2007年02月21日

愛されるために、ここにいる 75点(100点満点中)

あの娘に見せる勝利のトロフィー
公式サイト

50歳男性と30代女性の恋愛を描いたフランス映画。

単館系でフランス映画でこんなタイトルだと、地味で陰鬱で難解な人間ドラマが用意されていると予想し得るのだが、本作、その予想を覆し、極めてわかりやすい、それでいてしっかり楽しめる、大衆向け娯楽作に仕上がっている。

まず冒頭で、差し押さえ執行官である主人公が、支払い勧告を住人につきつける"仕事ぶり"の、良くも悪くも情を全く挟まない事務的な態度から物語が始まり、長く離れていた息子を職場に受け入れた大切な日なのに、建前の会話すらマトモに続かない場面に続く。そして週に一度、介護施設に入っている父親を訪ね、モノポリーの相手をしていても、全く表情を変えず、父の嫌みや小言を聞き流し、帰路の車内で一人「クソったれ!」と怒りをぶちまける。こうして、当初の主人公の人間性、近しい者達との関係を最初にわかりやすく説明。

そんな彼が、適度な運動をしないと心不全で死ぬ、と医者に脅され通い始めた社交ダンス教室で、古い知り合いの中年女性と再開、この二人の心情変化と関係の変遷が物語のメインストーリーとなる。

最初、二人で行うダンスは、全くぎこちなくスキンシップも恐る恐るなのが、次第に密着しダンスも上達。これはダンスに二人の親密度を投影する表現で、とてもわかりやすい

物語の重要ファクターとなるダンスだが、通常、ダンスを見せるための映像とするには、ダンスにおいて最も重要なステップ、足さばきを見せるため、出来る限り全身をフレームに収めて見せないと意味がないのだが、本作におけるダンスは、あくまでも二人を結びつけるためのギミックに過ぎないため、ほとんどがバストアップの映像で見せ、表情、密着度、などで二人の心理的距離感を表現している。これは作品の狙いに沿ったものだから、この方が効果的なのだ。

ヒロイン側のドラマとして、結婚を控えているが色々と問題を抱え、マリッジブルー全開な事をしっかりわかりやすく描写し、更にダンス教室にて彼女に言い寄ってくるハゲオヤジの言動を、これまたわかりやすく邪魔な存在として描写。それらが理由となって、婚約者の様に情緒不安定でもなく、ハゲオヤジの様に自分にガツガツしない上に、古くから知っている人である事もプラスして、究極的に"安心出来る人"と感じ、どんどん思い込みが加速して好きになっていってしまう、と、ヒロインが恋に落ちる様が非常にわかりやすく見せられる。

主人公側も、最初は何とも思っていなかったにも拘らず、美人からどんどん積極的に攻め寄られて悪い気がするわけもなく、親子関係で悩んでいる自分からの逃避的に彼女の存在が大きくなっていき、遂にはプレゼントを買いに行くなど浮かれポンチ状態、と、やっぱりわかりやすく、いちいち共感できる描写を見せられる。

そんなわかりやすいお話なだけに、ある程度までスムーズに進んだら障害が登場してピンチに陥り、様々な出来事を経てまた恋が進行する、この波乱もまた、二人それぞれの心情、行動がとてもわかりやすく納得できるもので、いちいち頷かされてしまう。

用意された人物、事象が、ネタ振りと回収が極めて丁寧に行われ、ひとつ先に起こる事は簡単に予想させつつも、決してつまらないとは感じず、二人のドラマを見守りたくなる。

これは、どこまでもわかりやすい描写を緻密に重ねる事で、観客は主人公やヒロインに対する理解をどんどん深め、共感や感情移入度がどんどん高まり同一化してしまうからである。おそらくは作り手は、そこまで考えあえてこのわかりやすい物語を創り出したのだろう。

主人公とヒロインの心情は台詞としてはほとんど語らせず、表情や行動でわかりやすく伝える、この演出、演技はかなり上手い。

恋愛ともうひとつの主軸となる、主人公と父、主人公と息子の愛憎ドラマもまた、非常にわかりやすく且つ面白く展開し、三人それぞれの不器用さに、イライラするどころか心配してしまう程に感情移入させられるものに。トロフィー、植物、チョコレートと、それぞれが大切に思っている物を相似形で見せる、この狙いも面白い。

主人公と父親が、施設の庭のベンチで会話する場面で、正面ではなく常に背後から二人を撮り、表情を完全には見せないまま、両者の斜め後ろからの切り返しカットによって、その時々の二人の心情、感情を、直接的にではなくオブラートに包んだかたちで見せるなど、観客にどの程度情報を伝えたいか、を、狙い通りにコントロール出来ている映像は、さりげないながらも良く考えられている。

誰にでも思い当たる節がある様な、不器用な大人の人間模様を、時に面白おかしく、時に物悲しく、わかりやすく楽しませてくれる、小品ながら丁寧に作り込まれた物語。煩わしい人間関係に疲れた時にでも観れば、少しは元気になれるかもしれない。興味のある人は是非。



tsubuanco at 17:53│Comments(1)TrackBack(3)clip!映画 

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2. Posted by kimion20002000   2007年11月08日 00:51
ヘンに捻ってなくて、本当に「わかりやすい」ね。
でも、あのハゲ親父、僕はちょっと可哀想になりました(笑)

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