2007年03月05日

ワンピース THE MOVIE エピソード オブ アラバスタ 砂漠の王女と海賊たち 70点(100点満点中)

皮膚が透明な黒人
公式サイト

週刊少年ジャンプにて連載中の人気漫画で、TVアニメも放送中の『ワンピース』劇場版第8弾。これまでの劇場版では、映画用オリジナルの新作ストーリーで作られていたが、今回は、原作、TVともに、おそらく最も一般人気が高かったであろう時期のエピソード、"アラバスタ編"を、改めて完全新作画で映画化。

まず原作漫画について少し触れると、作者の尾田栄一郎だが、コマ割り、構図、視点誘導、など、基本的な"漫画表現力"があまりに稚拙すぎるため、絵的な面では全くもって評価がし辛い漫画家ではある。(アニメ化される事でこの問題は解消されるが)

が、ストーリー的な面に目を向ければ、"犠牲者"をとことん哀しく、"善人"はどこまでも誇り高く、"悪役"をとことん悪辣に、これでもかと"悲劇"を描写し前フリとする事で、それをルフィ達が力技で解決するカタルシスを最大限に増幅し、ハッピーエンドとともに涙の別れで締める、ヒーローものとしての王道をしっかり押さえ、ストレートな感動を生む、水戸黄門的な勧善懲悪の人情旅ストーリーは確かに面白い。能力バトルの工夫に、もうひとヒネリほしい気もするが。

ビジュアル面の完成度を重視しない、子供層を中心に人気が出るのは充分に理解出来、見た目のクオリティより勢いを優先する、週刊少年ジャンプの編集方針が上手く行った好例として、かつての小林よしのり、ゆでたまご、宮下あきら、つの丸などと並ぶ成功例と言えるだろう。それら先人達の様に、もっと漫画表現が上手くなってくれると、更にありがたいのだが。

さて今回の映画、連載期間にして約1年に渡って繰り広げられた長編ストーリーを、90分程度の尺に収めているため、かなりの省略がある上、話の途中から何の説明も無くいきなり始まるため、原作かTVでストーリーを知っていないとよくわからないのだが、そもそも、本作はかつての"東映まんがまつり"の延長線上にある、作品ファンのためのイベント映画であり、知っている事が前提となる事自体は、これは全く問題では無いだろう。

ファンが感動ストーリーを反芻して楽しむための作品だけに、名場面をいかに再現するか、バトルと感動が程よいバランスで構成されている本エピソードを選択したのはいいが、盛り沢山な内容を、いかに取捨選択するか、こそが最重要であるのは言うまでもない。

省略、改変された部分に付いて以下に述べると、まず、スモーカー、たしぎ、エース、イガラムなど全く登場しないキャラクターがあるのだが、これらは、いなくても話が成立するので問題ないだろう。

前半はシンプルかつ大胆にストーリーをまとめ上げる事で、大体の大筋はつかめ、クライマックス以降をじっくり描いて感動を盛り上げる、そんな構成となっているが、いくつかの、重要な伏線となるシーンが省略されていたり、ネタ振りとネタバラしの順序が無駄に変えられ、意味を成さなくなってしまっている部分も散見される。

例えば、ボンクレーがルフィ達と出会うところから物語を始め、ビビとの別れで締める、左腕の"仲間の印"を最初からラストまで引っ張る重要ファクターとした構成ながらも、最初に腕に包帯を巻くシーンで×印を見せてしまった上に、中盤の展開で、この印を活用してビビがウソップに擬態したボンクレーを見抜く場面がカットされているため、この印が持つ意味の重要性が半減し、ラストの感動が成立し辛い。もちろん原作を知っているとわかるので感動出来るのだが。

全員がビビに変装して誰かわからなくし、バラバラに突入する場面では、岩陰に隠れているビビを先に見せてしまい、突入した全員がニセモノと観客に教えてしまう事で、全員が一斉にローブを脱いで顔を見せる段で、「全員違うのかよ!ていうかラクダもかよ!」というツッコミが生まれなくなってしまっている。どう考えても見せる順番が逆だろう。

砂人間クロコダイルにルフィが対抗する術の推移も、水の入った樽を持ってクロコダイルを攻撃する、第二ラウンドが丸々カットされている。この第二ラウンドの顛末と、ロビンが隠し持っていた水を奪われる場面で、"水を使うだけでは敵わない"事を強調し、最終決戦でルフィが自らの血を使って戦う意味を持たせる、この流れがこれまた成立していないのだ。血を使う意味がわからず、根性だけで戦っている様に見えてしまう。これもまた、原作を知っているとわかるので、燃えるバトル場面となるのだが。

ルフィ以外のメインキャラの各ラストバトルは、かなり大幅に省略されているので、攻防の展開がわかり辛くなっている。特にゾロが勝てた理由が語られないため、「礼を言う」の台詞の意味が全くわからない結果に。これも同様、原作を知っているとわかる、カッコいい決め台詞なのだが。

他にも、"砂砂団"という言葉が唐突に出てくるなど、全体的な説明、描写は不足している。ために、一本の独立した映画とした場合は、評価の対象に当たらない。あくまでもファン限定で楽しめる作品に終わっているのは少々勿体ない気もする。

一方で、次章にてロビンがルフィ海賊団に加わる意味を、心情的な理由も見せて説得力や必然性を増しているオリジナルの追加要素など、原作を知っているとその違いを楽しめお得感がある、"改良"と感じられる部分も見られる。

