2007年04月08日
ブラックブック 95点(100点満点中)
わかってないのよッ わたしにはもう耐える屈辱さえ残されてないことが!
公式サイト
『氷の微笑』『スターシップ・トルーパーズ』など、SFからサスペンスまで、直接的にインパクトの強い映像と、ハリウッド的公式に倣って娯楽性の高い作品に仕上げながらも、その奥に底意地の悪さを決して忘れないストーリーやキャラクターを構築し、独自の存在感を放つ鬼才、ポール・バーホーベン監督の最新作。
今回はハリウッドを離れ、監督の故郷オランダにて製作された本作。これまでのハリウッドメジャー作とは一味違い、より作家性と主張が強調された作品となっている。
第二次大戦中、終戦間近いドイツ占領下のオランダを舞台に、主人公であるユダヤ人女性、ラヘル=エリス(カリス・ファン・ハウテン)が辿る、あまりに壮絶すぎる波乱の運命を主軸としたドラマが展開する。
ナチスによる侵略とユダヤ人迫害、侵略に立ち向かうオランダ人レジスタンス、全てを失いレジスタンスに身を投じるも、更に失い続けていく主人公と、重い社会派の題材をメインとしている事が、ハリウッド外で製作した意味が一番大きく反映される部分だろう。
主人公は悪逆非道なナチスへの復讐を誓い工作員となるが、接近したナチス幹部が"いい人"だったために苦悩する。昨日まで"被害者"だったはずの一般人が、戦勝で一転して敗者を迫害する"加害者"となり果てる。誰一人、主人公さえも、"確固たる正しさ"など存在しない世界が展開されていく。
『アンネの日記』で有名なアンネ・フランクが、あるオランダ人の裏切りによって死の運命を辿ったなどの、様々な史実を踏まえ、オランダ人である監督がオランダで製作したフィクション映画ながら、戦時下において殊更に露呈する人間の業を、善と悪、被害者と加害者などの相反する構図を二元論とせず、全編通してアイロニカルなやり口によって見せつけ、一面的ではない人間の奥深さ、特に醜悪な面を強調する。
これもまた、ナチスとユダヤ人という、ハリウッドでは徹底した描写がし辛いデリケートな題材なだけに、上述の通りハリウッド外で製作した事がよく効果となっているのは間違いない。にしても、オランダでオランダ人のマイナス面をも見せつけるに至っては、さすが"皮肉屋"バーホーベンと感心するほかない。
そうした、社会派、(いい意味だけではない)ヒューマニズムを材料とした上で、誰が味方で誰が裏切者なのか、などのサスペンス、ミステリードラマとしてのギミックをストーリーに織り込み、その伏線のバラ撒きと回収が、かなりわかりやすく、丁寧に行われている。
基本的に主人公視点で物語が進められるため、主人公の知っている事と知らない事を上手に配置し、謎に対する興味を引っ張り続けられるとともに、観客が主人公と一体化して悲劇の連続を体感し、感情を狙い通りに操作される事となる。
この点においては、ハリウッド映画にて培った、娯楽として見せる映画の方法論が確固として用いられ、観客の興味やテンションを最後まで持続させ、二時間半近い長尺を飽きさせない様になされている。
例えば、チョコレートを何度も印象的に登場させ、これを当時の世相を象徴的に表現するギミックとしても用いることで、殊更に思わせぶりな、伏線然とした見せ方とはせず、その上でインシュリンに関する会話も早い段階で見せておいて、終盤のピンチと脱出の伏線としていたり、主人公が病死体に偽装して検問を突破する顛末を序盤に出して、終盤の展開の意味を説明無しに理解させる前フリとなっているなど、何重にも巡らされた仕掛けは、わかり易すぎる嫌いもあるにせよ、良くしたものと言える。
相反しがちな両者を見事に両立させているバランスの取りようは秀逸で、これもまた、ハリウッド映画界において、様々な干渉を受けながらも自分の主張を出来る限り通そうと努力し続けた、バーホーベン監督の経験が活きているのだろう。
サスペンス要素とともにバーホーベン作品に期待される、観客に圧倒的なインパクトを与えて目を釘付けにする、エロとグロとバイオレンスの直接的描写の過激さもまた、主人公とその周囲を襲う無間地獄の模様が、これまでと変わらないどころか質量ともに更なる過激な映像として連続し、期待に応える視覚的な娯楽要素となるだけでなく、社会派のテーマや主張、人間構図にも更なる説得力を与え、有無を言わせず観客の感情を煽る、相乗効果が大成功している。
