ロゼッタ』や『デビルサマナー』、最近では『魔弾戦記リュウケンドー』など、テレ東系特撮番組を多く担当してきた清水厚が監督、更に脚本を同じく『リュウケンドー』で組んでいた猪爪慎一が担当する事で、特撮テイストが強く感じられる作風となっている。

原作からの要素はヘビ爺さんと子供達だけで、それ以外の内容はほぼオリジナルなのだが、『リュウケンドー』同様、コメディ色を盛り込みつつも不条理な世界を作り、ノスタルジック色までも盛り込んで、独特の魅力的な映像を見せている。

菅野莉央演じる少女の存在感が印象的で、彼女の持つ、変わらぬスペックの高さがよく認識出来る。

爺さんに付き従う子供達、の絵面は、『ウルトラマンA』のヤプール老人を意識したものだろうか。

第五夜
女、馬、疾走、鶏の鳴く声、天探女と、原作終盤の要素をピックアップした上で、21世紀の現代を舞台とした、ほぼオリジナルの物語に再構成。『怪奇大家族』の豊島圭介だけに、恐怖とコメディが紙一重で交錯する、シュールな世界観を絶妙に構築している。

特に最重要ファクターとなる天探女は、そのデザイン、造形、動き、あるいは時々に応じた撮り方によって、上述の恐怖と笑いの境界線を綱渡りし続ける、楳図かずおの作風にも似たテイストを醸し出し、なかなかに趣のある存在となっている。

オチも同様、楳図的シュールさ、救いの無さがよく出ており、これは意図通りだろう。そう言えば、以前『コワイ女』の記事でも、「豊島圭介作品には楳図かずおの匂いがする」と書いた事があったが、正解だった模様。

第六夜
テクノミュージックに乗せたTOZAWAのアニメーションダンスが存分に楽しめるPV的映像。

2ch語で断片的に交わされる観衆の声は、実況スレを意識したものだろう。

とことん"悪ノリ"に満ちていながらも、実はストーリーは原作通り、というのは、松尾スズキの持つパロディセンスの確かさの証明か。

_| ̄|○ を再現した夢部のオチ、更に二段オチとなる現実世界もまた、夢部よりもシュールにされているのが面白い。

第七夜
暗沈した闇の世界と、ファンタジックな光の世界の落差を、単に明暗だけでなく、そのタッチや音響までも駆使して表現。

そんな、"いつもの天野嘉孝"の世界観が、二次元的な水彩画が立体的に動いて見せられる、短編CGアニメとしては優等生な出来。

これ以上長くなると、もっといろいろ盛り込まないと苦しくなるだろうが、短編である事を踏まえ、原作の印象的な言葉を摘み取り、叙情感のみで押し通したのは正解だろう。

第八夜
『リンダ リンダ リンダ』でのメジャーになる以前から、自主映画界で注目されてきた山下敦弘だけに、その実験的、前衛的手法が夢の世界の再現に上手くマッチしている。

原作とはほとんど別物となっているが、原作もおそらくは全話の中で最も意味がわかり辛いエピソードである本夜を、更にわけのわからない内容へと作り変えている。原作が生きているのは金魚売りくらいか。

主観となる人物がどんどん変わり、舞台も時代もどんどん変わり、まさに夢の脈絡の無さを表し、序盤の"生物"絡みの顛末などは、まるでダウンタウンの不条理コントを彷彿とさせるノリで進められ、「チクワチクワって、いやいや凄いのはそっちじゃないだろ!」と、ツッコミと笑いをこらえるのに一苦労だ。

第九夜
『ゆれる』にて人間の情念を深く抉った西川美和。本作では女性の視点から見た、視野狭窄な女の歪んだ妄執の狂気を短時間で見事に描いている。

その狂気をただストレートに見せるだけではなく、時系列の順序を入れ替え、最後にオチとして全ての謎解きが提示される、ミステリーとしての構成も上手く、原作と違ったオチには驚きと絶望感でいっぱいに。

緒川たまきが持つ妖しい雰囲気を、キャラクターによく活かしており、これまた好キャスティングだ。

第十夜
『地獄甲子園』『ババアゾーン』など、漫☆画太郎作品の実写化を手がけてきた山口雄大。今回もまた、ストーリーの脚色を漫☆画太郎にまかせ、暴走するお下劣な世界を見事に実写化している。

安田大サーカスによる、ピッタリ嵌った"ブタ"のキャラクター。本上まなみの、吹っ切れたにも程がある、同じく"ブタ"の体当たり演技など、漫☆画太郎の暴走パワーが役者にも乗り移ったかの様に、テンションの高い芝居が楽しめる。

それでいながらも、第六夜同様、原作から大してストーリーが変わっていないのが素晴らしい、

板尾創路の絶妙な存在感も良い。


スタッフ、出演者、どれか一人でも気になる人間がいれば、迷わず必見の本作。作者の孫に当たる、夏目房之介氏お墨付きだ。

原作と映画版、両方を何度も比較しながら楽しむ事も出来る。お得な娯楽作だ。機会があれば是非とも。


tsubuanco at 16:02│Comments(2)TrackBack(11)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 名無しさん   2007年08月17日 16:19
阿井莉沙がいればね、
応募してもよかったっすね。
dreamツアー
2. Posted by つぶあんこ   2007年08月20日 17:40
dreamツアーはアクタープロツアーに負けたのが爆笑でした。

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