2007年03月06日

さくらん 40点(100点満点中)

人魚じゃないよ金魚だよ
公式サイト

安野モヨコ原作の同名漫画を実写映画化。監督は本作が初監督となる、写真家の蜷川実花。脚本はタナダユキ、音楽は椎名林檎と、メインスタッフを女性で固めた、女性が作った女性向け映画、と呼んで差し支えないだろう。

主人公となる"きよ葉=日暮"を演じるのは土屋アンナだが、彼女、女性には人気がある様だが、男性から見れば女性としての魅力があまりないのが現実。眼は大きいが眼の下のクマも目立って不健全な印象に見えるし、何より、しわがれた汚いダミ声は聞くだけでゲンナリする。(ハスキーボイス、などと高尚なものでは決してない)

『下妻物語』で演じた様なヤンキー役にはピッタリすぎるほど嵌るが、"女の魅力"が商売道具な本作主人公には全くそぐわないミスキャストである。女性向け映画であっても、役柄の設定的には"男が夢中になる女"なのだ。嫌いな相手に蹴りをかますなど、粗暴な一面がありながらも、女としての色気や魅力を男が感じる一面もある、そんな二面性が原作主人公の魅力なのに、粗暴なだけの安いチンピラ女にしか見えない彼女では、主人公が客から引っ張りだこになる説得力が全く無い。

それには目を瞑るとして、本作最大の特徴となるのは、監督を務める蜷川実花の"個性"となる、特異なビジュアルセンスだろう。

蜷川カラー(笑)と俗に呼ばれる、彩度が高い原色を大胆に組み合わせる配色センスと、それを最大限に引き立たせるために、手前を暗く、奥を明るくして背景の色彩を強調するなど、照明を効果的に使用。このあたりのビジュアルに対する取り組み方は、さすが写真家と言うべきもの。

これは、「奇麗、美しい」のとは全く違い、70年代の現代アートに見られた様な、グロテスクさから生じる魅力、の表現であり、横尾忠則あたりのセンスに近いものを感じる。というか模倣か。(と思っていたら、先日蜷川実花がTVインタビューにて「横尾忠則が好き」と自ら言っており納得)

色彩以外の構図面では、常に手前、被写体、奥、と、奥行きを意識し、立体的な画面になる様考えられた構図は、やはり写真家の経験が活きているもので、特に、終盤に用意されている、二階に日暮が、階下に清次が、それぞれ立って月を見上げている様をローアングルで捉えた画面は、一枚絵としても成立する美しいショットで、それまでの映像が、ほぼ水平目線のショットばかりだった事とのギャップもあり、より観客をハッとさせ魅入らせる効果をあげている。

この日暮と清次のツーショット画面としては、終盤の稲荷での映像に俯瞰を用い、先述のローアングル映像との対極を成している。こうした映像的なセンスにおいては、例えば蜷川実花同様に、写真家から映画監督に挑戦した事が話題となった、『CASSHERN』の監督・紀里谷和明などと比べれば、高い方ではある。

ただ、ハード面である映像と、ソフト面であるストーリーの展開やテーマなどとの融合を考えると、今ひとつ、いや二つか三つほどヒネリが足りないとも感じてしまうのも事実。

物語の前半は原作にかなり忠実に進められ、原作のカットをそのまま実写に置き換えた映像も所々に見られるが、そもそも安野モヨコ自体が、コマ割り等のセンスはあまり優れていないため、そのカットをそのまま使うのは、映像的視点ではあまり良いとは言えないのだ。

現代語と時代めいた言い回しがゴッチャになっているのは原作同様で、他にもいろいろと歴史考証的に引っかかる点が多々あるが、そういう考証を求める作品でもないので、これはどうでもいいところだろう。

郭内の狭い世界のみで物語を展開し、ラストシーンの"広い世界"を強調する、その狙いはわかるが、途中で挿入される河原のシーンの存在によって、その効果は半減してしまっている。

艶やかな美しさだが、狭い金魚鉢から出ては生きていけない金魚と、遊郭の中の女を重ね合わせる意図はわかる、というかあまりにストレートにわかりやすすぎて稚拙に感じる。遊郭の門上の水槽のビジュアルは、有り得ないながらも面白いが、花魁の部屋の金魚鉢と重複しており、見せすぎな感が強い。オマケに台詞でも何度も説明してしまっており、明らかにやりすぎだ。

