2007年04月23日

神童 40点(100点満点中)

マツケン小唄
公式サイト

漫画アクションに連載された、さそうあきらの同名漫画を実写映画化。

音大を目指す浪人生・ワオ(松山ケンイチ)と天才少女・うた(成海璃子)の、年齢も境遇も才能も全く異なる二人のピアニストの出会いと交流、成長を描いた作品。

原作は単行本にして全四巻(文庫は三巻)と、さほど長くはないが、それでも二時間程度の映画に収めるには、エピソードやキャラクターを整理して再構成する必要があり、実際にかなりの省略、改変が行われている本作。その取捨選択のバランスと表現が、特に後半部はかなり悪い様に感じられる。

また、台詞による説明を極力排して表現を重ね観客に伝える方向性がとられているのは、これは監督の萩生田宏治の特徴でもあるが、言葉による説明に匹敵するだけの情報量を、映像や演技、演出として表現しきれていない事もあって、先述の省略改変と併せ、物語の焦点が常にブレている印象となって残ってしまう。

映画の尺に収めるならば、もっと主人公二人それぞれの葛藤や成長と、それに伴う二人の関係の変遷に主軸を集中し、作品として筋の通ったまとまりを与えるべきだ。

ところが現状では、うた側の描写で言えば、例えば、序盤の小学生に虐められている場面は、その後の展開に何の影響も与えない不要なもので、その場面単体でも、特段の情報は含まれていない。ヌイグルミを大切にしている、という説明にしても、最初のボートの場面と重複してクドさを感じ、イジメや孤立、気丈さを見せるにしても学校の場面と重複している。他にも、何故中学生なのに小学生を相手にしているのか、など、全てがあまりに不自然な描写には、言葉が無くとも"説明"のために用意されている事がありありと目に見え、あまり上手いとは言えない。

耳に関する一連の流れにしても同じく、台詞を使わないあまりに逆に演技、演出のクドさが目立ち、遂には"本に書かれている文字"や"無駄な筆談"まで登場する始末。これでは台詞で言っているのと同じだ。

こうした、"言葉で説明しない"事にこだわるあまり、逆に説明臭くなったり、描写が足りないために情報が伝わらない、そうした展開が続出するハメになるのだ。

メインとなる二人の関係変遷において見せられる、"恋愛感情"に関する描写もまた、同様に中途半端に過ぎる。例えば、前半の壮行会の場面にて、昔の女に固執するワオを見て、つい嫉妬の感情を露呈してしまううた、という展開は、ワオに対する感情と、ピアノに対する想いがそれぞれ屈折したかたちで見せられる場面として効果的だが、そこに至るまでの、うたのワオに対する感情描写が見当たらないため、原作を知っているか、あるいは「どうせ好きなんだろ」と定番展開を勝手に予想してでもいない限り、この場面のうたの言動は少し唐突である。

その後の進展にしても、エピソードの流れがブツ切りでダイジェスト的なため、感情変化の繋がりが持続せず、場面場面で取ってつけた様な印象となってしまう。

ワオ側の当て馬キャラ・香音(貫地谷しほり)にしても、原作ではスランプ状態のワオを復帰させる転機となると同時にうたの恋のライバルとして、ワオの"逃げ場"として存在する、意味のある存在だったが、映画ではあまりに出番が少なく描写も不足しているので、そうした役割の存在として感じられず、ただ単に出ているだけである。ワオとうたの関係をどの程度知って理解しているのか、といった、最低限の事すら描かれていない。うた側の同位置キャラである男子生徒も同様。

例えば、音大の片隅に捨てられたピアノをうたが演奏する場面の様な、香音、うた、ワオの三者が一同に会する数少ないシチュエーションをもっと有効的に利用して、うたが香音に抱く感情、香音がうたに抱く感情をそれぞれ対称、あるいは相似形として描写し、後の展開に繋げる、などすれば、より効果的に人間関係を活かしたドラマ展開が出来たはずだ。

それを、うたが教室を覗き見て、イチャついているカップルに嫉妬する場面と、香音が教師に「ちょっと寝たくらいで男を信用するな」と言われる場面、それぞれ別個の場所でワオに対し抱いている思いを露呈させる程度の描写しかないのは、明らかに情報が足らずしかもコマ切れである。

