2007年04月22日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ歌うケツだけ爆弾! 60点(100点満点中)

「ちんすこう」「ちんすこう」「ちんすこう」
公式サイト

臼井儀人の青年誌漫画を原作とし、子供層を中心に老若男女幅広い人気を持つ、TVアニメシリーズ『クレヨンしんちゃん』の劇場版15作目。

宇宙を飛行中のケツだけ星人の宇宙船から発射された、惑星を破壊する威力を持った爆弾の一つが地球へと飛来し、野原家の沖縄旅行に連れてこられた飼い犬・シロの下半身にくっついて離れなくなってしまう。その爆弾を処理しようとする、宇宙からの侵入物対策組織・ウンツィと、爆弾を奪って世界征服を目論む集団・ひなげし歌劇団との争奪戦に、シロと野原家が巻き込まれていく、というストーリー。

前作、『嵐を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』では、侵略SFホラー映画の手法を用いて怪奇色を強め、子供達のトラウマとなっていたが、今回は特にシロとしんのすけに焦点を当てた、野原家の家族愛をメインとして扱う、シリーズでは定番の方向性をとっている。

"おねいさん"絡みのしんのすけの定番ギャグを、シロの視点を多用して描く序盤の沖縄シーンは普通に面白く、子供を連れて来ただけで興味のない親でも楽しく観ていられるはずで、掴みとしては及第点か。

その後、二つの組織が登場してからの、中盤までのドタバタの追跡・逃走劇もまた、よく動いて飽きさせない作画と、サクサク次に進むテンポのいい展開によって、ある程度の流れは先読み出来ながらも、具体的にどうなっていくのか、と興味を持続させるだけの用意はなされている。

ただ、歌劇団の存在に関しては、結局のところ歌劇団である必然性が特にない事も手伝って、前作のサンバ同様、歌劇団が見せる"レビュー"の描写がクドいかとも思わされる点もあり、この手のミュージカル的な演出が苦手な観客にとっては、少なからずマイナス点との認識を与えがちとなる。

沖縄場面で見せられる、野原家のミュージカル演出も同様で、これは家族愛で泣かせる後半への前フリと、すぐ後に登場する歌劇団への前フリと、二つの狙いがある事はわかるのだが、やはり冗長気味でミュージカル調である意味も結局ない。そもそも沖縄に行く必然性もないのだ。

ウンツィ長官の側近である二人の大男も、何かやりそうな風貌で期待させつつも結局中途半端なままで、キャラクターとしての魅力も存在感もないのは勿体ない。特にゴリラ顔の方は、シロやしんのすけに同情的な言動をいくつかとっていただけに、組織と私情の葛藤などをちゃんと描けば、ドラマに深みが出たのではないだろうか。

その側近や歌劇団の三人娘も、何より元凶であるケツだけ星人そのものも、思わせぶり、個性的っぽいキャラクターを沢山出しておきながら、結局特に何もないままで、二つの組織間の争いすらうやむやなままに終わってしまい、せっかく盛り上がったストーリーもテンションも、盛り下がっていく一方なのが苦しい。

おそらくは"テロに走る宗教団体"を戯画的に表現したのであろう歌劇団も、お役所的な融通の利かなさと、エリートの歪んだ正義が傲慢に変遷する様を意図しているであろうウンツィも、そうした、絶対的な正義も悪も存在しない現実の側面を、子供にもそれとなくわかる様にしっかりと描いてみせれば、より物語に多面性を与え、傑作たり得たはずで、歌ってるヒマがあれば出来たはずだ。

こうした、面白くなりそうな設定をストーリーに活かしきれていない散漫さと、前半は盛り上げて興味を引きながら後半に失速してしまう構成などは、ここ数年の劇場版の問題点であり、改善が期待されるところ。

が、今回見せられる"感動シーン"に関しては、大人でも、むしろ大人の方が泣かされてしまうシチュエーションがいくつか用意され、それらの場面場面は確かによく出来ているので、そこにハマってしまえば、上述の問題点も、さほどは気にならなくなってしまうかもしれない。

基本的には"感動・泣かせ"を大きな狙いとしている本作。そうするには、まず本来の作品カラーである、ギャグ、コメディとしての展開を前段階としてしっかり楽しませ、その上でマジメにテーマを語る事でギャップを大きくして感動させる。そうした構成が基本だろう。

その意味では、前半のコメディは安定した面白さが楽しめ、中盤の"別れ"のシーンもまた、ボロボロに疲れ果てて眠りこけるしんのすけを見るシロが、思い出を回想してその決意を固めようとする、お約束的な展開において、最初の回想がちっともいい話ではなくガッカリさせ、続いての回想も同様と、同じギャグを繰り返して笑わせた次に、三度目の正直とばかりに"いい思い出"をストレートに見せ、シロの決意と観客の感動をシンクロさせるなど、作り手の狙い通りに感情をコントロールされる場面もいくつかあり、これらは素直に感動し、評価できる部分である。

三人娘の乗るマシンがアクマイザー3のギャリバードだったり、歌劇団のキャラクターに『千と千尋の神隠し』の"かおなし"を意識した描写を多用したりといったパロディ要素もまた、単発的で物足りない感はあるが、気づいたら笑っておけばいいだろう。

全体的な完成度としては良くしたものとは言えないが、感動、泣かせのポイントは押さえられているため、そちらの期待は裏切られないはず。興味があれば観て損したとは思わないだろう。機会があれば。



tsubuanco at 17:55│Comments(0)TrackBack(2)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 【2007-55】映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年04月24日 22:38
4 野原一家、最大の危機は 地球最大の危機でもあった・・・ シロが爆発10秒前! 65億人対ひとりと一匹 地球がぶっとぶ大爆発!! 止められるのは、このおバカ! 『シロはオラがお守りするゾ!』
2. 映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ歌うケツだけ爆弾!  [ 現代視覚文化研究会「げんしけん」 ]   2007年04月30日 11:04
 劇場版『クレヨンしんちゃん』も15周年ですか、実にめでたいです!今作は【野原 シロ】が主役です。監督は【ムトウユージ】氏。演出もなかなか良かったと思います。あまり内容には触れませんが、【しんちゃん】と一緒に逃げて、走り疲れてしまい、【シロ】を狙う敵に囲...

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments