2007年04月28日

市川崑物語 80点(100点満点中)

「エヴァのパクリだろ?」 ←(ノ∀`) アチャー
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特徴的なカット割りや照明効果に定評のある映画監督・岩井俊二による、同じく特徴的なカット割りや照明効果に定評のある映画監督・市川崑の、誕生からリイメク版『犬神家の一族』製作にいたるまでの生涯(まだ存命だが)を描いたドキュメント映画。

その誕生から時系列に沿って進められる本作、最初は"現在の市川崑"を一切登場させず、動く"映像"もまた"作品映像"のみに限定し、"当時の市川崑"の姿は、背景と被写体とが微妙にズレていく様にデジタル加工された"擬似的に動く写真"のみで見せられていく。

例外的に、"幼少期の初恋"の回想を岩井俊二が撮った再現映像として見せられるが、この映像がいかにも"岩井俊二が市川崑を意識して撮ったパロディ"以外の何ものでもなく魅入らされる。

"現在の市川崑"の動く映像は、リメイク版『犬神家の一族』撮影現場が見せられる終盤になって、初めて登場する。

この構成は、作品内の時間が"現在"に到達した瞬間を視覚的に納得させ、これまでに綴られてきた"生涯"が、紛れも無く今画面に映っている人物のものであったと深く認識させ、彼に対する感慨を殊更に深くさせる効果として活かされている。

ナレーションではなく、黒バックに白明朝体のテロップのみで"語り"を進行させている手法も同様。

"声"が無い、文字として見せられる"言葉"だからこそ、市川崑の言葉、和田夏十の言葉、岩井俊二のツッコミ、など、あらゆる人物の言葉を観客が自分の脳内で"聞き分け"て再生する。そして"現在の映像"で市川崑の肉声をようやく聞く事で、これまた"現在"へ回帰するのだ。

彼が作り続ける作品の方向性に影響を与える事となる、誕生から成人までを追い、人格形成の過程が綴られる映画序盤には、彼の主として"女性観"が強調される。

「女ばかりの家族に囲まれて育った」の説明に『黒い十人の女』のスチールを重ねたくだりが、彼の人格と作品の関係性を端的に象徴し、パロディ的なお遊びとしても面白く、こうした、岩井俊二が抱く市川崑に対する深い"理解"と"愛情"が、全編通して溢れている事もありありと伝わってきて心地いい。本作、熱烈なファンによる礼賛映画でもあるのだ。

映画会社に就職して最初の仕事となるアニメーション制作、続いての人形劇映画など、現存するフィルムで見せられる実際の作品映像は、やはりどう見ても"市川崑作品"である事がまじまじと伝わってくるもので、その質の高い仕事ぶりには驚嘆させられ、その作品をずっと観ていたい気持ちにさせられるのだが、いちいち全部を観ていたら時間がいくらあっても足りないに決まっているので、これは岩井俊二もまた同様に苦渋の決断で、どのカット、映像を端的に見せるかを選択したのだろうと浮かばされる。

中盤から後半にかけて展開する、公私両面で市川崑のパートナーとなった、妻であり脚本家の和田夏十との出会いから別れまでの展開は、何ともほのぼのしたラブストーリーであると同時に、夫婦二人三脚で作られた映画の数々の足跡とシンクロする、この夫婦でしかあり得ないエピソードと展開の数々には興味を引かれっぱなしとなる。

ここでもまた、夫妻それぞれの人格の差異が作品内で融合し"女性像"となって現われる様が、作品映像を交えながら象徴的に展開されていき、単発エピソードを羅列するのではなく、一本筋の通った"伝記"として本作を構成する、これまた岩井俊二のセンスと理解のなせる技である。

そして、本作が製作される大元のきっかけとも言える『犬神家の一族』オリジナル版のオープニングが流されるに至っては、巨大な白の明朝体が真黒の画面に跋扈するテロップを目にし、大野雄二による流麗なテーマソングを耳にする、これだけで鳥肌が立ってしまう

たとえ市川崑の熱烈なファンでなくとも、映画が好きな大人ならばこのオープニングだけで、本編の映像、演技、台詞など、全てが怒濤の様に脳内で再生される筈だ。それだけの存在感、パワーを、この作品は持っており、それはこの後ダイジェスト的に見せられる本編映像によって、その凄さをより実感させられる事となる。

市川崑、あるいは岩井俊二のファンなら当然ながら必見だが、今まであまり気にかけた事が無くとも、これを観れば間違いなくこの両名に対し著しく興味を引かれ、作品を観たくなってしまう事受け合いだ。映画好きなら絶対に観て損する事は無い。機会があれば是非。


余談:
初期のアニメーター時代のエピソードやディズニーアニメとの関わりが、作中の構成として不可欠に大きく扱われていながら、劇場版『銀河鉄道999』にて監修を務めた事が完全スルーだったのが寂しい。犬神家同様、大ブームを起こした作品なのだから、ちょっとでも触れてくれれば良かったものを。



tsubuanco at 17:52│Comments(2)TrackBack(2)clip!映画 

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1. 市川崑物語  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2007年05月02日 16:36
新宿ガーデンシネマのオープニング作品として、この作品を知り、観ようと思っていたもののなかなかチャンスがなかったのですが、犬神家の一族を観た次の日にチャンスがやって来るなんて、狙ったわけでもないのにいいつながりが持てた。
2. mini review 07266「市川崑物語」★★★★★★★★☆☆  [ サーカスな日々 ]   2008年12月16日 16:21
『スワロウテイル』『花とアリス』などの岩井俊二監督が名匠・市川崑監督の半生を描いたドキュメンタリー。市川監督が自身の同名作品をリメイクした『犬神家の一族』の公開を記念して製作された本作は、市川監督から多大なる影響を受けたという岩井監督ならではの視点で、市...

この記事へのコメント

2. Posted by 勅使河原   2008年03月27日 13:44
和田夏十さんの美しさ、岩井俊二のリスペクト度合い、
市川監督とご家族の生命力にヤられました。


監督の亡くなる前に観ればよかったかも、です。
3. Posted by kimion20002000   2008年12月16日 19:49
すごく愛情を持って、オマージュを捧げた評伝映画ですね。
先日、市川昆さんの展示会みたいな催しに行ったところなんですが、あらためて、いい人なんだなあ、と思い知らされました。

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