2007年04月21日

ルワンダの涙 90点(100点満点中)07-110

よい土人の黒んぼう村 わるい土人の黒ダッチ村
公式サイト

『ホテル・ルワンダ』同様、ルワンダでのフツ族によるツチ族の大量虐殺を題材とした、ノンフィクション風映画だが、主人公がフツ族でそれなりの有力者であり、局地的ながら事態の好転にある程度貢献出来た事で、幾分かの救いが感じられた『ホテル〜』とは全く異なり、白人の神父と教師という、全く無力な"よそ者"の視点で"渦中"が描かれる本作は、その救いの無さと絶望感が比ではなく恐ろしい作品となっている。

ここ近年、アフリカの紛争、内戦を題材とした映画が様々に作られているが、ソマリア紛争を題材とした『ブラックホーク・ダウン』が開放型ゾンビ映画にも似た体裁で作られていた、それに類した例えをするならば、本作は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の様な立て籠り型モンスターホラー映画とでも言うべき体裁となっているのだが、本作がそうした例と決定的に異なるのは、中で立て籠るのも、外で獲物を待ち構えるのも、当然だが双方ともに"普通の人間"である、という一点に尽きる。

もちろん、事実を元にしたノンフィクション風映画であり、現実を訴えかける社会派映画であるという事は言外の大前提として、だが。

序盤の脳天気な"実況"シーンにおいて、"仲間"として描かれていた筈のフツ族青年が、中盤の検問シーンでは"理解不能"な"変わり果てた"存在として登場し、主人公だけでなく観客をも恐怖と絶望のドン底に叩き落とす、この仕掛けこそが、映画全体を支配するムード、方向性を端的に象徴していると言えよう。

主人公が青年の家を訪ねた時、青年の両親が言葉も通じないのに主人公に対し"もてなし"の態度を見せる、極めて"善良"で"素朴"な"人間らしい"有りようを見せておく事で、それとは対極にある、逆の意味での"人間らしさ"が突きつけられる先述の恐怖、絶望とのギャップを最大限に高め、人間の持つ表裏一体の底知れなさを強調する、前段階の準備も抜かりなく秀逸だ。

他にも、教会でのミサ、フツ族政治家の役回りなど、同じ人物、事象が、前半と後半でガラリと変わった印象で対比的に見せられる仕掛けが、ディテールまで徹底されており、観客の絶望感は究極まで増幅されてしまう事となる。

潜在的要因もゼロではないが、そもそもは欧米の支配や搾取によって出来上がった格差こそが、紛争の根源的原因であり、それは国境線が地形に関係なく直線で仕切られているアフリカ地図を見れば一目瞭然だ。そうして元凶を作っておきながら、いざ事が大きくなると偽善的な詭弁を並べ立て、事態の収束どころか放置して逃げる"欧米列強"の無責任さを、TV報道の映像として見せる事で、彼らの"対岸の火事"的な認識を表現し、シニカルな現実として叩き付ける。

教師、報道、軍人など、現場で命懸けで奔走する欧米人達が、自分に出来る事としたい事の落差に苦しみ悩む様と、その"画面内"の模様との対比により、尚一層に絶望感で一杯になってしまう。

実際に虐殺を生き延びた何人かの当事者が、本作のスタッフとして撮影に参加しており、彼らが経験した地獄の様子が撮影現場でのスナップ写真の上にテロップとして表示されるエンディングに至っては、単純な"悲しさ"だけではない、心の底からの涙が観客の頬をつたう他ない。何よりも、その写真に写っている彼らがことごとく笑顔な事が余計に感情を煽るのだ。

そうして、"可哀想な人達"といったわかりやすい要素を前面に押し出して人目を引き、その中に事の本質を考えさせ辿り着かせるための材料も残しておく、バランスの良い構成は見事。これは『ホテル・ルワンダ』も同様だが。

報道や文献などで見聞きしただけで、その恐るべき内容に「信じられない」と引いてしまう事実を、リアルで直接的な映像として生々しく次から次へと叩きつけられ息つく暇もなく追いつめられ続ける本作、かなりの衝撃を受けた筈の『ホテル・ルワンダ』ですら生ぬるく感じてしまう程に、打ちひしがれ立ち直れなくなる秀逸なダウナー映画である。

人として観ておくべき映画、と言って過言ではないだろう。機会があれば是非。


参考リンク: 偉大なる扇動者・町山智浩御大と「ホテル・ルワンダ」と虐殺を考えるブログ



tsubuanco at 14:28│Comments(0)TrackBack(6)clip!映画 

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