2007年04月10日

大帝の剣 70点(100点満点中)

さよなら、カイザーナックル!!
公式サイト

SF小説誌『野生時代』に80年代後半から連載されていたが雑誌の廃刊とともに一時中断状態が続き、今回の映画化がきっかけで連載が再開され現在も継続中の、夢枕獏による同タイトルの伝奇SF風時代劇活劇小説が原作。キャラクターのコンセプトデザインを、原作者とは縁の深い天野喜孝が行っている事も注目点か。

島原の乱が治められた少し後の、徳川三代将軍・家光の時代、太古の昔に地球に落ちた隕石・オリハルコンによって作られた"大帝の剣"を始めとする三種の神器を巡って、徳川家と豊臣家の攻防が絡み激化するストーリー。

黒人の血をひく主人公・源九郎(阿部寛)、豊臣家の血を受け継ぐただ一人の娘・舞(長谷川京子)、なぜか生きていた真田幸村(津川雅彦)や天草四郎(黒木メイサ)に猿飛佐助(宮藤官九郎)、超常的な忍術を使う伊賀忍群、オリハルコンを求めて飛来する善と悪の宇宙人、と、夢枕獏らしい、ルール無用の何でもありなキャラクター達が、監督を務める堤幸彦によって世界丸ごと殊更に拡大解釈され、まさに単純に何も考えずにバカバカしく楽しめる、痛快娯楽活劇に仕上がっている。

作風が原作と違うのは大前提として、一部キャラクターもまた整理、変更されている。特に目立つのが、宮藤官九郎演じる佐助で、原作における申と才蔵の二人の忍者を合成し、そこに宮藤官九郎の持つ地のキャラクターがプラスされたオリジナルキャラクターとして再構築されている。

俳優の地を活かすという意味では、主演の阿部寛は言うまでもなく"いつもの堤作品の阿部寛"だし、他にも津川雅彦、竹内力、遠藤憲一、杉本彩、大倉孝二など全員が全員、観客がそれぞれに対し抱いているキャラクターを裏切らない演技を見せ、安定した面白さとしているのも、堤幸彦の得意とするところであり、狙い通りだろう。

船木誠勝演じる首領が率いる野盗団に捕われた町娘(前田愛)を救出する、冒頭のくだりにおいて、主人公の滅法な強さ性格のいい加減さと、キーアイテムである"大帝の剣"の特殊性をハッキリわかりやすく説明すると同時に、主人公、町娘、首領によるドツキ漫才風のテンポのいいコミカルな掛け合いによって、作品の方向性がいつもの堤作品と変わらない事も理解させておき、更に直後の宇宙船の映像によって、無意味なスケールの大きさと荒唐無稽さを強調して、作品世界の有りようをも視覚的に端的に提示。

この序盤の流れによって、観客がどういった姿勢で作品を楽しめばいいのかを明確に定め、作り手の狙いに乗りやすい空気を作る。このやり方は相変わらず上手い。

恋愛や家族愛、友情、悲劇、成長など、エモーショナルでウェットな展開を途中に挟む事で、持続していたテンションと盛り上がっていた流れが断ち切られ、逆に娯楽性をスポイルしてグダグダになってしまう場合が多いこの種の邦画とは異なり、その荒唐無稽でハイテンションな方向性が最初から最期まで一貫されている事もまた、大きな評価点だろう。

主人公の少年時代が、いくら黒人の血をひいているとは言え、どう見てもコレが成長して阿部寛になるとは思えない黒人そのまんますぎなのは、明らかに突っ込んで笑うところだろうし、大倉孝二の"ズッコケ"が、いちいちクドい程に繰り返され続ける事で、最初は寒かったのが徐々に面白くなってきてしまうあたりも、狙い済まされた計算と思って間違いない。

遠藤憲一や竹内力が、ほとんど素顔を見せずに怪物の特殊メイクで出続けるのもまた、俳優のキャラクター性をパロディ的に面白く見せる狙いがあるのだろう。そして実際に面白い。

観終わった後にはな〜んにも残らないが、観ている間はバカバカしい世界のバカバカしいキャラクターのバカバカしい顛末を「くっだらねー」とバカバカしく楽しめる、娯楽性の高さが確率されている。

