2007年02月20日

悪夢探偵 55点(100点満点中)

ドラゴンズ・ドリーム
公式サイト

8m/m自主映画『電柱小僧の冒険』にてインディーズ界に衝撃を与え、続いて『鉄男』で世界的な評価を得たカルト映画監督、塚本晋也の最新作

謎の連続猟奇自殺が発生、警察の捜査で、ゼロと呼ばれる謎の男が容疑者として浮かび上がり、自殺者は夢を見ながら死んでいった事が判明。事件を追う女刑事・慶子(hitomi)は、人の夢へ入り込む能力を持つ悪夢探偵・影沼(松田龍平)に協力を要請するが…というストーリー。

アバンタイトルのプロローグ場面。ある人物が見ている夢の描写から映画が始まるのだが、背景のディテールにこだわり、それらをさりげなく画面の端々に映り込ませて観客の不安を煽り、その意味不明な諸々の事物が、夢を見ている人物と、夢に入ってきた悪夢探偵との会話の内容によって、ピタリピタリと判明していき、その事で更なる恐怖感を観客に与える。巧みなホラー演出が素晴らしい。

悪夢探偵が夢から現実へと戻り、その人物の親族とのやりとりの後、その場を離れた悪夢探偵の独白と続いて、不条理な恐怖を見せていた夢の世界から一転し、現実ではリアルな不快感を提示。質を切り換えながらも観客の感情を逆なでし続けていることには変わりなく、同時に夢と現実の差異をも表現。そしてそのままタイトル画面へとなだれ込み、ここまで一連の圧倒的な展開により、本編に対する期待はかなり期待は高まる事となる。

観客の心をガッチリ掴み、作品世界をスンナリ理解させて没入させる。オープニングとしての完成度は高い

本筋が始まってからも、繰り広げられる数々の"自殺"の場面では、直接的なスプラッタ描写を、ライブ感溢れる撮り方、見せ方によって、痛みがヒシヒシと観客にも伝わってくる映像手法にて見せつけられ、直接的な凄惨さだけではなく、"見えないもの"の存在をリアルに感じさせ、緊迫、焦燥を被害者視点で表現する、スリラー描写も並行し、更に画面から目が離せなくなる。

短いショットを慌ただしく切り替えるカット割り、手持ちカメラによるブレる画面の多用など、8m/m自主映画出身ならではの手法が、その空気感をより強調しているのは、過去の塚本作品と同様。

同じく、"悪夢"に支配される世界を表現するための、彩度を落としたダークな色彩や、顔がブルブル震える群衆など、初期作品を彷彿とさせる不条理演出もまた、独自の作風を構築するべく有効に機能している。

タイトルが探偵で、刑事がメイン人物として登場する事などから、ミステリー的要素の強さが予想されるかもしれない本作だが、あくまでもサイコホラーサスペンスである本作、警察の存在は作品内における現実世界に、観客の現実との地続き感を持たせるための設定であり、不条理な悪夢や猟奇を、よりリアルなものとして受け入れさせる役割として配置されているのみである。

大きな音響で驚かせる、定番のショッカー演出は、意味なく多用されると陳腐に感じ、作品そのものの質を下げてしまう危険もあるのだが、そこは塚本晋也、使いどころをしっかり心得ており、作中人物の感じるショックを観客と一体化させるべく、適度に効果的に用いられている。

例によって、塚本晋也本人が出演しているが、サイコ演技は確かに上手いのだが、やはり監督本人が前に出すぎると、何となく楽屋裏が見えた気になって、現実に引き戻されてしまう感もある。これは賛否あるだろうが、知らない人には関係のない事なので、欠点と呼ぶには当たらないだろう。

現実と夢と夢の中の夢と回想が入り乱れる混濁した映像が、目まぐるしく切り替わって押し寄せる終盤の対決場面だが、この段において、本当なら今までで最も圧倒的なテンションや表現で見せるべきところを、スローやイメージ映像を多用しすぎたせいか、失速感が多分にある結果となっており、今ひとつ食い足りないままに終わってしまったのが残念だ。これまでに見せていた映像の、夢と現実の境界を更に曖昧にさせる"オチ"が上手かっただけに、もう少し、キリッと締まる決めどころが欲しかった。

スプラッタ色は強いものの、"悪夢"の表現としての狂気の見せ方は、例えば『パプリカ』あたりと比べても(アニメと実写の差異を考慮してもなお)踏み込みが不足している様にも思える。塚本晋也の持つ独自カラーが、一般層を意識するあまりに薄まってしまったのでは本末転倒だろう。

悪夢探偵ともう一人、本編の主人公となる女刑事を演じたhitomiは、そもそも目鼻立ちは美人だが輪郭に問題があり、正面からのアップだと少しそれが気になって辛いものがある。横顔は美人に撮られているだけに、少しの工夫でもっと美しく撮れたのではとも感じる。が、過去のhitomiのPVなどと比べても、その妖しい魅力は充分に引き出せており、好感は持てる。

安藤政信演じる若手刑事の存在は、好青年から狂気へと転じるギャップが、安藤のイケメンな外見によって加速され、悪夢の恐怖をより絶妙に表現しており好キャスティングだ。

この手の映画では大抵、腹に一物秘めた役を演じる事が多い大杉漣が、ごく普通の刑事役なのも逆に見どころか。

本作、一般向けを意識したせいか、いつもの塚本作品よりは濃度が薄く、だからと一般向けな娯楽性が強いかと言えばそうでもない、中途半端な出来に仕上がった感はあるが、出演者のファンなら充分その演技や存在感を楽しめるだろうし、ホラー、スプラッタ好きにとっても、まず及第点だろう。興味のある人は、あまり過剰な期待を抱かずにどうぞ。



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1. 悪夢探偵  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2007年10月19日 22:51
 『ああ、 いやだ ああああ、 いやだ、 ああ いやだ。』  コチラの「悪夢探偵」は、今日1/13公開になった松田龍平主演のサスペンス・ホラー映画なのですが、早速観てきちゃいましたぁ〜♪  PG-12指定の映画なのですが、それにしてはちょっとグロくて怖かったです...
2. ≪悪夢探偵≫(WOWOW@2008/01/12@018)  [ ミーガと映画と… -Have a good movie- ]   2008年02月06日 15:44
悪夢探偵   公式HP   詳細@yahoo映画 ≪パプリカ≫ に続いて観たのは同じく「夢」関係の映画 いや??、グロかったなぁ そして、眠るの怖くなるっつーの 設定はいいかなと思ったけど、サスペンスを気取りつつほとんどホラーだったのに納得いか

この記事へのコメント

1. Posted by udon   2007年10月23日 00:19
コメントゼロって、すごいなw
塚本監督なんて、日本を代表する映画監督の一人なのに(数少ない、海外にも自慢できる監督ですよ)

でもまあ、おっしゃる通り、この映画は
失速感がありましたね。
なんか元気ないな、と思った。
もうすこしテンションを上げて欲しかった。

すぐ自殺しようとする龍平のキャラとかも、もっと掘り下げても、おもしろかったんじゃないかと思います。

「俺、いつから死にたかったんだろう…(泣)」という、安藤政信は良かった。
2. Posted by つぶあんこ   2007年10月23日 17:28
塚本晋也は有名ですけど、このブログは大して知られてませんからね。

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