2007年05月06日

ストリングス 愛と絆の旅路 90点(100点満点中)

俺は父ちゃんの操り人形じゃないやい!
公式サイト

操り人形が操り人形として存在する、"操り人形の世界"を描いた北欧映画。

"監督:庵野秀明"と宣伝されているが、本当の脚本・監督はアンデルイス・ノルウ・クラルンであり、庵野は日本語吹替えの演出を担当しただけである。

同様に、ジャパン・バージョンと大々的に銘打たれているが、内容はオリジナルとほぼ変わりなく、性描写関連がいくつかカットされている程度の改変にすぎない。

これらは、人形劇という見た目から"子供向け"と取られがちな誤った印象をそのまま押し進め、集客に利用しようとしている配給側の思惑の現われだろう。

実際は少しも子供向けではなく、マンマと騙されて来た家族連れを鬱へと叩き込む、薄暗い画面と重苦しいストーリーが全編を支配している、マニアックでシリアスなファンタジー映画なのだが。

まず何より、作品のキモである"操り人形の世界"の構築が大枠からディテールまで徹底されている事が、本作の第一の見どころである。

普通の人形劇は、人形を使いながら人形である事を隠すために、人形を操作するための仕掛けを極力画面から隠す方向で作られるが、何せ本作は"操り人形の世界"である。人形を操る大量の糸こそが、登場人物が操り人形である事を示すための重要ファクターとして設定され、その糸の存在が、作品世界の有りようから物語の顛末まで、全ての根幹として用いられている、これがタイトル『ストリングス』の持つ意味なのだ。(愛となんたら〜とかいう恥ずかしすぎる邦題は見ない事にして)

人形から天高く伸びる糸、この糸を切られると繋がっていた部分が機能しなくなり、頭頂部の糸を切られると死ぬ、明らかに命と人格を持っているのにやはり"操り人形"として存在する、この矛盾した構図もまた、ストーリー面だけではなく視覚的にも寓話としての深みと独自性を与えており、その着眼点と発想力には感嘆する。

そうして"糸"が実体として存在するため、その世界に存在する様々な事物も、現実とは似て非なる物となっている、世界観を端的に視覚化する設定描写もまた、考えられこだわられた興味深いものが大量に登場する。

例えば、序盤のシーンで降り続ける雨は、主人公達の感情を比喩的に表す、通常の映画と変わらない表現手法だけで無く、全てのキャラクターの頭上に糸が存在するため、この世界の建物に"天井"という概念が存在しない事を、屋内の場面なのに雨が降り注ぐ画面によって観客にわからせる意図が込められていると気づけば、その巧みさには感心してしまう筈だ。

同じく、城門を閉じる場面で見せられる"城門"も、門柱の間を渡す横棒が地面から上に移動するだけと、この世界には侵入を遮るための壁など必要なく、ただ糸を通さないだけで入って来られないのだ、と気づかされ、また唸らされてしまう。

後半に登場する牢獄の描写も同様。各部屋の間仕切りが存在しない大広間が、梁の部分が格子状に仕切られているだけで"個室"となっている。

戦闘に使われる刀剣が、ことごとくカギ爪状になっているのもまた、相手の本体を攻撃するのではなく、糸を切る事が攻撃となる、世界観に特化したデザインである。

この様に、どう見ても人形然としたデザインと造形ながら人形には見えなくなってくる、リアルな動きや演出とは真逆に、あくまでも"糸"に支配された"人形"であると殊更に強調している、先述の通りのこの矛盾こそが、強烈なインパクトとなり本作を忘れ難いものとしているのだ。

また、動きのリアルさだけではなく、いわゆる"人形劇映画"で見られる、舞台を横から撮っただけの様な平面的な構図など1カットたりとも存在せず、通常の実写映画と変わらないドラマティックなカット割りと質感を高める照明効果によって、作品をリアルに体感し、作品世界に没入させる様なされている、芸の細かい映像の素晴らしさもまた、大きな見どころとなっている。

リアル指向で映像を作りながら、王女の腹部に開いた穴越しに背景を映すショットなど、"作り物"である事をハッキリと意識させつつ、世界観の披露としてはやはりリアルである、こうした独自の工夫、観点も決して忘れず、質の向上に利用する姿勢も見事だ。

糸が切られ一切の動きが停止する"死"の描写、それと正反対の、これまた独自の解釈に唸らされる"生誕"の描写と、"糸"と"人形"である事をことごとく利用した生死の様々な表現には目を見張るものがある。特にクライマックスの"燃える糸"の場面などは、これまで積み重ねて来た描写の集大成として、映像的な美しさとともに強烈なインパクトを与えている。

ストーリーは世界各地の神話や伝承など、あるいはウルトラセブン『ノンマルトの使者』や永井豪の『魔王ダンテ』など古今東西に見られる、自陣営が侵略者と、敵勢力が被害者と判明し善悪の構図が逆転する、テンプレート的なものに過ぎないが、善悪逆転の構図を用いながら単純な善悪の二元論に終わらせない、現実感のある世界、キャラクター描写と、本作独自の世界観が加わる事で、そこから更に深化した、人間の根源、世界の成り立ちなどを内包するテーマが込められており、また、最初と最後を主人公の近親の死で重ねるなど、脚本構成的にも考えられており、上辺は単純な物語ながら飽きる事はない筈だ。


あらゆる部分にこだわり抜き、全ての分野で徹底した仕事を追求する事で、単なるアイディア勝負の一発芸に終わらない、上質のファンタジー映画に仕上がった本作。サンダーバードの様な人形劇映像が好きな人なら当然必見だが、硬派なSF、ファンタジージャンルのファンもまた、その作り込まれた世界観を堪能出来、観る価値は充分にあるだろう。機会があれば是非。


余談:
例によって"芸能人声優"を売りにしているが、草なぎ剛は『姫ちゃんのリボン』、香取慎吾は『赤ずきんチャチャ』の頃の下手糞さからは想像もつかないほどに成長しており、今回は特段に気になるミスキャストはなかった模様。


tsubuanco at 12:00│Comments(3)TrackBack(1)clip!映画 

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1. ストリングス??愛と絆の旅路??  [ 週末映画! ]   2007年05月13日 23:16
期待値: 78%  デンマークの操り人形映画。 草なぎ剛,中谷美紀,劇団ひとり,香取慎吾 声の出演。

この記事へのコメント

1. Posted by クリス   2007年05月10日 21:11
今日は〜。

文字通り糸に操られるという着眼点に、哲学的なものを感じました。

最後○の弔いのシーンで、船の出航時のように頭につけた紙テープが手から離れていくシーンも、象徴的でした。

草なぎくんがハル王子に似てたのは、偶然とはいえ、可笑しかったです。
2. Posted by ゚▽゚*   2007年05月14日 10:08
ネタバレが酷すぎやしませんか?
3. Posted by つぶあんこ   2007年05月14日 10:40
偶然、なんですかねえ。
庵野つながりで、実写キューティーハニーのキャスティングが、寺田克也のデザイン画の顔を元に決められたみたいに、コレも人形の顔を見て決まった主演だったりとか。

公開後なのでネタバレは自己責任で。

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