作画、映像的には、ところどころ引きのグループショットにおいて、大画面で観るのが恥ずかしくなるクオリティの、ラクガキの様に崩れた絵もあったが、後半のアクションシーンや感動シーンは安定しており、そちらに力をつぎ込んだせいと思われるので、結果的にはオーライだろう。

決めとなる要所要所での、ハーモニー(かつて出崎統が得意とし氏の代名詞にもなった、劇画調の止め絵)の多用は、見せ場となる絵面をじっくり見せる、有用な効果として成立している。

国王軍と反乱軍の戦いの遠景をCGで見せるなど、劇場のスクリーンで見せるためのスケール感ある映像も用意されており、TVと同じ話でも、映画館まで観に行くだけの価値は充分にある。

ルフィvsクロコダイルのラストバトル、ビビの頑張り、ペルの自己犠牲、別れ、など、燃える、泣ける重要な場面は、しっかりと観客の感情を煽るべく演出されており、省略されている事項も脳内補完すれば、より一層感動出来る事は間違いない。

短い時間に見どころを詰め込み、笑い、燃え、泣いて、後味よくスッキリと劇場を後に出来る、娯楽性は極めて高い作品に仕上がっている。特に終盤の、畳み掛ける様な感動場面の連続には、有無を言わさないだけの圧倒的な勢いがある。終わりよければ全て良しなのだ。

原作やTVアニメを知らない人にとっては、説明不足にも程があるので全くオススメしないが、ファンなら間違いなく必見。親戚の子供でも連れて行って、観客全員で興奮と感動を共有すべし。


余談:
同時上映された『Dr.スランプ』の超短編アニメ。旧作のキャスト、デザインなのは嬉しいが、オリジナルキャラの宇宙人が全然鳥山明っぽくないのが残念。



tsubuanco at 11:59│Comments(7)TrackBack(2)clip!映画 

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1. おかま道  [ 猫になりたい ]   2007年03月11日 19:38
今ちょうどワンピースの映画やってるみたいですね アラバスタのとこ CMでみてたらみたくなってきた 映画じゃなくて漫画で 映画はかなり評価低いしね でもオレがチェックしてる映画評価ブログではなかなかの評価 (´-`).。oO(蚊取り線香は蚊を取らないよ):ワ...
2. ワンピースのストリー  [ ワンピース委員会 ]   2007年04月02日 13:36
主人公ルフィは海賊であり……ッッッ……海を渡り各島を渡り旅をしていく。主人公とその仲間は海賊であるがッ!民衆を襲うわけではなくそれぞれの目的の為旅をしている。主に各島で事件に巻き込まれ、敵を倒しまた次の島へ進んでいく。まさに流れるようなコンビネーションと...

この記事へのコメント

1. Posted by sirota   2007年03月06日 22:37
ジョジョと比べるとよっぽど良い出来みたいですねw
3. Posted by おだちん   2007年03月07日 22:46
尾田栄一郎の原画をこきおろすなんて、
いい度胸ですね。
4. Posted by つぶあんこ   2007年03月08日 18:56
・sirota さま
 ハイいいですねえ。
 省略してても説明不足でも、
 面白さのツボは押さえてますから。

・おだちん さま
 イヤ漫画読みなら常識でしょ。
6. Posted by こしあん派なんですけど太郎   2007年03月13日 18:29
初めまして、数日前から読ませて頂いてて、どれも同意出来るレビュー(自分の観た映画のみ)でとても面白く好感を持てたのですが、今の所この評価は頂けなかった。
ワンピースを好んでそうですが、ならば北斗の拳やジョジョのレビュー並に厳し目で観てほしかった(あ、こっちは子供向けを前提として評価したからかな?)。とにかく、甘い点数ですね。貴女程叩き伏せるレビュアーは影響力も大きいのでひいきしないようにして頂きたい。

「DEATH NOTE(後編」は僕も原作を超えた完成度だなあと思ったのですが、それを80点として、このワンピースが70点。これはどうなの。…僕なら、50点も無いですが。北斗やジョジョと同じように今回の絵すら、評価を下げる要因にもします(お祭り男爵のクオリティがある以上)がそこに触れて無い。。
まあ、とりあえず点数甘かったので驚いて書込みました。
今後もちょこちょこと参考にさせてください。
7. Posted by つぶあんこ   2007年03月14日 11:46
個人的にはワンピースはあまり好きな作品ではないですし、作品としての評価もあまり高くはないのです。

(原作の)好き度なら、ジョジョや北斗の方がダントツで上ですね。

でも今回の映画は、ワンピースが持っている面白い部分を、上手い具合に濃縮してまとめていると感じたので、この評価となりました。

逆にジョジョや北斗の映画は、本来持っていた面白い部分が全く活かされていないと感じたので、低評価となってしまいました。

まあ、点数は相対的なもので絶対値というわけではないので、あまり厳密に気にされない方がよろしいかと。
8. Posted by DGS   2007年05月11日 01:19
嫌よ嫌よも好きの内。
原作の評価が辛口だけど
根っからの嫌いって感じじゃなさそうですね。
9. Posted by つぶあんこ   2007年05月11日 17:15
や、かなり好意的に誉めてるつもりなんですけど…(笑
話は面白いと思ってますよ。
何もかもダメと思ったら、そもそも読み続けませんし。

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