ファーストシーンを1956年、第二次中東戦争中のイスラエルはキブツにおいて、大戦中にオランダで知り合った旧友と主人公が再会する場面から始め、そこから主人公の回想として過去の苦難を見せていく事で、主人公は大戦中に死ぬ事は無い(その旧友も)と提示して、一先ずの安心感を観客に与えておくと見せかけつつ、実は更なる狙いがこの構成にあった、と最後の最後で気づかせ、回想形式で描きながらも単純なハッピーエンドとはせず、"人間の業に終わりは無い"と突き放す、バーホーベンならではのアイロニーが、全体的な構成にまで徹底して仕掛けられているのが小憎い。
梶原一騎のSMバイオレンス劇画、『カラテ地獄変』シリーズにも似た手法による社会派の皮をかぶった過激な娯楽作品として、これまでのバーホーベン作品から更にレベルアップした、ひとつの頂点と呼んで差し支えない傑作と断言する。
バーホーベン作品の過激な表現が肌に合わない人以外なら、絶対に観て損したとは思わないはず。興味があるなら是非とも。
蛇足:
主演のカリス・ファン・ハウテン、とても30代には見えない、全く文句のつけようが無い絵画のごとき超美女ぶりには感嘆する事しきりで、一切を惜しまない文字通り体当たりの演技は素晴らしいの一言だが、胸が天衣みつと同タイプの整形丸出し乳なのが残念。人目を引く箇所なのだから、監督はここにもこだわりを見せてほしかった。
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『氷の微笑』『スターシップ・トルーパーズ』など、SFからサスペンスまで、直接的にインパクトの強い映像と、ハリウッド的公式に倣って娯楽性の高い作品に仕上げながらも、その奥に底意地の悪さを決して忘れないストーリーやキャラクターを構築し、独自の存在感を放つ鬼才、ポール・バーホーベン監督の最新作。
今回はハリウッドを離れ、監督の故郷オランダにて製作された本作。これまでのハリウッドメジャー作とは一味違い、より作家性と主張が強調された作品となっている。
第二次大戦中、終戦間近いドイツ占領下のオランダを舞台に、主人公であるユダヤ人女性、ラヘル=エリス(カリス・ファン・ハウテン)が辿る、あまりに壮絶すぎる波乱の運命を主軸としたドラマが展開する。
ナチスによる侵略とユダヤ人迫害、侵略に立ち向かうオランダ人レジスタンス、全てを失いレジスタンスに身を投じるも、更に失い続けていく主人公と、重い社会派の題材をメインとしている事が、ハリウッド外で製作した意味が一番大きく反映される部分だろう。
主人公は悪逆非道なナチスへの復讐を誓い工作員となるが、接近したナチス幹部が"いい人"だったために苦悩する。昨日まで"被害者"だったはずの一般人が、戦勝で一転して敗者を迫害する"加害者"となり果てる。誰一人、主人公さえも、"確固たる正しさ"など存在しない世界が展開されていく。
『アンネの日記』で有名なアンネ・フランクが、あるオランダ人の裏切りによって死の運命を辿ったなどの、様々な史実を踏まえ、オランダ人である監督がオランダで製作したフィクション映画ながら、戦時下において殊更に露呈する人間の業を、善と悪、被害者と加害者などの相反する構図を二元論とせず、全編通してアイロニカルなやり口によって見せつけ、一面的ではない人間の奥深さ、特に醜悪な面を強調する。
これもまた、ナチスとユダヤ人という、ハリウッドでは徹底した描写がし辛いデリケートな題材なだけに、上述の通りハリウッド外で製作した事がよく効果となっているのは間違いない。にしても、オランダでオランダ人のマイナス面をも見せつけるに至っては、さすが"皮肉屋"バーホーベンと感心するほかない。
そうした、社会派、(いい意味だけではない)ヒューマニズムを材料とした上で、誰が味方で誰が裏切者なのか、などのサスペンス、ミステリードラマとしてのギミックをストーリーに織り込み、その伏線のバラ撒きと回収が、かなりわかりやすく、丁寧に行われている。
基本的に主人公視点で物語が進められるため、主人公の知っている事と知らない事を上手に配置し、謎に対する興味を引っ張り続けられるとともに、観客が主人公と一体化して悲劇の連続を体感し、感情を狙い通りに操作される事となる。
この点においては、ハリウッド映画にて培った、娯楽として見せる映画の方法論が確固として用いられ、観客の興味やテンションを最後まで持続させ、二時間半近い長尺を飽きさせない様になされている。
例えば、チョコレートを何度も印象的に登場させ、これを当時の世相を象徴的に表現するギミックとしても用いることで、殊更に思わせぶりな、伏線然とした見せ方とはせず、その上でインシュリンに関する会話も早い段階で見せておいて、終盤のピンチと脱出の伏線としていたり、主人公が病死体に偽装して検問を突破する顛末を序盤に出して、終盤の展開の意味を説明無しに理解させる前フリとなっているなど、何重にも巡らされた仕掛けは、わかり易すぎる嫌いもあるにせよ、良くしたものと言える。