特に香音の方は、一番肝心なところを台詞のみで言ってしまっており、これでは台詞に頼らないはずのこだわりも台無しだ。行為がまだなのか、済んでいるのかを、ワオと香音の二人が廊下を歩いていたら、ピアノの音が聞こえてワオが走り出す、先述の三者対面場面の前段階にて、歩いている二人の演技、演出によって、ちょっとした距離感の表現で観客に伝えるといった事くらいは可能だったはずだ。

こうした不足は、情報を伝える表現センスや描写力が作り手の思惑に追いついていないだけの状態であり、"想像の余地を与える"とか"余韻を残す"といった、高いセンスや技術および理解が要求される手法とは異なるものだ。本作の場合は、それらの言葉は伝わらなかった事の責任を受け手側に押しつけて逃げる、相手を貶めて自分の立ち位置を守るための言い訳にしかならない。本作、現実的・物理的な事象は全て伝わるだけの仕事がなされているが、行間を伝えるには力不足に感じる。

ラストカット、ピアノを弾く二人をロングの俯瞰で見せるショットにて、背後の扉が開いて光が漏れ入っている事で、手が画面に現われた瞬間は現実かそうでないのか曖昧だったワオの存在と現在の状況が、現実のものであるとハッキリ示すと同時に、"後光"的な画面構成によって、ここまでの諸問題が昇華される、そうした狙いである事はわかるのだが、父に対する思い、母に対する思い、ワオに対する思い、自分自身に対する思いが、それぞれ収束して一つとなり感動を与えるはずのこのラストシーンもまた、そこに至るまでのあらゆる不足により、どうともつかない中途半端なものに終わってしまっている。

出演者のファンなら一応要チェクではあるが、例えば『スウィングガールズ』などで貫地谷しほりのファンになった人などは、その肥大ぶり吹替え口パクのズレ具合に呆然とするかもしれない。原作と併せて補完しながら観ればなんとかなるか。自己責任で。


tsubuanco at 16:33│Comments(7)TrackBack(11)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 「神童」映画感想  [ Wilderlandwandar ]   2007年04月26日 20:45
クラシック音楽映画鑑賞キャンペーン中、という訳でもないけど、天才ピアニストと音楽
2. 【2007-58】神童  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年04月26日 22:26
4 「神童」と呼ばれた うた十三歳 落ちこぼれの音大生 ワオ十九歳 恋人でもない 兄妹でもない 音によって 心を通わせるふたり 言葉はいらない 魂が響きあうから 彼女の指先から 奇跡が生まれる やがて世界は 音楽で満たされる 『大丈夫だよ....
3. 「神童」レビュー  [ 映画レビュー トラックバックセンター ]   2007年04月27日 03:56
映画「神童」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:成海璃子、松山ケンイチ、手塚理美、甲本雅裕、串田和美、浅野和之、キムラ緑子、貫地谷しほり、西島秀俊、吉田日出子、柄本明、他 *監督:萩生田宏治 *原作:さそうあきら 感想・評価・批評 等、....
4. 魂の『熱情』(神童が神童を演じる映画)  [ 世界の中心で、愛をうたう ]   2007年05月03日 23:22
現在14歳の成海璃子、そのピュアで透明感のある自然体の演技から、神童という評価を受けている彼女が 正にピアノ界の神童成瀬うたを演じる『神童』を鑑賞(4月26日木曜)。 ? 私はピアノの音が好きだ。 ピアノの伴奏で歌うのが好きだ。 自分の歌に
5. 神童  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2007年05月05日 21:55
428クーポンで1000円で観れたぞ!マツケンがキュートな落ちこぼれを華麗に演じます(過大評価)
6. 「神童」:日本科学未来館前バス停付近の会話  [ 【映画がはねたら、都バスに乗って】 ]   2007年05月06日 08:29
{/kaeru_en4/}日本科学未来館て、宇宙飛行士の毛利衛さんが館長なんだってな。 {/hiyo_en2/}そうそう。ここで科学にふれた子どもたちが未来の日本を背負っていくのよ。 {/kaeru_en4/}あそこの入口付近にたむろしている中学生たちの中にも将来宇宙飛行士になるやつが出てきた...
7. うたとワオが奏でる物語。~「神童」~  [ ペパーミントの魔術師 ]   2007年05月07日 17:47
普段追っかけるのは最新のJPOP、 それも偏った聞き方しかしてないもんで クラシックはようわかりませんの。 それでもね、素人なりに 同じピアノで同じ曲を弾いても こうも違うんだってのは感じるわけでして。 うたのピアノはすごかったな~。 人が集まってくるのも納得しちゃ...
8. 『神童』  [ アンディの日記 シネマ版 ]   2007年05月14日 13:00
感動度[:ハート:]            2007/04/21公開  (公式サイト) 上品さ [:かどまつ:][:かどまつ:][:かどまつ:]  満足度[:星:][:星:][:星:]   【監督】萩生田宏治 【脚本】向井康介 【原作】さそうあきら 『神童』(双葉社刊) 【時間】103分 ...
9. 【DVD】神童  [ 新!やさぐれ日記 ]   2007年12月12日 21:23
■状況 レンタルDVDにて ■動機 松山ケンイチ&成海璃子観賞 ■感想 成海璃子美人だわ・・・ ■あらすじ ピアノの才能に恵まれた少女うた(成海璃子)は、神童として周囲の期待を背負いながらも自らの才能をもてあましていた。母親との関係や制約の多い窮屈な日...
10. 映画『神童』  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年04月26日 02:12
父親から譲り受けた宿命を背負い、「熱情」や「春の歌」そして竹本泰蔵が指揮するダイナミックな「ピアノ協奏曲第20番」などクラシックの珠玉の名曲たち・・ 水辺にたたずむ成瀬うた(成海璃子)、ボートに寝そべる菊名和音(松山ケンイチ)、女性のヒステリ??は勘...
11. mini review 08281「神童」★★★★☆☆☆☆☆☆  [ サーカスな日々 ]   2008年12月26日 17:34
人気漫画家さそうあきらの同名傑作コミックを原作に、才能をもてあます天才ピアノ少女と、音大浪人生の心の交流をさわやかに描いた感動作。脚本は『リンダ リンダ リンダ』の向井康介、監督は『帰郷』の萩生田宏治が務める。主演はドラマ「瑠璃の島」などで圧倒的な存在感を...

