2007年05月14日

俺は、君のためにこそ死ににいく 88点(100点満点中)

君が代の君は二人称の君
公式サイト


特攻隊を見送った側の視点から描いたノンフィクション本『ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子 』を元に、現東京都知事石原慎太郎総指揮により、特攻隊にまつわるドラマを描いた作品。

戦争とは、特攻とは、を、絶対的な真実としてではなく、あくまでもひとつの一面として訴えかける本作、特定の主人公だけを殊更にクローズアップしない群像劇としての作りこそが、まず大きな特徴だろう。

徳重聡や窪塚洋介をはじめとして、ある程度中心的な存在として、いくつかのエピソードを紡ぎ出す人物こそいるが、それらの人物設定や背景などは、あまり深いところまでは語られる事はない。

これは、あえてキャラクター設定に曖昧な部分を残しておく事で、観客自身、あるいは近しい人達と劇中の人物を重ね合わさせる狙いであり、そうして上手く感情移入、同一化を最初から行わされるため、ドラマが特に盛り上がっているわけでもないのに、登場人物達の一挙手一投足にいちいち心を捉えられて自分の事の様に深い感慨を覚えてしまい、序盤の早い段階から最後までずっと泣かせられ通しとなってしまう筈だ。

死を自覚し様々な反応、行動をとる人々の描写に関しても、過去の物語なので時代がかった台詞回しこそあれ、演出的には過剰な煽りを行わせずに、演者の素の感情によって演技させる事を狙っているのだろう。

それは画角を固定した長回しのグループショット、ロングショットを、普通のドラマなら"泣かせ"の決めとなるべき部分に用いている事からも明らかだ。

例えば、朝鮮人隊員が出撃前の夜にアリランの歌を歌う場面や、窪塚が最後の出撃をする際、機に搭乗しようとする彼の後ろから駆けつけた父が、膝をついて両手を合わせる場面などが相当する。

こうした重要な場面に、通常の感動ドラマ演出の様に、それぞれの表情の機微をアップで見せるなどはせず、ひたすらに客観視点で事象を述べていき、時にはメインなはずの被写体からピントが外れてしまっている事さえある程だ。

カットを割らずに長く演技させる事で、演者の感情を一層に盛り立てて、実力以上の表情、表現を映し出し、引いた画角によって観客の視点を限定しない事とも併せ、観客もまたじっくりと、それぞれの見方で劇中人物のその表情の奥の"思い"を推し量り、それによって単なる"可哀想な人を見て同情する"レベルに留まらない、本心からの感慨を引き出されてしまう事となる。

スクリーン内で行われている事はきっかけにすぎず、それを擬似的な追体験として同一化させられた、観客一人一人の心の内にあるものこそが感動の根源となっているのだ。

これはもちろん、解釈の差こそあれ、日本人の大人なら説明しなくとも誰もが周知している題材である、という大前提があればこそではあるが。

そうして、決まった感動や涙を一方的に押しつけるのではなく、観客の自発的なそれを引き出させる、このやり口は石原慎太郎の執筆した脚本によるものがまず大きいと思わされ、やはり氏は単なる"右翼政治家"などではなく、優れたプロ作家でありその面目躍如たる見事な仕事と感服する事しきりだ。

いつもなら、役者や撮影スタッフがどんなに頑張っても、元となる脚本の出来が悪いおかげで、作品全体の出来までダメなものに終わってしまいがちな東映の本篇映画だが、今回は大元がまずしっかりしている事で、その悪癖から救われ、役者や撮影スタッフの頑張りが充分に報われた結果となっているのだ。

死んでいく者だけでなく、残される者のドラマに重点を置き、むしろそうした事後の問題を重視している事も、本作の特徴の一つだろう。それは最初から回想形式で進められ、特攻遂行や終戦にて映画を終わらせるのではなく、終戦後のエピソードにも尺を割いた、本作の構造からも明らかで、その残された人々もまた、多くの死を過去の事実として現在を生きている、観客一人一人に置き換える事が出来る様に描かれている。