相反しがちな両者を見事に両立させているバランスの取りようは秀逸で、これもまた、ハリウッド映画界において、様々な干渉を受けながらも自分の主張を出来る限り通そうと努力し続けた、バーホーベン監督の経験が活きているのだろう。
サスペンス要素とともにバーホーベン作品に期待される、観客に圧倒的なインパクトを与えて目を釘付けにする、エロとグロとバイオレンスの直接的描写の過激さもまた、主人公とその周囲を襲う無間地獄の模様が、これまでと変わらないどころか質量ともに更なる過激な映像として連続し、期待に応える視覚的な娯楽要素となるだけでなく、社会派のテーマや主張、人間構図にも更なる説得力を与え、有無を言わせず観客の感情を煽る、相乗効果が大成功している。
ファーストシーンを1956年、第二次中東戦争中のイスラエルはキブツにおいて、大戦中にオランダで知り合った旧友と主人公が再会する場面から始め、そこから主人公の回想として過去の苦難を見せていく事で、主人公は大戦中に死ぬ事は無い(その旧友も)と提示して、一先ずの安心感を観客に与えておくと見せかけつつ、実は更なる狙いがこの構成にあった、と最後の最後で気づかせ、回想形式で描きながらも単純なハッピーエンドとはせず、"人間の業に終わりは無い"と突き放す、バーホーベンならではのアイロニーが、全体的な構成にまで徹底して仕掛けられているのが小憎い。
梶原一騎のSMバイオレンス劇画、『カラテ地獄変』シリーズにも似た手法による社会派の皮をかぶった過激な娯楽作品として、これまでのバーホーベン作品から更にレベルアップした、ひとつの頂点と呼んで差し支えない傑作と断言する。
バーホーベン作品の過激な表現が肌に合わない人以外なら、絶対に観て損したとは思わないはず。興味があるなら是非とも。
蛇足:
主演のカリス・ファン・ハウテン、とても30代には見えない、全く文句のつけようが無い絵画のごとき超美女ぶりには感嘆する事しきりで、一切を惜しまない文字通り体当たりの演技は素晴らしいの一言だが、胸が天衣みつと同タイプの整形丸出し乳なのが残念。人目を引く箇所なのだから、監督はここにもこだわりを見せてほしかった。
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昨日24日から公開のバーホーベン監督最新作『ブラックブック』をごらんいただいた感想や
あなたの熱きバーホーベン監督への想いなどなどを
ぜひ'''あなた...
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3月27日(火)
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11. ≪ブラックブック≫(WOWOW@2008/01/14@025) [ ミーガと映画と… -Have a good movie- ] 2008年02月20日 16:49
ブラックブック
詳細@yahoo映画
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12. ブラックブック [ 映画、言いたい放題! ] 2008年04月06日 23:43
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DVDで観賞。
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ポール・ヴ...
この記事へのコメント
1. Posted by にしやん 2007年04月12日 03:02
出ました95点!
ヤフーのレビューには「1食抜いても観る価値あり」とも。
しかし、私の近所の映画館では上映していないのでありました(T T)。
「蛇足」がほんとに蛇足なので笑いました。しかもちゃんとリンクまで貼ってあるし。仕事が細かいですね。
ヤフーのレビューには「1食抜いても観る価値あり」とも。
しかし、私の近所の映画館では上映していないのでありました(T T)。
「蛇足」がほんとに蛇足なので笑いました。しかもちゃんとリンクまで貼ってあるし。仕事が細かいですね。
2. Posted by つぶあんこ 2007年04月12日 17:40
そのヤフーレビュー風に言うなら、「浮いた食費を交通費に充てて、遠出してでも観る価値あり」と、個人的には思います。


まで。