2007年03月25日

アルゼンチンババア 20点(100点満点中)

人間発電所ブルーノ・サンマルチノ
公式サイト

とある町外れのゴミ屋敷に住む変人、通称"アルゼンチンババア"によって奇妙な運命を辿る、母を失った娘と父のドラマを描いた、よしもとばななの同名小説を映画化。

主人公を堀北真希、父を役所広司、そしてアルゼンチンババアを鈴木京香が演じる。

ヘンテコなキャラクターとリアルな人間心理を、少しだけ浮世離れした舞台への移行とともに交錯させ、その柔らかい文体も加味して独特の癒し感を与える、そんなテイストの原作であったが、今回の映画化で、そのテイストを上手く再現、あるいは映画独自の魅力を打ち出せていたか、と聞かれると、かなり厳しい出来になっている。

独特の"舞台"を再現するために、牧場の草原を借りて実物大の屋敷を建ててしまう事で、草原の地面に立った人間視点による映像として、草原の緑と空の青の二層構造となる、広がりのある空間と、そこにポツンと立つ屋敷、のコントラストを印象的に見せ、屋敷の屋上場面においては、屋上より更に高い俯瞰視点による映像によって、先述の草原と青空の二層がより立体的な広がりを見せ、屋上内のゴチャゴチャした混沌とのギャップを際立たせる効果となっている。

終盤の海の場面なども含め、実景を活かして魅せる映像を作る工夫は、そこかしこに感じる事が出来るのだが、そこで繰り広げられるお話が面白く見せられない事には無意味だ。

主人公を中心とした、各人物の、表出している感情、言動と、その奥に原動力として込められている心情、それぞれを上手く観客に伝え、場面場面での各人物の言動の意味を受け止めてもらえない事には、ドラマを楽しむ事は出来ない。

いろいろと出来事が起こる中で最も大きな問題として存在し、物語の方向性を定めている"父の逃避"の描写、表現が、あまりに不出来に過ぎる事が、楽しめない最大の理由だろう。

妻の死を認めたくない、というのはわかるにしても、何故母が死ぬ日に限って病院に行かなかったのか、妻が死ぬ事を前もってわかっていたのか、などと、常に首を傾げさせられてしまう、説明、表現不足はいただけない。

実際に死ぬより先に、「妻が死ぬ」という重責からの逃避が表出し、"見舞いに行かない"事を選択した、たまたまそのタイミングで本当に死んでしまい、余計に死後の"逃避"を加速させた、という意味があるのだろうが、そんな事は映画を観ているだけでは全く伝わらない

そうした父の"思い"が、母の死に立ち合う場面での主人公の"思い"と、それを引きずり続ける事との相似形と受け手側に気づかせ、逃避を行っていたのは父だけではなく、娘もまた、"自分の責任"と思い込み続けた感情から逃避した故の様々な行動であった、と、終盤の"和解"を感動に結びつける、大きな流れを構成していたはずが、全く表現されていないのだ。

だから、単に情けない父親の情けない行動に振り回される可哀相な少女の話、としか見えず、そんなストレスの溜まる不快な話を見せられても、観客はイライラするばかりで少しも楽しくないし、終盤の和解にも何ら納得がいかないのだ。

この様に、全てのキャラクターの描写、彫り込みが甘く、ただ上辺の言動をなぞっているに過ぎないので、場面ごとのつながりも希薄となり、物語としてのまとまりさえも感じられない結果となっている。

それは例えば、主人公と見習いマッサージ師(ココリコ田中)にまつわるドラマにしても同様で、母が死んで父も消えて、一人で全てを背負って倒れそうになった主人公に対し、ただ一人"癒し"の手を差し伸べたのがマッサージ師であり、それによって主人公の数少ない拠り所となるが、それすらも裏切られてしまい、どんどん自暴自棄へ陥ってしまう、という意味があるのだが、これが映画を観ているだけでは非常にわかりにくい

そして、物語の流れを左右する重要人物、タイトルにさえなっている"アルゼンチンババア"に関する問題点が、その"わからなさ"を更に増幅しており、観客のシラケ、ツッコミを誘ってしまっている。

ゴミ屋敷に住む醜悪なキチガイババアに父を奪われた事が、主人公や周囲の人間に大きなショックを与え、でもそんなババアが実は、"癒し"の存在たり得ていたのだ、というギャップこそが大きなポイントとなるべきなのに、まずゴミ屋敷が外見も内側もあまり汚くないので、「クサい」と台詞で言われても実感として伝わらない。むしろネコがいっぱいいて住みたくなるくらいだ。

屋敷だけでなくババア本人もまた、普段の美人女優の鈴木京香と変わらない、不潔感が全く感じられない外見と、特におかしくもない言動では、何ら強烈なインパクトを与えないのだ。これではそもそも話が成立しない

堀北真希に関しては、泣き、怒り、拗ねる、様々な表情で的確に感情を表し、また、執拗にパン作りにこだわったり、自転車やバイク関連の"コケ"など、コミカルながらも情念を見せるなどして、薄幸の美少女をよく演じており、ファンならずとも、その魅力を発見できるだろう。最初に述べた映像的な面と、彼女の魅力だけは、数少ない評価点として挙げる事は出来る。

というわけで、堀北真希ファンなら必見だが、それ以外には、原作ファンも含めてオススメは出来ない。作品に興味がある人は、レンタルまで待った方がいいかと。



tsubuanco at 15:48│Comments(0)TrackBack(11)clip!映画 

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