作り物や特殊メイク、CGや合成のエフェクトなども、邦画レベルでは標準を上回る出来で、軽い作風も手伝って、粗が気になる事はないだろう。

コミカルでライトな作りながらも、時代劇であり活劇である事を決して忘れず、刀で斬り合うチャンバラシーンでは、斬られたところからいちいち血が吹き出る、細かい配慮がなされており、後半の大乱戦シーンにおいて、どんなに引いた画でも逐一CG合成で血を描き入れている、そのこだわりが特に目立って効果を上げ、戦いの激しさを強調する役割となっている事も特筆すべきだろう。

その様に、ひたすら娯楽に徹した作りによって、少なくとも観ている間は全くダレる事も飽きる事もなく、最後まで楽しみ続ける事はできるはずだ。

だがその一方、勢い優先のあまり、おなざりにされている部分も多々ある事も確かだ。

ストーリーがかなりいい加減で行き当たりばったりにすぎ、テンションとは逆に一貫性がなさ過ぎて矛盾や投げっぱなしが満載なのは、いくら細かい所は気にするなと言われても、限度を超えている

天草四郎はどうして何のために出て来たのか、結局よくわからないどころか、天草四郎である必然性すらないし、終盤の源九郎の"復活"も適当すぎる。この"復活"に関しては、観客全員が死なない事をわかっていただろうし、多くの観客が、"傷口から侵入し治癒する宇宙人の能力"や、"傷口から毒を吸い出した"場面などが伏線となっていて、ここに来て劇的に活かされるものだ、と予想していたにも関わらず、"ヒロインの涙が傷口に落ちる"なる、(狙いだろうが)古典的表現があった後は何の説明も描写もなく復活しているのは、乱暴すぎて醒めてしまう。

また、ゆったりとした語り口のナレーションを挿入する事で、"むかしばなし"的な空気を出すとともに"何でもあり"な世界を強引に観客に納得させようとしているが、使いどころのバランスが悪いせいで、クドさ、しつこさを感じてしまいがちとなり、逆に現実に引き戻されてしまい、効果的とは思えない。

映像的な面でも、これは堤幸彦のいつもの問題点であるが、いわゆるマンガ的な演出を好んで用いる割に、それが映像作りには反映されておらず、ケレン味や面白味に欠ける画ばかりとなっており、これは特撮活劇としてはマイナスにしかなっていない。

主人公が長い長い"大帝の剣"を構えるいくつかのカットにおいて、不自然にバランスの悪い構図に後から剣が入る事でやっと完成された構図になるという風に、最初から画角を固定して撮っているのは明らかな手抜きでしかなく、素人が撮っているのかと思わされる程だし、最後のボスキャラとの一騎打ちでも、工夫のない真横からの平板なカットを"基本画"とし、随所にアップを挟んでいるに至っては、何十年前の子供番組だと言いたくなってしまう。中盤の橋上での戦いにしても、風呂場での戦いにしても、カッコ良さ、激しさを強調しようとする狙いが感じられないのだ。

が、そうした問題点を差し引いても、楽しんで観ていられる事は確かで、最近の似た傾向の作品として『どろろ』あたりと比較しても、圧倒的にこちらの方が面白いと断言する。

堤幸彦作品や出演者のファンであれば間違いなく必見。特撮アクションものが好きな人も絶対に要チェックではある。原作至上主義者以外なら、「観て損した」と思う事はないだろう。機会があれば是非。



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この記事へのコメント

1. Posted by 咲太郎   2007年04月21日 23:58
おそらくこれから幾星霜

ほーんと観た後にはな〜んにも残らないけれど、バカで楽しい快作でしたね。

堤作品の阿部ちゃんは最高ですね。
観ていてほーんと気持ちいいです。

「どろろ」より先にこの映画を観ていたら、「どろろ」観ながら
あらららら〜
が止まらなかったことでしょう。
2. Posted by つぶあんこ   2007年04月24日 22:07
でも客はどろろが圧倒的に入ってるんですよね。悲しい事に。

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