この記事へのコメント

1. Posted by よゆぽん   2007年04月26日 22:24
(* ^ー゚)ノコンニチハ

>貫地谷しほり
今回の口パクはチョットひどかったですね。
歌ってるときは後姿でいてほしかった・・・

>肥大ぶり
禁句かも(笑)
2. Posted by つぶあんこ   2007年04月27日 11:34
歌声は英語の発声なのに、口の動きはカタカナなんですよね。

こうした、特に音楽に関するディテールが、音楽が題材の映画なのにいい加減に感じられる部分が多いのが残念です。

にしても、最近の貫地谷しほりの体型は油断しすぎかと。メジャー仕事が増えてきたんだから、何とかしてほしいもんです。
3. Posted by 咲太郎   2007年05月03日 23:21
確かに物語は飛躍や省略が多く
説明不足な点は否めないですね。
私はもう単純にピアノの演奏の素晴らしさに魅せられました。
貫地谷しほりの使い方は勿体無かったですね。
タイプなだけに残念です。
肥大ぶりも・・・。
4. Posted by つぶあんこ   2007年05月05日 18:25
演奏は良かったですね。だからこそ勿体無いというか。
5. Posted by アキレス   2007年05月06日 11:32
2 はじめまして、こんにちわ。わたしは名古屋近郊在住の男性映画ファンです。ハンドルネームは好きな映画「トロイ」から取りました。もうすぐ発売の「のだめ」DVDBOXを予約しています。テレビドラマのDVDを買うなんて、と最初は抵抗があったのですが、よくよく考えてみたら、出来のいいドラマを無視してまで映画にこだわる理由はないと思いました。さて「神童」ですが、「のだめ」と直接関係はないものの、公開されるタイミングはベストでした。「のだめ」がクラシックドラマを社会現象にまでしてくれたからです。しかしその出来ばえは悪くないものの、後半失速していきます。見る人は当然、「のだめ」と比較してしまうわけで、ある意味不運な作品です。
6. Posted by つぶあんこ   2007年05月07日 17:06
いやあ、題材はクラシックでも、作品としてのジャンルが全然違うので、比較する事自体がナンセンスでしょう。
7. Posted by kimion20002000   2009年01月08日 21:20
僕はさそうあきらの大ファンなので、この映画の尺のとりかた、構成の仕方、脚本の組み立てにはとても不満が残りました。
それにしても、さそうあきら、次々と映画化されていますねぇ。
喜んでいいのか、悔しく思うことが多くなるのか・・・微妙(笑)

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments