2007年03月12日

バッテリー 60点(100点満点中)

魔境の鉄人レース
公式サイト

あさのあつこ作の同名児童小説を映画化。どうも本来の対象である子供達よりも、BL好きの女性層に人気らしい本作。映画化にあたっても、そんな彼女達の期待を裏切らない、キャラクターイメージを壊さないキャスティングの素晴らしさがまず目を引く。

全6巻に渡る長編小説だが、体裁は児童文学なので一巻あたりのボリュームはさほどではなく、また、主人公二人をメインとした、それぞれの主観による心情描写が緻密且つ詳細に描写され続ける内容だけに、ストーリー自体は大して進行していないのが実情。

今回の映画では、そうした主観描写ではなく、俯瞰的に事象の推移を描写し、その展開中に各人物の心情を匂わせる、といった方向性で作られているため、あまり詰め込みすぎとか端折りすぎといった印象はない

また、特に後半は物語を盛り上げるため、"泣かせ"を際立たせたオリジナル展開が多く挿入されており、原作のテイストとはまた違った印象の作品となっている。

原作ではほとんど出番のない、同級生で風紀委員の女子生徒(蓮佛美沙子)の出番が増やされているのも印象的だ。野球少年を題材とした本作、彼女以外は母親と美人女教師(上原美佐)くらいしか女っ気がなく、男ばかりのドラマになり華がなくなる事を恐れての改変と思われるが、実際に、あの程度の地方の公立校なら、おそらくは学校で一番可愛いレベルとリアルに感じられる容姿、立ち居振る舞いを見せる彼女がところどころに顔を出す事で、野球部だけの狭い世界ではない、"学校生活"が感じられる効果となっている。

登場人物の細かい内面描写が省略されていながらも、外見や服装、言動などをハッキリと特徴付ける事でキャラクター立てを行い、各人物の顔と名前と性格が簡単に一致する様になされている。坊主の息子も寿司屋の息子も、一目でそれとわかる、この配慮はありがたい。

そんな仕掛けに対してディフォルメされすぎな感を与えない、主人公を始めとする少年達を演じた俳優達の、"リアルな少年"の演技がまた素晴らしく、ある程度わかりやすい記号化がなされつつも、ネガティブな面も含め、それぞれに共感出来思い当たる節がある、キャラクター設定とよくマッチし、作品世界の構築をよく担っている。

女性作家が女性視点で描いた"理想の少年像"であった原作のキャラクターが、男性スタッフによって翻訳される事で、無理のない、地に足のついた描写となっている事も、リアルさを持たせている一助だろう。

そんな少年達を、時に支え、時に障壁となる大人達もまた、その言動の奥の心情が推し量れるリアルな設定、描写、演技によって、繰り広げられるドラマに対し、観客の共感や感情移入を生んでいる。特に主人公二人の母親の、あまりに複雑な思いが入り交じった性格設定、言動、心情描写は、まさに原作者の本音が書かれているのではと思わせるほどで、その原作のテイストを程よく活かされた、映画における母親描写、演技もまた、終盤の"泣かせ"場面では少し過剰になりがちではあるが、そこまでに見られるドラマは極めてリアルなもので感心させられる。

天才的な才能を持つピッチャーで、その我の強さ故に常に周囲と衝突している主人公の、唯我独尊なキャラクターが本作の大きな特徴だが、原作のメインと言って過言ではない主観的な心情描写がほぼ削られながらも、様々な人物との衝突や確執のドラマを的確に配置する事で、そのキャラクター性はほとんど損なわれていない、この脚本構成と演出、演技は見事だ。

そんな常にムッツリした主人公だけに、ドラマも自然殺伐となりがちなのだが、例えば、主人公が母親に肩を掴まれてそれを振り払い、壁を殴って階段を上がり去る、一触即発的な展開からそのまま続けて、母親の焦燥をはぐらかす様に祖父と父のユーモラスなやりとりを展開し、ドラマの進行に緩急をつけている。そうした構成にて進行するドラマに単調さはなく、観客は飽きを感じる事なく二時間の上映時間を過ごせるのだ。

試合の場面では、劇場のスクリーンで見る事を配慮した、横方向の広がりを強調した画面作りがなされ、主人公の投球を、その周囲をぐるっと回り込んで見せたり、あるいはキャッチャーミット視点で観客の眼前に超スピードで迫る主人公の投球を見せ、、思わずビクッと反応してしまう映像など、試合の臨場感とともに主人公の凄さをも示す作りは上手い。

主人公はその性格や志向を変えず我が道を行き、周囲が主人公の影響を受け様々に変容していく、それこそが本作のドラマとしての面白さであり、野球の試合もまた、その一要素に過ぎないという原作の持ち味が、後半のオリジナル展開での、主人公二人の衝突と和解、及び主人公の家族関係の解決、の、わかりやすい"感動"を観客に押しつけがちな顛末によって、幾分ありきたりな方向性に変えられてしまっている、この辺り、原作読者は不満を感じるところだろうが、映画における落としどころとしては、これで充分ではないだろうか。

あらゆる世代のキャラクターが登場し、それぞれの心情がリアルに見せられる事で、観客ひとりひとりがそれぞれ、自分とシンクロして共感出来るキャラクターを見つけ出し、作品世界に没入して感動出来、尚且つ、大人の観客は大人キャラクターに自分を投影しながらも、かつて子供だった自分を子供キャラクタ−と重ね合わせ、当時の思いを懐かしむ、そんな楽しみ方が出来る本作、原作は児童文学だが、世代を問わず楽しめる娯楽作品となっている。

