2007年02月19日

エクステ 85点(100点満点中)07-050

イヤだー 髪の毛 引っぱり回されたらー♪
公式サイト

挑戦的でショッキングな意欲作を作り続けている、園子温監督の最新作。

警察の遺体安置所で働く、髪の毛に異様な執着を抱く髪フェチ男・山崎(大杉漣)は、ある日運ばれてきた、体内に髪の毛が詰まった謎の死体を無断で持ち帰り、そのどんどん出てくる髪の毛でヘアーエクステンションを作り、町の美容室に配り歩いていた。スタイリスト志望の優子(栗山千明)が働く美容室にもそれは持ち込まれ、優子の周囲で怪死事件が起こり始める…というストーリー。

大杉漣と言えば、どんな作品のどんな役でもノリノリで演じ、その怪演技には定評のある存在だし、栗山千明は、その長くまっすぐな黒髪が大きな魅力である。本作、この二人のためにストーリーを用意されたと言って過言ではないほど、二人の魅力が大きく引き出されているのだ。

ストーリーの整合性や設定のリアルさなどは全く必要ではなく、ひたすらに不条理な世界において、クセの強いキャラクターが活き活きとそれぞれの存在感を発揮する、そこが大きな楽しみの一つとなっている。

主人公・優子の状況設定を観客に伝えるべく、意図的に説明的な台詞をクドクドと、通常ならモノローグで聞かせるべきものを、あえて口に出して話す台詞として聞かせ、観客をケムに撒く、序盤での優子の通勤描写によってまず、作品世界の持つ特殊な空気や方向性を端的に提示している。

一方の山崎は、髪の何にそんなに惹かれるのか、具体的にどんな髪がいいのか、髪コレクターなのに髪を売る商売は成立するのか(コレクターは本当に良い物は売らない)、など、髪フェチとしてのこだわりが今ひとつ不確かで見えにくいのが難点だが、それでも、テンションが高いタイプのオタクにありがちな、空気をぶち壊すハイテンションな変人演技は、仕事時の大人しさとのギャップも加味してインパクトの強いもので、観客を苦笑させるのに充分なものに。

この両者のドラマが、それぞれ別に始まり、しばらくは関係なく並行して進むのだが、二人の共通点である"髪"を媒介として出会い、絡み合って物語が盛り上がって行き、怒濤のクライマックスへとなだれ込む、キャラクターを活かすと共に物語も盛り上げる、よく考えられた構成は見事だ。

優子サイドのドラマが、姉(つぐみ)との関係、姉から押しつけられた姪(佐藤未来)との関係、仕事に対する想い、など、ここだけ取り上げて一つの作品としても成立するレベルに描かれている事で、しっかり立てられた各キャラクターが不条理に巻き込まれる、後半の展開を大いに盛り上げる事に貢献している。

姉の口から突きつけられる優子の過去によって、優子と少女のドラマ展開に必然性や説得力を与え、優子が少女を救うために命を賭ける終盤へと、ピッタリ繋がるための伏線とされている。

また、演技とわかっていても殺したくなる程に腹立たしい、虐待母のこれでもかと徹底した"イヤな女"ぶりと、その母に虐待され続け、すっかり人格が歪んでしまった少女の、これまた恐ろしい程にリアルな"壊れた子供"の有りようによって、観客はとことんまでに不快感を味わわさせられ、このイヤな女が気持ちよく惨殺される事を切に願う様になる、ホラー作品における王道的な死亡フラグの立て方が綿密で、その演出、演技には感嘆させられる。

だが本作、いわゆるホラー、スプラッタ映画とは一線を画しており、それは、ホラー、スプラッタ映画ならまず見せるべき、犠牲者が殺される瞬間がほとんど直接的な映像として見せられない事や、山崎の末路が、どう考えても"恐さ"を狙っているとは考えられないものである事などから読み取れる。

本作は、不条理な設定、不条理なストーリー、不条理なキャラクターが渾然一体となって醸し出す不条理な世界を満喫する、独自カラーのサイコ映画であり、ホラーやサスペンス描写は、そのためのトッピングに過ぎないのだ。

まず物語の大元となる、髪の詰まった謎の死体そのものがあまりに不条理だ。"女の命"とも例えられる髪を失って殺されたから、その怨念が髪となって出現するのだとしても、共有した記憶が蘇るフラッシュバックとして見せられる過去の死に様が、彼女が髪を奪われる必然性が無い描写なのだ。髪が必要で髪を切るのなら、切った髪を汚れた床に無造作に投げ捨てたりはしないだろうし、切った後バリカンで刈ってカミソリで更にツルツルに剃り上げる必要も無いだろう。臓器が目的で拉致されながら、そこまでされる意味がわからないのだ。まさに不条理。

その怨念の被害者となる美容師達の襲われ方もまた、その過去とあまり関係なく、髪が関わる以外の統一性も無く、これまた不条理。

一人目の被害者(加害者か?)の場面での、耳にハサミが突きつけられる、焦らし焦らされドキドキ演出は、ホラー、サスペンス演出として素晴らしいものがあるが、二人目以降の呪いの出現には、恐怖どころか突き抜けすぎて笑いに近づいてしまう、伊藤潤二の持つシュールでサイコな世界を実写化した様な不条理感が存分に楽しめる。

ともかく、呆然、苦笑、不快、焦燥、失笑と、狙いすました様に観客のリアクションをコントロールし、全編通して飽きさせずに楽しませる、良質の娯楽作品に仕上がっている事は間違いない。

これまでの園子温作品、大杉漣がサイコを演じた作品が好きな人、栗山千明ファンなら間違いなく必見。伊藤潤二ファンもカラーが近いので是非。そうでない人も是非。小品ながらオススメ。


蛇足:
何気に満島ひかりが出ているのも要チェック。佐藤めぐみがダンサーな意味が結局なかったのも"不条理"の一環か?



tsubuanco at 14:14│Comments(4)TrackBack(4)clip!映画 

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4 ヘヤー♪ヘヤー♪MYヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪MYヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪MYヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪MYヘヤー♪ヘヤー♪時々君は僕を不安させるよね♪時々君は僕につれなくするよね♪ヘヤー♪ヘヤー♪MYヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪ヘヤー♪....
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この記事へのコメント

1. Posted by ひろぴ   2007年02月21日 17:14
タイトルに吹きましたw
勝彦ww

私の知るかぎり質量ともに一番の新作映画レビューブログとして、いつも参考にしてます!
遠くで吠えることしかできない負け犬の嫉妬や悪意に負けずにがんばって続けてください!
応援してます!
2. Posted by つぶあんこ   2007年02月21日 21:36
飽きるまで続けようと思ってますんで、よろしくお付き合いください。
3. Posted by かえる   2007年03月01日 21:27
こんばんは。
TBさせていただきました。
ホラー系はあまり観ない私には、ただただおもしろかったという感じでしたが、こちらの記事を拝見し、すぐれている点を確認できました。
ハチャメチャのようでいて、観客をしっかり引き込む見事なつくりだったといえるわけですね。
今最新記事一覧に表示されている中ではこちらが一番の高得点なんですね♪
4. Posted by つぶあんこ   2007年03月02日 17:48
高得点ですね。
実際それくらい良かったですし。

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