2007年03月16日

秒速5センチメートル 75点(100点満点中)

パーマン2号も遅れるな♪
公式サイト

2000年に一人で製作したCGアニメーション短編『彼女と彼女の猫』を発表し、日本中のインディーズ映画界で一躍話題となり、その後同じく一人で作り上げたSF恋愛アニメ『ほしのこえ』にて一般アニメファンにも知られる存在に。2004年には『雲の向こう、約束の場所』で商業作品デビュー。日本アニメ界で特異な存在感を放つアニメーション作家、新海誠の最新作

主人公・遠野貴樹の小学校から20代前半までの人生を、3話の短編に分けて描く連作形式で、SF的テイストが作品世界の基盤にあった、『ほしのこえ』『雲の〜』とは違い、今回は処女作『彼女と〜』同様、普通の現実世界の普通の人間の普通のドラマを描いた作品となっている。

新海誠の特徴として挙げられるのは、まずビジュアル的な面では、背景美術を重視し、実在、あるいは架空の風景を、リアルなものとして観客に視認させている事だろう。これによって、物語世界への導入を行わせるだけでなく、場面場面における人物の心情、境遇、更には展望の示唆など、様々な要素を観客に想起させる材料となる。

ストーリー的には、平凡な男女の、自分達の力が及ばない理由による別れ、すれ違いを描き、それに拙いながらも抗おうとする主人公の苦悩、哀愁を、先述の映像にプラスして、モノローグを多用した手法で提示している事が特徴として挙げられる。

映像作品においては本来、言葉による説明は可能な限り少なくする方が望ましいとされており、「セリフばかりで説明している」というのは批判材料とされる事が多い。

が、例えば倉本聰などは、敢えて主人公のモノローグを多用する事で、ビジュアルと言葉を同時に、あるいは意図的に時間をずらすなどして提示して、より伝えたいもの、伝えるタイミングを明確とし、観客の理解、感情移入をコントロールする、反則を逆手に取った手法として用い、大きな効果を上げるとともに、作家性として昇華している。

これはもちろん、ダイアローグ作成力の劣る者が同じ事をすれば、単に説明、説教くさいだけの結果に終わってしまうものを、面白い作品として結果を残すだけの実力、センスがあればこそだが。

新海誠もまた、その用法、狙いは同様であり、リアルな共感を生み、その先を連想させる、言葉の選択を心得たモノローグと、それを映像に乗せるタイミングの的確さにより、キャラクターの心情、感情を、素直に感じ取る事が出来るのだ。

前二作では、SF的ギミックを用いる事で、男女の"別れ"の距離感を空間だけでなく時間的なものとして表現し、また、寓話的な体裁とする事で、普遍的な人間の想い、情感をよりわかりやすく伝え、観客は自身の経験と照らしあわせるなどして共感、感情移入し感動する、そうした狙いが果たされていた。

今回は現実世界ながらも、第一話では携帯電話のない時代を舞台とし、当人にはどうする事も出来ない、あまりに大きな不可抗力によって、空間だけでなく時間の隔たりまでもどんどん増大してしまう絶望感と焦燥を描く、そうしたギミックによって、同じ狙いが見せられている。

主人公の"男視点"で語られる、子供時代の青臭い恋心を第一話で描き、続く第二話では、全く別の少女を語り部とし、"女視点"で同じく片想いの恋心が描かれる、そして標題タイトルとなる第三話で、全ての"終わりと始まり"を、ファーストシーンと同じシチュエーションで見せられ、物語世界を収束させる。

この三話構成もまた、年代、舞台を飛躍させ、上述の通り視点をも変える事で、同じ一人の人間の物語ながら、それぞれに全く違う印象となり、それでも尚、根本にあるものは変わらない、よく練られた構成、仕掛けには、意図的に各話の長さをアンバランスに分配している事も含め、観客は狙い住ました通りに感情をコントロールされる事となる。

"宙高く伸び上がるもの"の存在が、前二作同様、変わらず秀逸な"空"の空間表現によって、雲間を飛行する鳥、虚空に消える紙飛行機、打ち上げられた人工衛星ロケットなど、各話の重要な場面において象徴として見せられ、それらに敢えて明確な解答は出さない事で、観客の更なる想像を生ませて感動を盛り上げる一助としている。

第一話のバックに流れ続ける、山崎まさよしの『One more time, One more chance』をアレンジしたBGMには、もの悲しいメロディだけでなく、その有名なサビの歌詞を自然と思い浮かべさせられる事で、より感情を揺さぶられる、有用な効果があがっており、ラストに時間をかけて聴かされるボーカル入りの同曲には、そこまでの流れで感情移入しきっている主人公の心情と、的確に回想的に見せられる断片的な映像と曲とが完全にシンクロし、慟哭にも似た心の声に魂が締めつけられ、涙せざるをえない。わかっていても感動させられる、徹底された仕掛けが憎い。

主人公とヒロインが並んで歩き、ヒロインが小走りに前に出て、前屈み気味で振り向く、前作でも使われていた、おそらく監督お気に入りの萌えシチュエーションなのだろうが、これに類するような"あざとさ"を感じてしまう、やりすぎな演出がところどころにあり、幾分の萎えを感じてしまうのも相変わらず。こうした部分が一般層の拒否反応を生みがちな要因となっているのも事実で、あまりいいとは思えない。

普通の人生、普通の恋愛を普通に送ってきた、普通の大人なら誰にでも思い当たる、こっ恥ずかしい若かりし頃の苦しさ、切なさを素直に共感し、感動出来るであろう本作、主人公達と同世代より、それらを乗り越えて過去の思い出としている大人こそ、その真価を受け入れられるだろう。

これまで新海誠作品に、琴線に触れるものがあった人なら当然必見。知らないが興味のある人でも、決して観て損したとは思わないだろう。機会があれば是非。

ただ、リアルで別れた直後には観ない方がいいかと。



tsubuanco at 17:40│Comments(2)TrackBack(12)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ジョー   2007年05月03日 09:16
秒速のTB返しありがとうございます。
パーマンも秒速5センチメートルだったんでしたっけ?
秒速5センチってことは、時速180メートル、え、パーマンてそんなに遅いの?
2. Posted by つぶあんこ   2007年05月05日 18:17
旧「時速は91キロだい!」
新「時速119キロも、スピード違反じゃないよ」

だそうです。

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