2007年03月22日

ステップ・アップ 50点(100点満点中)

盗んだ車で走り出す
公式サイト

日本ではavexが配給している本作、ダンス、DJ、青春、恋愛と、同社がターゲットとしている若者層が大好きな要素がベタにテンコ盛りな、わかりやすくカッコいい娯楽映画に仕上がっている。

冒頭で、ヒップホップ調の曲にあわせて、裏通りの汚い路上でのストリートダンスと、ダンススタジオ内でのバレエレッスンの様子が交互に見せられ、本作が見せたいダンスの、目指している方向性をまずハッキリと提示し、この時点でラストまでの流れは大体読める事に。タイトルがダンスのステップと、現況より高みへと這い上がる事を示すダブルミーニングなのも、非常にわかりやすい。

その後も、いちいちわかりやすく登場する主要キャラクターと、それらがわかりやすく役割に沿って行動するドラマ展開は、ほとんど予想が裏切られる事無く、ほぼ思った通りに話が進むのだが、本作はストーリーの面白さを楽しむ事が目的ではなく、ダンスの動きとそれがストーリーの進行に応じて変化していく様を楽しむ事が最重要であり、複雑で意表を突くストーリーなどはむしろ邪魔になってしまうので、単純でわかりやすい話の方が最適なのだ。

貧民街に育った孤児で、同じ境遇の仲間と車泥棒を繰り返している主人公はストリートダンスを得意とし、一方のヒロインは、比較的裕福な家庭に育って幼い頃よりバレエを倣い、プロを目指している。ヒロインはモダンバレエをベースとした創作舞踊を志向していたが、主人公との出会いによって、決まった型にとらわれない、自由な振り付けの集団舞踊へとスケールアップしていく。

これまたありがちでわかりやすい図式だが、だからこそ余計な心配をせずに、二人がダンスを通じて少しずつ距離感を縮め、人生観も変貌していく、その過程を楽しめるのだ。

ダンス映画で重要なのは、演者のダンステクニックはもちろん、映像がそれを効果的に観客に見せつけられるべく作られているか、であろう。ダンスという表現の意味を理解出来ていない製作者が撮った場合、やたらと上半身ばかり映したり、無意味にイメージショットを多用したりして、ダンスで最も重要な足捌きや、全体としての舞台の構図が全く見えてこない、ダンス映画としては丸っきり落第点な映像となってしまうのだが、本作はそうではなく、タイトル通りにステップを重視し、舞台で見るために作られたダンスを、しっかりと全体の構図が観客に伝わる様に広めの画を多用し、尚且つ映画として単調さを与えない様に、邪魔にならない程度に寄りの画を挿入する、ダンスを見せる映像としては、バランスが良いものとなっている。

そして映画の場合は、そのダンスを行う場所を様々に設定する事で、ストーリーに沿ったダンスを見せると同時に、映像的なバリエーションを持たせる事も出来る。この点にも当然抜かりはなく、ラストの発表会に向けてのレッスンが大半なので、スタジオ内での平面的な構図を基調とし、それとは一線を画すクラブの場面では、ミュージカルの様に統率のとれた"群舞"をPV的映像にて見せメリハリとし、同時にこの場面でのヒロインの心理変化を後の展開へ繋げている。

そして映画としては最も美しいダンスシーンとなる、予告などでも使われている、夕陽をバックにしたリフトの場面へとなだれ込み、ダンス的、映像的、ドラマ的な最初の大きな盛り上がりをここに結実させている。ここまで、非常にベタながら、だからこそ安定している娯楽性を、問題なく楽しめるだろう。

途中までは順調に進みながらも、後半でひと波乱あって少し停滞する、というのもまた、王道的な定番展開であり、ここの"波乱"の描写とその克服を、いかにドラマティックに見せるかが、ラストの大団円を盛り上げるポイントである。

