2007年01月25日
フランキー・ワイルドの素晴らしき世界 65点(100点満点中)
そんな銃で俺様が撃てるクマー!
公式サイト
世界トップレベルの天才DJ、フランキー・ワイルドの半生を描いた、フェイクドキュメント映画。
まず最初に「実話が元である」とテロップが出、実在の音楽関係者(ホンモノ)が各々にフランキーについて語りだすインタビュー映像で始まる本作。続いての、クラブでのフランキーのギグ映像も、実際のイベントをリアルで収録した様な、ドキュメント風映像で見せられ、まるで本当のドキュメント映画のごとき世界によって観客を引きずり込み、フィクションとノンフィクションの境界をぶち破る、いわば梶原一騎スタイルである。
そうして、観客がマジメに作品を観る気になった頃合いを見計らって、いきなりフランキーと嫁がテニスコートで立ちバックファックに励む映像が登場し、ドキュメント風だった映像は、この時点から再現フィルム風の映像へと切り替わり、ドラマの本筋が展開していく。この、インパクトある方向性の転換は上手い。
尚且つそれ以降においても、事象の進行に応じてインタビュー映像は引き続き挿入されていく事で、"実話"であるとする大元の方向性そのものは外さない、絶妙なバランスで作られている。
酒、ドラッグ、乱交と、私生活におけるフランキーの御乱行をテキパキと見せ、子供が黒人なのに全く気にしていない、良くも悪くもダラシのない人間性を紹介し、同時に音楽の上では天才的である仕事ぶりも見せて、主人公のキャラクターをハッキリと印象づける、序盤の構成は楽しい。
が、主人公にとっても物語にとっても転機となる、"障害"が彼を襲う段になり、それまでに見せられた彼のダラシなさや御乱行が、殊更にマイナス方面に加速的にクローズアップされていく展開は、観客をどんどん不快にしていくものとなる。
これは、展開にギャップを与え、最終的な後味を良くするための仕掛けなのだが、それにしても、明らかに仕事に支障が出ていながら、それを隠して仕事を続ける、客に対しても自分に対しても不誠実な行動には全く賛同出来るところがないし、医者の忠告すら聞かず、結局最悪の結果が訪れる段に至っては完全な自業自得であり、これまた全く同情出来るものではない。
そして主人公はドン底まで転落し、そこから心機一転を計り展開が本題へと進みだすのだが、その、心機一転となる契機の描写が少なく理解し難い。ここは大切な部分なのだから、何故そう思い至ったのかをしっかり描いてほしかった。
それでも、ここまでの一連の流れ中で、ところどころに挿入される、ドラッグによる幻影として登場する巨大なアナグマの怪物絡みの展開は、本作の大きな特色となる独自要素として興味深く観られるものだ。
その造形が、いかにもモンスター然としたリアルなものでなく、遊園地にいそうなタイプの着ぐるみ丸出しのスタイルである事。この外見は非常に重要な意味を持っており、全体的な"可愛さ"と、鼻の周囲だけが、白い粉が付着して汚れている、"グロテスクさ"とのギャップを大きく強調し、ドラッグの持つ魔力、魅力の恐ろしさを視覚的に表現している。
そんな可愛くもおぞましい着ぐるみが、主人公を時に優しく誘惑し、時に強面で恫喝する、この二面性の表現もまた、薬物の特性を象徴し、上述の外見も手伝って効果をあげている。
そして、主人公がドラッグの依存から脱却する展開において、怪物が"着ぐるみ"であった事が最終的なオチとして結実する、この構成は良くしたものだ。
もちろん引っかかる部分も多々ある。例えば、再起を決意し主人公が訪れる、読唇術教室の教師であるラテン系美女と主人公が特別な関係になる経緯、説得力が全くの適当である事。他に生徒はいなかったのか? どうして主人公とだけ? と、疑問ばかりが浮かぶ都合良さはいただけない。
だが、音量や音域を波形モニターでリアルタイム表示して視認し、特製スピーカーを足の下に置き、振動で音を体感する事で、聴覚以外の感覚によって"音楽"を感じ操作する、これらの"復活"のアイディアは見事で、映像的にも、序盤の活躍以上のカッコ良さを見せ、観客のテンションを高める事に成功している。
聴覚障害のミュージシャンと言う事で、ベートーヴェンとの類似性を想起する人もいるかもしれないが、本作はどちらかと言えば、視力を失った剣豪が心眼に目覚め再起する、そうしたシチュエーションと並べるに相応しいものだろう。
障害者を題材としながらも、人間的なマイナス面も大きくクローズアップし、全体的には明るくコミカルなカラーとする事で、ステレオタイプなお涙頂戴要素は全く感じない、娯楽に徹した良作だ。
音響設備のいい劇場で見ると、より楽しめるだろうが、そんな機会はもうないだろうから仕方ない。興味のある人はレンタルででも是非。
公式サイト
世界トップレベルの天才DJ、フランキー・ワイルドの半生を描いた、フェイクドキュメント映画。
まず最初に「実話が元である」とテロップが出、実在の音楽関係者(ホンモノ)が各々にフランキーについて語りだすインタビュー映像で始まる本作。続いての、クラブでのフランキーのギグ映像も、実際のイベントをリアルで収録した様な、ドキュメント風映像で見せられ、まるで本当のドキュメント映画のごとき世界によって観客を引きずり込み、フィクションとノンフィクションの境界をぶち破る、いわば梶原一騎スタイルである。
そうして、観客がマジメに作品を観る気になった頃合いを見計らって、いきなりフランキーと嫁がテニスコートで立ちバックファックに励む映像が登場し、ドキュメント風だった映像は、この時点から再現フィルム風の映像へと切り替わり、ドラマの本筋が展開していく。この、インパクトある方向性の転換は上手い。
