2007年02月22日

酒井家のしあわせ 40点(100点満点中)

最低だ… 俺って…
公式サイト

在日韓国人を題材とした短編映画『ハルモニ』で注目を集めた女性監督・呉美保による、初の長編劇場映画。

関西地方のとある町に住む、中学生の主人公(森田直幸)は、母(友近)、母の再婚相手である義父(ユースケ・サンタマリア)、妹の四人家族。主人公の視点を通じ、ごく平凡に見えていたはずの家族の崩壊と再生を描いた物語。

主人公の荒い息づかいから始まる本作、この、明らかにオナニーを連想させる導入で、"リアルに等身大の男子中学生"を描く、その方向性を開始当初より提示し、観客を作品世界に没入させる。その狙いは成功している。

その後、主人公視点で進む展開において、友人との会話、悪ふざけなどの言動、ヒロイン的存在となる女子中学生との関係、それらの"学校生活"の描写は、生徒達や教師など、周囲も含めて極めて自然かつリアルに描写され、それによって主人公のキャラクターにリアリティが持たされる事となり、観客の共感を生む意図が果たされている。

この、主人公による"学園青春ドラマ"が非常に面白く、共感したり、昔を思い出して複雑な気持ちになったりと、充分に楽しんで鑑賞出来る様になされており、この面での完成度は高い。

ヒロイン役・谷村美月による、コメディ的にディフォルメされながらもリアルな女子中学生の言動やビジュアル、そして中学生の最大関心事である"セックス"に対する思い、行動を、微妙なエロスを漂わせつつ、女子の代表的に見せる演技、演出は秀逸。同じく関西を舞台に関西出身でキャストを固めた『かぞくのひけつ』出演時とほぼ同様の役柄で、この種の、少しふてくされ気味のキャラクターがハマり役の模様。

彼女と主人公の、それぞれセックスに感心はありながらも、性差だけでなく、主人公の家族問題などによっても起因する、様々な食い違いによって上手く進まない、そんなもどかしさも巧妙に表現し、青春ドラマの面白さを引き出している。

主人公の担任教師役、本上まなみもまた、出番は少ないながらも存在感を光らせており、主人公のキャラクター立てに貢献している。同じく関西人女性監督・安田真奈の関西弁映画『幸福のスイッチ』では妊婦役を演じていたが、本作でも妊婦なのは意図的な狙いか?

上述の二作同様、本作でも出演者を関西出身者で固め、自然な関西弁によって作品にリアリティをあたえる手法は成功しており、更に本作では、一人だけ"関西出身でないから関西弁を喋れない"役割としてユースケ・サンタマリアを投入する事で、そのキャラクターの異物感のリアルさを出す事にも成功している。この工夫は面白い。

母親役の友近は、普段の漫談やコント芸で見せている"大阪のオバチャン"そのままの演技で通しており、これは、比較的コミカルなノリで進められる映画前半部では有用に感じられるが、ウェットな展開で泣かせに入る後半部においては、違和感が強くなってしまい、あまり良いとは言えないだろう。

そして、基本的には息子である主人公視点で進みながらも、時に母親視点にシフトする場面が所々にあり、この移行があまりスムーズではなく、視点のあやふやさによる感情移入の阻害を感じる結果にも繋がっている。やはり、息子視点で終始通した方が、物語に一本筋を通す意味でもよかったのではないか。

後半の"感動シーン"で多用される長回しカットだが、基本的に会話で進められる展開において、二人の人物がただ話し続けているだけの場面を長回しで見せるのは、演者、演出レベルの高さが求められるところだ。本作においての長回しは、説明的なダイアローグと演出テンポにより、少し冗長な印象を受け、充分に効果的とは感じられないものになっている。ここはもうひとひねり欲しかった。

主人公の青春ドラマがかなり面白いだけに、その主人公の精神、心理に影響を与える家族ドラマがメインストーリーとなっている本作は、どちらに重点を置けば面白くなるか、という面での構成バランスに悪さが感じられる結果となっている。笑いと泣かせのギャップというより、笑い場面の面白さに比べ、泣かせ場面が無駄に重すぎて、今ひとつ感動出来ないのが残念だ。

出演者のファンなら一見の価値はあるであろう本作、劇場で見る程でもないので、興味のある人はレンタルでどうぞ。



tsubuanco at 15:44│Comments(0)TrackBack(3)clip!映画 

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