2007年03月09日

叫 85点(100点満点中)

そして、砂は音にも弱い!
公式サイト

幽霊、呪いなどホラーの題材を扱い、ホラーの手法を用いながら、明らかにホラーではない独自のサイコ作品を作り続ける、黒沢清の最新作。

これまでの黒沢清作品でも、シチュエーションや映像手法など、ある程度の共通項がところどころに見受けられ、それが特徴、魅力のひとつにもなっていたのだが、今回は特に評価の高い『CURE』『回路』を中心とした、セルフリメイク的な狙いで作られている、と感じられる部分が多々見られる。

海水に顔を浸けられて溺死させられる殺人事件が発生、それを追う刑事(役所広司)を主人公とし、多発する同様事件の謎と、彼自身の"思い出せない記憶"、謎の赤い服の女など、様々な事象によって、カオスと狂気の黒沢清ワールドが暴走する。

一見して刑事ミステリー様の体裁をまとっているあたりは、これはホラー全般においてもある種の定番ではあるが、黒沢清作品においては『CURE』が浮かぶだろう。本作の全体的な構図、流れはこの『CURE』を踏襲している、と見受けられる部分も多い。

また、いくつかの印象的な表現手法、シチュエーションにおいて、『回路』を彷彿させる(悪く言えば"焼き直し"か)場面、映像も散見され、ファンならニヤリとするだろう。

例えば、葉月里緒菜演じる幽霊が、主人公に向けてゆっくりと歩いてくる、この状況、映像手法は、『回路』において、最初にハッキリと登場する女の幽霊がゆっくり歩いてくる場面と近似した動き、撮り方である。

『回路』の場合は、歩いてくる途中で一瞬体勢が奇妙に歪み、その動作が異様な恐さを出していたのに対し、今回はその"歪み"がなく、ただまっすぐに歩いてくるだけという違いはあるが、無表情な幽霊が近づいてくる恐怖を表す手法として、『木霊』などでも似た動きが使われており、ある意味で黒沢清の"お気に入り"なのだろうか。

ワンカットで"投身"を見せる映像もまた『回路』との共通項だ。『回路』の場合は、地面にいる人間視点で、見上げた高所から地面に落ちるまでを上から下へカメラを振るワンカットで見せていたが、今回は逆に、屋上より更に高い俯瞰視点から、地面に落ちるまでを上から下へカメラを振って見せている。

作品世界内の幽霊の概念を講釈台詞として簡潔に説明する、オダギリジョー演じる饒舌なタメ口カウンセラーは、『回路』における、いきなり現われて幽霊の講釈を始める武田真治と共通の、意図的に"浮いた存在"として設定されたキャラクターであろう。

"無人の街を歩く主人公"というシチュエーションも、これまた『回路』あるいは『アカルイミライ』などと共通する、「黒沢清はよっぽど世界を滅ぼしたいらしい」と思わせる、お馴染みのシチュエーションだが、色調を変えて"異変"を強調していた『回路』などと比べると、今回はかなりフラットに見せられ、狭い世界で起こっていたはずの物語が、急速にその規模を増大する、そのギャップを敢えて感じさせないようにしているのだろうか、とも思わされる。

そうして、単に「ああ、同じ事をしてるな」とファンに気づかせるだけでなく、事象は同じながら視点を変える事でまた新たな驚きを見せる、ひとひねり工夫された"リメイク"が面白い。

上述の飛び降り場面などもそうだが、手前、中央、奥、背景と、常に立体的な空間配置を特段に意識し、それに動きを加える事で、更なる"世界の一部"を表現する、計算され尽くした映像を見る楽しみはかなり多い。

手前に役所広司のアップを配し、背後から"ムンクの叫び"を模した表情を固定し、叫びながら手前へ近寄ってくる葉月里緒菜、のカットでは、意図的に葉月のフォーカスをボカし、"ムンクの叫び"をハッキリとは見せない事で、絵画と実写の境界線を曖昧にして違和感をなくすとともに、"わからないもの"としての表現も兼ね、距離とともに変化するボケ具合と、音響演出とも相乗してショックを増大する、その時には背景に何も映さず暗闇とし、映っている二者のみに視点を集中させる。この撮り方、見せ方は白眉だ。

他にも、"鏡"を使った一連の映像的仕掛けなどは、あまり考えずに観ていたとしても、その意図、狙いは掴める部分だろう。

無駄に広い取調室での、容疑者が"見えないもの"を見て怯える、長回しカットにおいて、背後の壁の大きな鏡を、わざとらしく観客が気になる様に映して、"見えないもの"が鏡には映っているのではと凝視させ、シーンの緊張感と不条理感を盛り上げながら、その時は最後まで何も映らない、とスカしておく。その後のシーンでは、主人公が部屋をウロウロする様を、左右にカメラを振って部屋の全景を見せ、途中で鏡を見切れさせる事で、また何かを期待させ、一度フレームアウトした鏡が再び画面に映ると、案の定"何か"が映っている。