彼らの死は無駄死になのか、死に損なった隊員は卑怯者と一瞥されておしまいなのか、そうした、善だの悪だのといった二元論が全くの無意味となる人間の現実を、終戦の玉音放送を聞いて泣き崩れる岸恵子、"軍神"となった息子から預かった筈の軍刀で樹を滅多斬りにして狂乱する寺田農、生き延びたのに生ける屍の様に化してしまう徳重聡と、それぞれ全く違うかたちで見せながら、それもまた、あくまでも客観的な視点に限定する事で、その内面は観客に委ね押しつけないと、狙いが徹底されているのが素晴らしい。

メインの隊員達が総じて長身の俳優で揃えられている事と、奉仕隊、挺身隊として登場する少女達が揃って小柄な事は、同じ画面に男女が映った際に、少女達がいまだ"子供"である事を視覚的に明示する事で、これは若者の非常なる死に際して重要要素となる、性的な匂いを意図的に抑える目的だろう。

女性との関係が深く描かれる、筒井道隆演じる隊員における性描写が、直接的ではないにせよ、観客がしっかりと認識出来る描写がなされ、相手の女性に、戸田菜穂という小柄ではない女優を配して身長差を軽減し、大人であり性愛対象としてふさわしいと示しているのは、当然その反対の作用を意図したものだろう。

その様に、キャスティングまでもしっかり考えられ作り込まれているドラマ部だけでなく、視覚的な見せ場となる戦闘関連の映像もまた、おそらくはあまり潤沢な予算は与えられていないながら、充分に見どころ足り得る特撮映像を堪能出来る。

人物を絡めた合成映像に若干の違和感が残る画面もいくつかあるのだが、上空と海上の双方の視点を切り換えながら、特撮監督・佛田洋の特徴でもある、コックピット内部をローアングルで捉えるカットや、艦上の砲手視線で上空から迫る機を見上げるカットなど、狭くて奥行きのある画角を多用して臨場感を出している。

一方の空関連、上空から艦隊を見下ろす画面では、そこら中から眼前へ飛んでくる砲撃や弾幕のあまりの物量に対し、観客はパイロット同様の恐怖を体感させられる事となるなど、円谷英二時代の東宝戦争映画を意識した様な映像もいくつか見られ、映画好きなら別の意味で楽しむ事も可能。

そうして激戦の模様をより激しく切り取った一連の特撮映像は、単純なリアルさだけではない鬼気迫る迫力を持ち、敵側兵士の映像も時折挿入する事で、特攻だけでなく、戦争がもつ恐ろしい一面を如実に伝える事に大成功している。そこには"勇壮さ"などカケラもないのだ。

特攻や玉砕など、第二次大戦において死に赴いた人々を扱った映画としては、ここ近年に限定せずともかなりの傑作であり、通常バランスの常識と知識を持つ日本人ならば、間違いなく深い思いを抱ける筈。

