2007年05月11日

サン・ジャックへの道 96点(100点満点中)07-130

三人きょうだいとにんげん砲弾
公式サイト

仲の悪すぎる熟年の三人兄弟が、母の遺産を受け取るための条件として聖地サン・ジャックへの巡礼を提示され、嫌々ながら参加するハメになってしまう。彼ら三人と、同行する参加者達それぞれの、巡礼を通じた心的変化を描いた群像劇。

人種も宗教も年齢も社会的地位も全てがバラバラな参加者達は、現在のヨーロッパの縮図としてディフォルメ、記号化されたキャラクターが与えられ、絶対的な指針が存在しない、混沌とした現代の世情を表現しているのだろう。

そんな、世俗的なしがらみや悩みに捕われ振り回され、意思の疎通どころか衝突ばかりを繰り返す彼らが、旅を通じて全てを愛し受容する人間へと変化していく様を、いくつものエピソードを積み重ねる、急激、劇的な変化ではなく、あくまでも少しずつ変容していく構成によって、キャラクターの説明と変化の描写を同時に行う、キャラクタードラマとして最も面白くなっていく手段を、それぞれのキャラクターをリアルに感じ取れる演出、演技で見せている。

途中に乱入者を配置し、その"少しずつの変化"の蓄積が大きくなって来ていると同時に、個人的な変化だけではなく、相互の絆もまた深まっている事を表現するなど、わかりやすさと面白さを両立させるための仕掛けがそこかしこに用意されており、エピソードの密度はかなり濃いのだが、完結性と連動性もまた両立されているため、少しも詰め込みすぎとは感じないのだ。

各人物の性格、人格の根本は変わらないままながら、それでも明らかに旅の前とは全く変わっていると観客に伝える展開は、自己啓発セミナー的なインチキ臭さを限りなく抑え、同じく"リアルな人間の成長"を描くもので、秀逸なバランスが感じ取れる。

その変化の表現は、言動、表情などはもちろんとして、ひたすらに大自然を歩き続ける、その風景の映像的な切り取り方でも表現され、彼らの心に余裕ができていくに連れ、風景の美しさがより広い画角でゆったりと映し出されていき、観客もまた、人物同士のドラマばかりでなく、世界そのものを受け入れて楽しむ様に変化していく事となる。

一方で、出発点のカトリック教会で参加者達がそれぞれ託した"願い事"を、シスター達が検閲、選別するシーンや、スペインの教会に宿泊を申し出た時の神父の対応など、博愛と寛容を提唱すべき筈の宗教家達が、狭量で偏向した"正義"を狂信しているにすぎない、とアイロニカルに笑いものにしてコケにする構成はあまりに痛快。

これは一義的な"宗教批判"や"唯物論"というものではなく、宗教や信仰とは、決まりきった形式よりも、己の内にあるものこそが大切なのだと、アラブ人少年がカトリックの聖地の石碑の上に立って「アッラーアクバル!」と叫ぶ、旅の前とは意味が全くの正反対となった"混沌"を視覚的なインパクトとして提示する場面などを通じ、寛容、博愛、融和の重要性を突きつけている。

旅が進むに連れて、既存の宗教の存在が意味をなくしていくのと平行して、参加者一人一人が抱いていた無用なコダワリもまた意味をなくしていき、一人一人の中でより尊いものが生まれていく、と、単純に記号化された筈のキャラクターを用いながら複雑に計算され尽くした、あらゆる展開、構成、手法において、既存宗教と個人の心を対比や相似として絡めあわせて物語全体をかたちづくっている、無駄の全くない完成度の高さは素晴らしいの一言につきる。

戯画的、寓話的に物語を進めてはいるが、あくまでも現実の普通の人間を描いた映画ながら、登場人物達が眠っている時に見る"夢"は一転して、CGや特撮を駆使したシュールでアーティスティックな映像群として視覚的な楽しみどころとなり、それだけではなく、"現実"においては深いところまで説明がされない、各人物の背景や過去、抱えている悩みの本質を、荒唐無稽にディフォルメされた夢の表現として観客に伝え理解を深めさせ、キャラクタードラマとしての物語をより一層楽しませる狙いが成功している。

笑えるほどにイヤな奴ら、という、インパクトの強いキャラクタードラマでまず楽しませて感情移入させ、終盤では逆に、"いい話"を連発してギャップを強めて感動させるのだが、決して過剰な感動の押しつけは図らずに、むしろドギツさがどんどん優しさへシフトしていく様は、劇中人物と作品ムードにおいてこれまた平行しているのだ。

宗教的テーマを高次元に昇華した思想性を確固たるものとして提示しながら、決して結論を押しつける様な真似はしないという、相反する狙いをも両立させている事もまた、同様の狙いであり、だからこそ観客はテーマをより深く見つめ直す事が出来るのだろう。

人間の対立、宗教の対立をアイロニカルに描きながらも、決して後味は悪くないどころか、あまりにもサワヤカな気持ちで劇場を後に出来る、上質なキャラクター・ロードムービーである。

映画好きなら必見。機会があれば是非。



tsubuanco at 17:40│Comments(1)TrackBack(6)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2009年01月08日 21:46
>上質なキャラクター・ロードムービー

僕もとても感心しましたし、うまいなあ、うまいなあ、と見ながら何度も呟きました。

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