こうして、"映る"時と"映らない"時を使い分け、観客の意識をコントロールする、この順番やタイミングの構成も、上手く考えられている。

ファーストシーンの事件場面と、主人公がフラッシュバックする記憶の"見た目の違い"など、「あれ?何で違うの?」と観客に疑問を抱かせ、後に辻褄を合わす。こうしたミスリード伏線とその収束なども興味を引っ張る効果をあげている。ところどころ反則的な飛躍もあるが、それもまた黒沢清作品の魅力なので、大いに突っ込んでやればいいだろう。

黒沢清作品に期待される、いろんな意味でブッ飛んだ"衝撃"の数々も、本作では要所要所にしっかり配置され、最初から最後まで、観ていて飽きる事はない。特に中盤の"飛行"や、終盤の"ダイブイン"などは、観客の予想を裏切りすぎる、文字通りの"衝撃"であり、サイコ映画としての面目を大いに躍如していると言える。

その"ダイブイン"場面は、序盤の"小刻みに波打つ水たまり"が状況的伏線となり、その時は水の中に"重要なもの"があったため、洗面器の水が小刻みに揺れ、水面に"何か"が映った時点で、観客は"水の中"からそれが来るものと思ってしまうから、続く衝撃的な顛末に呆然とする、そのギャップを最大限に高めている。まさに黒沢清のセンスが大爆発である。

意図的に意味を全く説明せず、観客に想像を巡らさせ、何度でも確認したい気持ちにさせられる、そんな仕掛けも方々に用意されている。

例えば、何の説明も伏線もなくいきなり登場しながら、物語のテーマに関わる重要な台詞を述べ、主人公を物理的にも精神的にも"導く"存在となっている、加瀬亮が演じる船頭などにしても、初登場カットにて、船が寄せられる岸辺に"花束"が置かれている事に注視すれば、その後の彼の行動の意味と重ね、更に主人公の恋人(小西真奈美)の顛末なども併せると、彼もまた、"この世のものではない"存在ではないか、とも想像させられるなど、より作品世界を深く楽しむ事が出来るのだ。

本作、そうした黒沢清の計算、狙い、あるいは天然的な魅力が、作品規模は小さいながらも要素的には集約されている、おそろしい傑作サイコ映画である。

決して一般向けではなく、いろんな意味で"観る人を選ぶ"作品であり、"自分がわからないと駄作扱い"する人や、""笑う"事で「自分はハイセンスな人間だ」と主張したがっているが、実際には表層的な面しか見えていない"人が観ても、本作を充分に楽しむ事は難しいだろう。

これまでの黒沢清作品に心を動かされた事のある人なら必見。黒沢清を知らないが興味はある、という人は、どうなろうと楽しんでしまう柔軟な姿勢で臨むか、先に過去作品を観て、自分に合っているか確認してからの鑑賞の方がいいかと。



tsubuanco at 12:00│Comments(3)TrackBack(4)clip!映画 

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ミステリーホラー映画「叫び」を見てきました、怪しいミステリーかと思ったら、かなり
2. 小西真奈美  [ Good!な芸能ブログ集 ]   2007年03月30日 06:13
卒業していったい・・・んだろう?年が明けてから毎週木曜は小西真奈美のドラマがあって仕事もそこそこに帰宅してたそれも先週で最終回を迎えて悲しい思いをしてた(;´Д`)そこに追い討ちをかけるような出来事が!!「小西真奈羀ss
3. 【2007-44】叫(さけび)  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年03月31日 00:03
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この記事へのコメント

1. Posted by おおくぼ   2007年04月20日 04:06
はじめまして

私も黒沢作品は好きです。『CURE』、『回路』、『叫』、どれも素晴らしいです。

黒沢作品は観客の予想を裏切りすぎるから面白いのです。

ところでGWはガンダム・ウイングの略だったんですね。勉強になりました。
2. Posted by つぶあんこ   2007年04月20日 18:31
ですねえ。内容もですけど、映像的にも毎回意表を突きすぎるのが見られて楽しいです。
3. Posted by kimion20002000   2007年11月13日 02:18
いろいろ、文句たれているけど

>、"自分がわからないと駄作扱い"する人

じゃあ、ないちもりですけど・・・(笑)

葉月がこっちに向かってくるとき、右足と右手が、同時に動いていませんでした?(笑)

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