出来れば劇場の大スクリーンと音響での鑑賞が望ましい本作。興味のある人は是非。



tsubuanco at 17:06│Comments(8)TrackBack(12)clip!映画 

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2. 【2007-67】俺は、君のためにこそ死ににいく  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2007年05月16日 20:28
3 特攻隊員から 母のように慕われた 鳥濱トメさん。 彼女に聞かせてもらった 隊員たちの真実の声。 苛酷な時代を生きた、 美しい日本人の姿を 残しておきたい。 『思い返せば返すほど、み〜んな素晴しか、美しか若者たちでございもした。』 愛する人を、....
3. 俺は、君のためにこそ死にに行く  [ シネマログ  映画レビュー・クチコミ 映画レビュー ]   2007年05月16日 21:32
喧嘩にも負け方があるだと?    ふんっ、負けいくさならするなよ昭和19年(1944年)秋、特攻隊の出撃基地となった鹿児島県知覧町を舞台に、若くして命を散らしていった特攻隊員と彼らに暖かく接して出撃する最後まで見送っていった食堂経営者・鳥濱トメさんとの交...
4. かつての日本人は美しかったの魂  [ 競馬の予備校(・皿・)y━&大人の笑学校 ]   2007年05月19日 12:18
ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子/赤羽 礼子 ¥1,575 Amazon.co.jp 休みの日が『俺は、君のためにこそ死ににいく』の初日上映と重なったので映画館に行ってきた。 石原慎太郎製作総指揮ということで、井筒監督の言葉を借りるならば、どんな「戦争美化映画」に...
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期待値: 76%  石原慎太郎 脚本の戦争映画。 岸恵子、徳重聡、窪塚洋介、筒井道隆 出演。 ストー
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今となっては現職の東京都知事から、美しい日本と美しかった日本の若者達を取り戻すために書いた脚本といわれると、いささか政治的な匂いがしてしまう・・・ 1941年12月日本軍はハワイ真珠湾奇襲に成功するも、1942年6月ミッドウェー海戦に惨敗して背走を続け、1943...
7. 俺は、君のためにこそ死ににいく  [ 映画君の毎日 ]   2007年05月21日 09:03
昨日までこの映画を観たいとは微塵も思ってなかったが、 映画を観に行こうと思いたち予告編を観まくった結果、 どうしてもこの映画が観たくなった。 特攻隊の話、石原慎太郎氏脚本・監修ってことよりも、
8. 俺は、君のためにこそ死ににいく  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2007年05月21日 22:39
知覧特攻平和会館に 行ったのはもう10年前くらいか。周囲は茶畑。この知覧の特攻基地に絡む映画としては高倉健の「ホタル」以来。今度は鳥濱トメさんを菩薩と仰った都知事さん総指揮・脚本、実はこれが石原慎太郎畢生のライフワークなのかもしれない。岸恵子様、お元気そう....
9. 俺は、君のためにこそ死ににいくを観て  [ 「感動創造カンパニー」城北の部屋!仕事も人生も感動だっ! ]   2007年05月22日 00:12
さっそく・・・・・ ゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン ホンダラさん さっそくコメント感謝です
10. 俺は、君のためにこそ死ににいく [映画]  [ mololog(モロログ) -映画レブーとかその他諸々 ]   2007年05月24日 06:39
http://www.chiran1945.jp/ 「俺は、君のためにこそ死に
11. 『俺は、君のためにこそ死ににいく』、長っ!  [ TATSUYAのシネマコンプレックス ]   2007年05月24日 09:25
  『死ににゆく』一枚ください。  大阪梅田のブルク7では、次回上映予定の映画の予告を、待合ロビーのモニターで常時流している。この映画を知ったのは、そのモニターを観てなのだが、『へぇーかなりレベルの高い特撮??menQ
12. 俺は君のためにこそ死ににいく  [ 豪の気ままな日記 ]   2007年07月21日 23:18
俺は君のためにこそ死ににいく→タイトルに込められた意味 評価☆☆☆☆☆ 私がこの作品の存在を知ったのは今から一年以上前に遡る。当時、劇場に見に行った作品の前に予告が流れていたのだ。(と言っても当時はまだ撮影自体始まっていない時期だったらしく満開の桜がスクリ...

この記事へのコメント

1. Posted by ウイングゼロ   2007年05月15日 20:43
5 映画に対して、私よりも辛口評価が多い管理人様がこの作品に高得点を与えているということは、『ウルトラマンメビウス好きな人には悪人はいない』という私にとってのジンクスを証明しています(笑)
ちなみにこの作品の主題歌『永遠の翼』を映画を見終わった直後に購入しました。この曲をEDに流すのは反則だろと言えるぐらい泣ける曲です。
2. Posted by 石原大嫌い   2007年05月15日 23:13
この映画だけは観ないと決めているので、誘惑はやめてください。
3. Posted by ぬぅ   2007年05月16日 15:42
3 確かにエンディングは良かった。
4. Posted by つぶあんこ   2007年05月16日 17:22
B'zがあまり好きじゃないオイラは悪人なんでしょうかどうでしょうか(笑

アンチ石原なら尚更、批判対象をよく知るためにも観ておくべきですよ!
何せ「観ずに批判する奴はアホ」ですからね。
5. Posted by 名無しさん   2007年05月17日 12:00
まるで男塾のような生還エピソードだけ妙に浮いてる感じがしますた。
6. Posted by つぶあんこ   2007年05月17日 17:48
つまり続編の導入部は、

「早いもんじゃのう、あの大東亜戦争からもう一ヶ月か」
「ああ、まったくだ」

ですね。
7. Posted by つかぼの   2007年05月17日 21:33
>つまり続編の導入部は、

>「早いもんじゃのう、あの大東亜戦争からもう一ヶ月か」
>「ああ、まったくだ」

>ですね。

つぶあんこさんの引きだしの多さに全米が震撼したw
8. Posted by つぶあんこ   2007年05月23日 17:31
>全米が震撼

それは、「大した事ではない」という意味ですね(笑

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