だが本作、その"波乱"までもがあまりに予定調和過ぎるのは、いくら何でも安易ではないか、との印象を与えがちに感じる。最初から登場する、主人公の親友である黒人兄弟の存在が、主人公側の波乱のキーパーソンとなるのだが、この、"下層"を象徴するためのギミックであるキャラクターの、弟の方の言動を最初から見ていると、かなり早い段階で、この弟がどうなってしまうか、が具体的に予想出来てしまい、実際にその通りとなるくだりなどは、物足りなさが残る。

主人公とヒロイン、双方の波乱の後の和解もまた、決まっているラストへ繋げるための無理矢理感が強く、いくらわかりやすく単純なストーリーで構わないとは言え、観客を呆れさせないほどの、リアルな人間心理とそれに沿った言動を見せてもらわない事には、"御都合主義"の誹りは免れないだろう。

予定調和的なハッピーエンドには、それなりの感動は与えられるが、突き抜けの無いストーリー、キャラクターには、平均点以上の情動は揺さぶられず、決して悪い印象はないが、突出した好印象ともなり得ない、平均点の娯楽映画

ダンス映画好きなら観て損は無いだろう。興味のある人は劇場で是非とも鑑賞すべきだが、日本ではエンディング曲が倖田來未に差し替えられており呆然としてしまう事受け合いなので、本編が終わったらさっさと帰ればいいだろう。

そのエンドロールが終わった後に、更にダンスコンテスト最終選考とかいう、いつどこで募集してたのかも不明な企画映像を見せられ、一番良かった人に投票する様に言われるのだが、この"ダンス"を映した映像が、ちっとも"ダンスを見せる"映像として機能していないのには呆れる。倖田來未の曲を売りたいだけじゃないのか、と邪推せざるをえない。

そもそも、体格のいい西洋人の美男美女が一流のテクニックで披露していたダンスを先程まで見ていた観客にとって、ストリートファッションに身を包んだ手足の短い日本人がダンスをしている映像を見せられたところで、ダサダサの劣化コピーとしか感じられず、失笑する他ない。

avexの中に、このマイナスのギャップを指摘する人間はいなかったのだろうか。倖田來未にも出ている日本人ダンサーにも罪はないだけに、余計に哀れに見えてしまう。

せっかく気持ちよく終わった映画の後味も、avexの白痴営業のせいで台無しだ。繰り返すが、本編が終わったらさっさと帰るべし。



tsubuanco at 10:57│Comments(3)TrackBack(8)clip!映画 

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2. ステップ・アップ  [ 映画、言いたい放題! ]   2007年03月22日 03:56
ミュージカルが大好きな私としては、ダンス映画と聞いたら やっぱり観たくなる。 しかも監督は「チアーズ 」の振り付けを担当し、 本作が監督デビューとなるアン・フレッチャーだと聞いたら期待も高まりますわ。 映画館で鑑賞。 ダンスは得意だが、ボルチモアの貧し...
3. 『ステップ・アップ』  [ 唐揚げ大好き! ]   2007年03月24日 08:45
  『ステップ・アップ』   この一瞬に夢をかけて   エイベックスの配給なので倖田來未の「BUT」が2回と半分位流れます。 いや嫌いじゃないんで別にいいですよん。 さて、ダンス・ムービーですからね、キレのあるダンスとノリノリのリズムで是非楽しませてもら
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この記事へのコメント

1. Posted by 咲太郎   2007年04月02日 19:59
ダンスをやっている者としては
主人公に感情移入して観てしまいました。
他人事に感じなかったです。
しかもヒロインがタイプだったんで尚更です。

いやあ、しかし、全く、本編終了後の映像観ちゃったよ!
だって上映前に観ろってテロップが出たからさ・・・。
大失敗。
2. Posted by つぶあんこ   2007年04月03日 17:58
自分も最後まで帰らない人なので、結局全部見ましたけどね。さすがに投票する気にはなりませんでしたが。

もちろん出てる人達に罪はないんですけど。
3. Posted by わとそん   2008年10月25日 20:36
 WOWOWで見ました。
 まさしく可もなく不可もなく、いい意味で言えば安心してみていられる、悪い意味でいえば見ても見なくてもいい映画でしょうか。
 ラストのダンスシーンがいまいちなのが一番問題。

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