尚且つそれ以降においても、事象の進行に応じてインタビュー映像は引き続き挿入されていく事で、"実話"であるとする大元の方向性そのものは外さない、絶妙なバランスで作られている。
酒、ドラッグ、乱交と、私生活におけるフランキーの御乱行をテキパキと見せ、子供が黒人なのに全く気にしていない、良くも悪くもダラシのない人間性を紹介し、同時に音楽の上では天才的である仕事ぶりも見せて、主人公のキャラクターをハッキリと印象づける、序盤の構成は楽しい。
が、主人公にとっても物語にとっても転機となる、"障害"が彼を襲う段になり、それまでに見せられた彼のダラシなさや御乱行が、殊更にマイナス方面に加速的にクローズアップされていく展開は、観客をどんどん不快にしていくものとなる。
これは、展開にギャップを与え、最終的な後味を良くするための仕掛けなのだが、それにしても、明らかに仕事に支障が出ていながら、それを隠して仕事を続ける、客に対しても自分に対しても不誠実な行動には全く賛同出来るところがないし、医者の忠告すら聞かず、結局最悪の結果が訪れる段に至っては完全な自業自得であり、これまた全く同情出来るものではない。
そして主人公はドン底まで転落し、そこから心機一転を計り展開が本題へと進みだすのだが、その、心機一転となる契機の描写が少なく理解し難い。ここは大切な部分なのだから、何故そう思い至ったのかをしっかり描いてほしかった。
それでも、ここまでの一連の流れ中で、ところどころに挿入される、ドラッグによる幻影として登場する巨大なアナグマの怪物絡みの展開は、本作の大きな特色となる独自要素として興味深く観られるものだ。
その造形が、いかにもモンスター然としたリアルなものでなく、遊園地にいそうなタイプの着ぐるみ丸出しのスタイルである事。この外見は非常に重要な意味を持っており、全体的な"可愛さ"と、鼻の周囲だけが、白い粉が付着して汚れている、"グロテスクさ"とのギャップを大きく強調し、ドラッグの持つ魔力、魅力の恐ろしさを視覚的に表現している。
そんな可愛くもおぞましい着ぐるみが、主人公を時に優しく誘惑し、時に強面で恫喝する、この二面性の表現もまた、薬物の特性を象徴し、上述の外見も手伝って効果をあげている。
そして、主人公がドラッグの依存から脱却する展開において、怪物が"着ぐるみ"であった事が最終的なオチとして結実する、この構成は良くしたものだ。
もちろん引っかかる部分も多々ある。例えば、再起を決意し主人公が訪れる、読唇術教室の教師であるラテン系美女と主人公が特別な関係になる経緯、説得力が全くの適当である事。他に生徒はいなかったのか? どうして主人公とだけ? と、疑問ばかりが浮かぶ都合良さはいただけない。
だが、音量や音域を波形モニターでリアルタイム表示して視認し、特製スピーカーを足の下に置き、振動で音を体感する事で、聴覚以外の感覚によって"音楽"を感じ操作する、これらの"復活"のアイディアは見事で、映像的にも、序盤の活躍以上のカッコ良さを見せ、観客のテンションを高める事に成功している。
聴覚障害のミュージシャンと言う事で、ベートーヴェンとの類似性を想起する人もいるかもしれないが、本作はどちらかと言えば、視力を失った剣豪が心眼に目覚め再起する、そうしたシチュエーションと並べるに相応しいものだろう。
障害者を題材としながらも、人間的なマイナス面も大きくクローズアップし、全体的には明るくコミカルなカラーとする事で、ステレオタイプなお涙頂戴要素は全く感じない、娯楽に徹した良作だ。
音響設備のいい劇場で見ると、より楽しめるだろうが、そんな機会はもうないだろうから仕方ない。興味のある人はレンタルででも是非。
トラックバックURL
この記事へのトラックバック
1. 『フランキー・ワイルドの素晴らしき世界』 [ かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY ] 2007年03月01日 21:13
フランキー・ワイルドの世界を体感すべし。
クールな演出とサウンド、ハイテンションでオトナな笑いと温かな感動。
イビサ島の人気クラブで活躍したカリスマDJフランキー・ワイルドの物語。いかにもインタビューに答えるような調子でフランキー・ワイルドについてを語る...
2. DVD/フランキーワイルドの素晴らしき世界 [ サ バ ペ ] 2007年05月14日 18:09
DVD「フランキー・ワイルドの素晴らしき世界」公式サイト
監督・脚本
マイケル・ドース
音楽
グラハム・マッセイ
出演
ポール・ケイ、ベアトリス・バタルダ
マイク・ウィルモット、ケイト・マゴワン
アレ?
カール・コックス、ポール・ヴァン・ダイク
3. 「フランキー・ワイルドの素晴らしき世界」 桜坂劇場にて [ 那覇TekTek ] 2007年05月14日 18:35
ある日突然、超人気DJが聴覚を完全に失ってさあ大変。という映画。ドラッグ漬けで自由奔放な生活を送るフランク。彼はスペインのイビサ島で一番の人気DJ。CLUB好きならイビサの噂はきいたことあるはず。ということで、見終わったあとはひたすらイビサ島に行きたくなります...
4. フランキー・ワイルドの素晴らしき世界 [ ○o。1日いっぽん映画三昧。o ○ ] 2007年07月25日 12:09
ずっと観たかった「フランキー・ワイルドの素晴らしき世界」です。 フィクションです。クラブの聖地イビザ島。今夜も興奮が最