風呂場シーンで殊更に乳房を強調し、大人の女の象徴として見せる、これもまた、あまりにもそのまんま過ぎて工夫が感じられない。それとも、本作の主要対象層は、そこまでわかりやすくしてもらわないと理解出来ないレベルとでも言うだろうか。

ラストシーン、メイン舞台から消える主人公、残された人々、一方、主人公は楽園の様な風景の場所で幸せそう、と、これは、そのままハッピーエンドととるか、実は主人公は死んでおり(途中で禿が「遠くに行って死ぬ夢を見た」と言う場面が伏線)、あの世を楽園の景色で表現し、判断を観客に委ねる、そんな狙いなのはわかるが、これまた古今東西に頻出の、よくある終わり方で、オリジナルと称するには苦しい。

しかもそこに至るまでの展開が、場面場面がブツ切りの羅列でつながりが弱く、主人公と男の心情描写があまり丁寧ではないために、感動するに至らない。これは全体的な構成上の問題だ。

原作は未完。というより、いつ終わってもいつまで続いても問題ない内容であり、無理にストーリーを終わらせる必要はなかったのでは、と思う。

美波演じる若菊など、前半では重要な役割を担っておきながら、途中で何の説明も無く無意味にフェードアウトするキャラクターが存在するなど、物語としてのまとまりに欠けている部分が多い。これで脚本に4年かけたと言うのだから理解に苦しむ。それだけ時間があれば、最低限の辻褄くらいは合わせられるだろうに。

花魁道中、客との騎乗位セックス、それを覗き見る禿、簪を禿に与える、と、主人公が少女時代に付いた花魁・粧ひ(菅野美穂)と、成長して花魁になった主人公とで全く同じ事を繰り返し、人は変わっても、いつまでもループする世界、それはこの店だけでなく、他でも同じであると、閉ざされた世界を表現している、その狙いは物語の縦糸としてそれなりに機能している。

遊郭が舞台なだけに、当然ながら欠かせないエロシーンは、女性向け映画ながら、ねちっこくストレートな表現で、菅野美穂や木村佳乃の乱れ喘ぐ様を生々しく見せつけ、見せ場として充分に成立しうるものとなっている。が、バックで突かれながら乳を執拗に揉み続けられる事で、木村佳乃の乳首を男の手で隠しているカットなどは、そこまでするならいっそ見せた方が、当人的にも気が楽なのでは、とも思う。

アートと呼ぶには少し上滑りな感があるビジュアル、役に合わない主演女優、ストレートすぎる隠喩、ありがちで安っぽい女性心理描写、うるさい音楽、と、ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』と同傾向ながら少しはマシな程度、に終わっている。

原作や出演者のファンなら一応観ておいた方がいいかも、というくらいで、特にオススメはしない。椎名林檎のPVだけ見ておけば充分だ。


蛇足:
タイトルのイントネーションだが、「タイタン」「シャリバン」「ゴリポン」「ガルダン」あたりと同じらしい。が、そもそも桜と花魁を合わせた造語ではないのか? それなら「錯乱」と同じイントネーションの方が正しいのでは? どうでもいいが。

tsubuanco at 16:36│Comments(4)TrackBack(15)clip!映画 

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粧ひのお色気も然ることながらきよ葉もお色気満点です。こんな映画をお子様が見る時間に遣っていいものかと物議を醸しそうですが、金魚の映像と椎名林檎の音楽がよく合っています。

この記事へのコメント

1. Posted by 咲太郎   2007年03月06日 00:58
相変わらず斬りまくりですね。
濡れ場は一番しつこく演出していたらしく、見応えありましたね。
しかし脚本に4年て凄いですね。
びっくりです。
私も金魚はちとしつこいなと思いました。
言葉のアクセントは難しいですね。
私も気になっていました。
語頭アクセントなのか、平板なのか。
正しくは語頭アクセントなのですね。
どうでもいいことですが・・・(笑)
2. Posted by つぶあんこ   2007年03月06日 10:47
うーん、結構がんばって褒めたつもりなんですが…
3. Posted by みかん。   2007年03月11日 10:24
ストーリーの拙さやミスキャスト、構図の単調さ、演出の貧困さは別にしても、あの目に優しからざる自己主張の強すぎる色彩感覚については、もう少しナチュラル目にした方が良いのではないかと思いました。
4. Posted by つぶあんこ   2007年03月12日 18:53
でもあの色が無ければ特徴も無くなってしまうのでは(笑

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