原作を知らなくても、機会があれば観て損はない一本。出来れば劇場で、眼前に迫るボールの迫力に驚いてみるべし。(3D映画なら更に凄かったんだが)

tsubuanco at 17:04│Comments(0)TrackBack(13)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. ボーイズラブ!映画「バッテリー」  [ シンジの“ほにゃらら”賛歌 ]   2007年03月13日 19:46
この映画バッテリーの世界では野球こそが唯一無二の存在。絶対的な価値あるものという思想が根底にあることがあまりにも違和感あるなぁと思っていたが 丁寧にドラマをつづっていくのでやがてそんな違和感も消えていく。 ここでは野球とはスポーツを超えた生き方そのもの....
2. バッテリー  [ 頑張る!独身女!! ]   2007年03月13日 21:34
信じてますか?あなたの友達を。信じていますか?あなたの家族を。信じていますか?自分自身を。
3. 「バッテリー」試写会レビュー 野球、、、。  [ 長江将史〜てれすどん2号 まだ見ぬ未来へ ]   2007年03月14日 01:47
いや〜良かった。花粉症で目カピカピのはずやのに泣いてしまいました。野球をほんといろんな面から丁寧にとらえていて、、、まさに名作じゃないでしょうか。
4. 『バッテリー』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2007年03月16日 12:41
いまだからこそ、できることがある。 ■監督 滝田洋二郎■原作 あさのあつこ(「バッテリー」角川文庫刊)■脚本 森下 直■キャスト 林 遣都、山田健太、鎗田晟裕、蓮佛美沙子、天海祐希、岸谷五朗、菅原文太、萩原聖人 □オフィシャルサイト  『バッテリー』  1...
5. 映画:バッテリー 試写会  [ 駒吉の日記 ]   2007年03月16日 13:36
バッテリー 試写会(東商ホール) 「どまんなかに、こい」 映画化ということで、原作も急遽読破しました。(レビュー:?????? 、?????? ) 内容としてはほぼ全巻、家族と中学での部活、横手との2試合が巧(林遣都)・豪(山田健太)視点で描かれています。 ...
6. バッテリー  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2007年03月17日 22:53
BATTERY [TOHOシネマズ流山おおたかの森/SC6/シネマイレージデー料金] 公式サイト 『いまだからこそ、できることがある。』 ついにオープンしましたTOHOシネマズ流山おおたかの森。初観賞です。いやぁ、今まで行った事のあるTOHOシネマズに比べてロビーの広い事、広い....
7. バッテリー  [ いろいろと ]   2007年03月18日 00:05
久々にみた映画です。 あさのあつこ の原作、累計800万部を超える売上を記録 文
8. バッテリー  [ ケントのたそがれ劇場 ]   2007年03月29日 21:15
★★★★  子供が主演の映画には、いつでも泣かされてしまう。やはり子供たちの心が真直で、透明だからなのだろうか。 野球は個人競技ではない。どんなに優れた選手がいても、チーム全員の心が一つにならなければ勝てるはずがない。当たり前の事だが、伝統ある某プロ球団で
9. 『バッテリー』  [ アンディの日記 シネマ版 ]   2007年04月12日 15:43
感動度[:ハート:][:ハート:][:ハート:]          2007/03/10公開  (公式サイト) 泣き度[:悲しい:] 笑い度[:ラッキー:][:ラッキー:] 満足度[:星:][:星:][:星:]  【監督】滝田洋二郎 【脚本】 森下直 【原作】あさのあつこ 『バッテリー』(角川文...
10. 801御用達映画「バッテリー」で超感動!  [ ノルウェー暮らし・イン・ジャパン ]   2007年05月01日 13:53
りょうた(四年生)の野球好きの同級生が、ピュアな気持ちで「すごくよかった!」と言って、自分のお小遣いで原作本まで買ってしまったという映画「バッテリー」 実はこの映画、801ちゃん(‘やおい‘と読む)の間で評判の映画だという事は、801ちゃん系以外の人には...
11. バッテリー [Movie]  [ miyukichin’mu*me*mo* ]   2007年10月08日 00:31
 映画(DVD)「バッテリー」         (滝田洋二郎:監督/あさのあつこ:原作)  バッテリー 特別編 (初回生産限定版) (あさのあつこ書き下ろし小説付)角川エンタテインメントこのアイテムの詳細を見る  全6巻の原作は、まだ5巻までしか読んでないのですが、 ...
12. バッテリー  [ にき☆ろぐ ]   2008年03月17日 19:08
映画のバッテリーをやっと見ました原作はすべて読んでますでもまさか原作6巻分のお話全てをやるとは思ってませんでした(まぁかなりはしょってましたが・・・・)結果としてかなりうまくまとまった良い青春映画になっていたと思いますまぁいろいろはしょりすぎてて原作を...
13. 映画『バッテリー』  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年04月06日 12:21
なんだか懐かしいような響きで"おえん"なんて、方言が聞こえてきて、ちょっと方言指導したくなるようなところもあるけど、岡山県が舞台の青春ストーリー・・ 新田市というのは架空だけど、岡山県美作市湯郷在住の作家あさのあつこさんの原作によるロケは...

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments